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52.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 魔術の練習中のアリス。桃子たちが、それを見かねて助けに来てくれた。

 そして、「あまりもの組」には新たな依頼が……。

「——分かったかも。アリス、難しく考えすぎなんじゃない?」


 アリスから一通り、彼女自身が思う魔力について聞いたセレナは、パッと顔をあげた。


 ちなみに、この難しい会議に飽きたらしいアダンは、お昼寝中だ。


「あ、それはあるかもな」


 ユーゴもそれに賛成して、アリスを見つめた。


「お前、変に真面目なんだよ。先生たちに言われたこと、そのまんま受け止めてただろ」


「だ、だって! その魔力の波が分からないと、魔術が使えない訳でしょ?」


「でも、俺らはそんなこと考えながら魔法と魔術を使ったことなんて、一度もないよ」


 衝撃の事実に、アリスはあんぐりと口を開けたまま、閉まらなくなってしまった。みんな、魔力を感じ取って、それに合わせて呪文を唱えていると思っていたのに。


「いや、アリスちゃんの考えは間違ってないんだよ」


 桃子が、すぐさまフォローを入れてくれた。


「魔術を使う時は、その時の魔力の波長に自分のものを乗せるイメージって、私もニャットくんたちに言われてる。でもさ、ほら……。うーんと、何て言えばいいんだろう!」


「……呼吸と一緒」


「それ! さっすが、俊宇!」


 桃子は俊宇に拍手を送ってから、改めてアリスと向き直った。俊宇は長いこと喋りたがらないので、代わりに説明するためだ。


「アリスちゃんさ、これまで生きてきた中で一度も『空気だ! 酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出さなきゃ!』って思ったことないでしょ?」


「うん」


「もっと言うと、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すって、意識してすることじゃないじゃん」


「それは、まあ」


「魔術も一緒。魔力は体が自然と取り込んでいるから、あまりにも自然なこと過ぎて感じるのが難しいんだよ。先生たちも一緒で、説明するとなると、どうしても教科書的になっちゃうんじゃないかな」


「じゃあ、どうすればいいの?」


 ここまで魔力を感じ取るにはどうすべきかと悩んできたのに、急に意識しないというのも難しい。


 すると、セレナが首を傾げた。


「アリスの部屋って、どうやって作ったの?」


「作ってないよ。ただ、パウラに言われた通り部屋に挨拶しただけで」


「使ってるじゃない、魔術」


 セレナの指摘に、アリスは目を丸くした。確かに、道具を使ったわけではないので、あれも魔術の部類には入るだろう。


 だが……。


「私はただ、名乗っただけだよ?」


「それは、アリスの魔力が強すぎるからよ。私たちは、ちゃんと呪文を唱えたわよ? 『思い浮かべた部屋になれ!』って」


「そうそう。形式通りの呪文を唱えるだけだぞ」


 ユーゴまでそういうので、アリスの頭はついに動かなくなってしまった。


「……ランフォード、想像力が足りないんじゃ?」


 口元を隠す俊宇は、アリスを見つめて小首をかしげた。


「……魔力のことばっかで、……イメージが薄い。……だから、失敗する」


「そう言えば、私もお父さんに『魔術はイメージが大事だよ』って教えてもらったなぁ」


 桃子はそう言って、うんうん唸り始めた。


「イメージ出来ないことは、魔術にできないんだって。あ、絵を描くのと一緒だって言われたんだった! ほら、描きたいものが無いと絵って描けないし、色も塗れないじゃん。逆に、イメージさえできればアリスちゃんは最強ってことじゃん!」


「確かにね。アリス、前にルイーズの魔術を防御魔術で跳ね返したじゃない。あの時、魔術を確かに使ってたけど、あれはどうしたの?」


 突然のセレナからの問いに、アリスはしどろもどろに答えた。みんなが出してくれる例えが、あまりにもストンと腑に落ちていくから、驚いて。


「魔術実技の時、パウラがやってたの。それを思い出しながら……。そう言えば、パウラも『魔術は想像力』って言ってた気がする」


 それに、アリスがこっちに来る直接のきっかけとなった、車を一時的に止めた事もこれで説明がつく。


 何度も何度も、車が止まるように念じていた。シャラにぶつかる前に止まる瞬間を想像しながら。そして、シャラを車の前からどかして、その止まる瞬間のイメージをやめたから、車はそのまま……。


「そっか。私、難しく考え過ぎてただけなんだ……」


 自分の手のひらを見つめ、アリスはポツリと呟いた。みんなが言っていたことは、何一つ間違ってなどいないし、ヒントはこれまでにいくつも転がっていた。


「じゃあさ、実験でアダンくんのこと、浮かせてみない?」


「いいな、それ。ずっと寝てばっかだし」


 桃子とユーゴがニヤリと悪い笑顔を交わしたのは、見なかったことにして。


 アリスは、気持ちよさそうに眠るアダンに向かって両手を向けた。


「“アリス・ランフォードが命じる。アダン、浮きなさい”」


 アリスの手のひらに魔法陣が浮かび上がり、そこから放たれた光がアダンの体をふわりと浮き上がらせた。アリスが思い描いたように、地上から三十センチほど上をフワフワと。


「で、できたー!」


 思わずアリスが立ち上がったのと入れ替わって、アダンは激しく地面にたたき落された。


「ご、ごめん、アダン!」


「え、な、何? 何が起こったの? あ、アリス。調子はどう?」


「……さすが、トゥータン」


 ボソッと呟いた俊宇に、みんなは一斉に頷いた。


 とはいえ、みんなのおかげで何とかなりそうだ。


 次の魔術実技の時間、アリスが拙いながらも魔術を使っているのを見て、メアリーは飛んで喜んでくれた。


「——そう。それじゃあ、桃子たちに感謝しないとね。ともかく、おめでとう、アリス。アゴーナスまでに、何とか形になって本当に良かったわ!」


「はい、先生!」


 ひとしきりアリスと喜んでから、メアリーは白い封筒を取り出した。


「新しい依頼。アリスも魔術が使えるようになったし、丁度良かった。はい、やりたい人」


 一斉に五人は手をあげて、今回もパウラが代表して依頼書を受け取った。


 今回の依頼は、他のチームと一緒に行う合同依頼だった。依頼内容は「白い森付近に現れる狼から畑を守る」というものだった。なぜか、この依頼内容を聞いてからレオが暗い顔をして、一人で考え事をすることが増えた。


 そして、一緒に依頼に当たるのが……。


「話はパウリンヒェンから聞いてる。よろしくな」


 人の言葉を話すシロクマを前にして、アリスは倒れそうになってしまった。


 作戦会議ということで、アリスたちは相手チームの部屋へと赴いていた。理由は、相手の方が先輩だから。そして、全員が中級魔術師だから。


 だが、まさかドアを開けてくれたのが五歳ほどの少女とシロクマだなんて、誰が想像できただろう。


「しゃーおらん!」


「ちょ、ぐふっ!」


 ドアを開けてくれた少女は千夜族(ちやぞく)で、やはり皓然を知っているらしかった。そうでなければ、勢いよく飛びつくなんてことはしないだろう。


 それも、あの皓然が倒れこむほどの勢いで。


小然(シャオラン)、よわーい! 桜花(インファ)、つよーい! ルカ、見てたー?」


「見てたから、皓然の上から退いてやれ」


 シロクマに指示され、少女は唇を尖らせながら、目を回している皓然の上から降りた。


 その時、アリスは初めて気づいた。千夜族の少女は、中級魔術師の階級章を付けている。


「お兄ちゃん、魔術師になれるのって十三歳からだよね?」


 アリスがレオに耳打ちすると、兄は「特例だよ」と肩をすくめた。


「ここは、ルーカス・ツヴィングリがリーダーのチーム。初代『あまりもの組』だよ。俺らは二代目。俺らより、メンツも濃いから」


「レオ、しつれーだよ!」


 少女は腰に手を当て、黒い瞳でレオを見上げて睨みつけた。


「桜花は立派なお姉さんなの! あと、ルカもサラも、変わってるけど悪い人じゃないもん!」


「別に、桜花たちを悪い人だって言ったわけじゃないよ。でも、確かに失礼だな。ごめん」


 素直にレオが謝ると、少女はニコリと微笑んだ。なんだか、誰かに似ている笑顔だ。


「いいよ、許してあげる! ねえねえ、アリスでしょ? 髪の毛、キラキラだね! 桜花ね、キラキラ大好き!」


「あ、ありがとう……」


 アリスが苦笑いを浮かべたところで、シロクマが扉を大きく開けて部屋に入って行った。どうやら「中に入れ」ということらしい。


 このチームの部屋は、随分と変わっていた。リビングの半分、ベランダ側にあるのは大きな水槽だった。それも、ベッドやらソファやらが置いてある、生活感あふれる水槽。


 何だか違和感があり、アリスはその水槽に触れ、違和感の正体に気付いた。


 水を入れる容器がないのだ。水槽に触れたつもりが、アリスの手は水の中に入ってしまった。どうやら、魔術か何かで水の形を保っているらしい。


「こんにちは」


「あ、こんにち……」


 声をかけられたアリスは、思わず固まってしまった。水槽の中にいる女性と目が合ったからだ。


 耳はまるで魚のヒレのようで、足が無い代わりにキラキラ輝く青い尾びれ。こちらも青く、長い髪を緩くまとめたその人は、アリスに笑いかけた。その人の胸にも、中級魔術師の階級章。


「あはは、ビックリだねぇ。私も陸に上がってもう六年だもん、この反応には慣れてるから分かるの。大丈夫、水の中に取り込んで殺すなんてしないよ! ……聞いてる?」


「お、お、お兄ちゃ……」


「はいはい。まずは落ち着こうか、アリス。ごめん、サラ。コイツ、まだ慣れてなくてさ」


 レオがサラと呼んだのは、人魚だった。アダンだって会った時にびっくりしたのに、人魚まで出てきた。いや、いることは分かっていたのだが、いざ目の前にすると、改めて驚くというか……。


 黒いソファに座らせられたアリスの膝に、あの少女が慣れた様子で腰を下ろした。皓然が慌てた様子で「ちょっと!」と怒ってもお構いなしだ。


「あのね、あのね! 桜花ね、黄桜花(フアン インファ)っていうの! 小然の姉さんなんだよ、よろしくね!」


「へ、あ、よろしくね。アリス・ランフォード、だよ」


「桜花姉さん、アリスが困ってるから降りてください!」


「わあ、皓然がボケてるー……」


「アリス。お願いだから、しっかりしてくれ……」


 パウラはそういうが、アリスの頭はもうグルグルだ。


 だって、どう見ても五、六歳の女の子が皓然のお姉さんで、皓然もその子を「姉さん」と呼び、人魚が水槽の中を悠々と泳いでいて、シロクマが人の言葉を話していて……。


 もう、何が何だか分からない。


 パウラに肩を揺さぶられながら、アリスはしばらく乾いた笑いをこぼしていた。

お読みいただきありがとうございました!

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