49.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
依頼の犯人は、バンシーという妖婆だった。バンシーによると、なんだか不吉な出来事が起こるらしい。依頼人を守るため、アリスたちが打った手は……。
捕まったバンシーというのは、本当に老婆のような姿をしていた。違いと言えば、耳が尖っていて、目が真っ赤であること。そんな妖婆は、涙を流しながら「可哀そうに、可哀そうに」と繰り返していた。
「今晩、強盗に襲われて命を落としそうになって、可哀そうに……」
「この声です!」トンプソン夫人は勢いよく立ち上がった。「この声だわ! ずっと聞こえていたのは、この声です! でも、どうして……」
「可哀そうに……。ご主人、私を置物と間違って買った町で、流行り病もらっちゃうなんてねぇ。可哀そうに……。ああ、可哀そう。魔術師に捕まった男二人は、舌を噛み切って留置所で死んじまうんだ。可哀そうに、可哀そうに……」
バンシーはそう予言していたが、皓然がメアリーに状況を説明し、捕まった男二人が舌を噛めないようにして欲しい、とお願いした瞬間、ぱたりと強盗たちのことを言わなくなった。
代わりに、今度は「病で死んじまう」と言って涙を流し出した。
「三丁目の爺さんは病でこのまま回復せずに死んじまう。あああっ! 四年後にゃ、この国で多くの命が失われる! なんて可哀そうなんだい、何て可哀そうに……!」
そんな不吉な予言を聞いて、アリスたちがモヤモヤしないわけがなかった。それで、「四年後には何があるのか」と何度聞いてみても、「遠いからハッキリ見えないんだよ。ああ、可哀そうに、可哀そうに」というだけだった。
今晩のことも色々と聞いてみたが、バンシーは今晩強盗がやってくることしか教えてくれなかった。
そんなバンシーは森へ返されることになったのだが、ここで一つ手を打つことになった。
——その日の晩。
トンプソン夫人は台所でワインを一杯だけ煽ってベッドに入った。部屋の明かりを落とし、ベッドサイドのオレンジ色の光に照らされながら読み物をしていると、ドアがノックされた。
「はい、どうしたの?」
「お、お、奥様……。お助け下さい……」
「その声、ロアね。一体どうしたって言うの……」
夫人がドアを開くと、そこにはナイフを首に突き付けられたメイドと、全身黒ずくめで、大きな腹を突き出した人相の悪い男がいた。
「ああぁ……っ!」
「よう、ばあさん。有り金全部出しな。アンタが旦那の財産、全部相続したことは分かってんだよ」
「そ、その前にロアを放して……」
「命令するなぁ!!」
「は、はいぃぃ!」
夫人は震える手で金貨がたっぷり入った財布を男に渡した。
「チッ、この程度かよ。おい、召使どもを殺されたくなかったらもっと金を出せ」
「あ、あああ、あと、は、銀行に……!」
「なら降ろしてこいよ!」
「で、でも、こ、この時間じゃ閉まってて……!」
「あーあ」
男はナイフを横に引き、首から血を盛大に吹き出したメイドから手を離した。血しぶきを浴びながら、腰を抜かした夫人に近づいていく。男が歩く度、ゴツ、ゴツ、と重めのブーツの音と、血を踏む音が鳴った。
「ひ、ひぎゃぁあ……」
「るっせぇババアだなぁ!」
夫人を捕まえた男が血でぬらぬら光るナイフを振り上げた時だった。
「そこまでだ」
男の後頭部に、固いモノが押し付けられた。筒状で、この感覚は恐らく——拳銃。
少しだけ振り向くと、さっき殺したはずのメイドが男の後頭部に拳銃を突きつけていた。不思議なことに、メイドの首からはまだ血が吹き出しているし、女の声から男の声に変わっていた。
「ナイフを捨てて、ゆっくりと両手を肩の高さまで上げろ」
「お、お前……! なぜ……」
「死んでないから生きてるに決まってるだろ。ほら、早く」
男はナイフを捨てて、ゆっくりと両手を肩の高さまで上げた。
それを見てから、メイドは「夫人」と相変わらず男の声をあげる。
「動けますか? 這って、ベッドの陰から出ないようにコイツから離れてください。そうですね、そこのドレッサーの影まで」
夫人は震えながらうなずき、指示された通り四つん這いでゆっくりとドレッサーの陰に隠れた。
その瞬間、部屋に銃弾が飛び込んできた。すさまじい音を立てるそれは、家をどんどんハチの巣状にしていく。
それなのに、メイドと男には傷が一切なかった。弾は全て、二人まであと五センチほどの所で止まっているからだ。
「さて、犯人その二」メイドは自分を襲おうとしていた弾を全て叩き落した。「このまま俺が術を解くと、弾はお前に当たる。どうする、大人しく投降するか?」
「そ、そんなことしねぇ!」
「何で?」
「あ、兄貴を裏切るなんて、俺はそんな薄汚ねぇことはしない!」
「お前、今その兄貴に薄汚いことされそうになってたけど。俺がいなかったらお前、死んでたよ?」
男が黙ったのを見て、メイドは肩をすくめて「後は頼んだぞ」と襟元に話しかけた。
「そう、二時の方向。アダンなら余裕だろ。シルフに助けてもらえ」
「アダン? ——アダン・トゥータン! お前、王宮魔術師か!」
「そう、正解。不法侵入と殺人未遂の現行犯で逮捕する」
メイドは男に手錠をかけると、足も縛って床に転がした。おまけに、男の上に自分の使い魔を寝かせて動きを完全に封じ込める。
「赤いライオン……! お前、レオ・ランフォードか!」
「そういうこと。ちなみに、アルの毛を採取しても無駄だぞ。俺らには黒魔術を跳ね返す特別な術がかかってる。俺らを呪おうとしたら、その呪いはそっくりそのままお前に返ってくるからな」
「クソッ! 兄貴……!」
「兄貴は逃走したってよ」
それを聞いて、犯人の男はやっと観念した。
その時、その「兄貴」と呼ばれる方の男は急いで馬を走らせていた。真夜中だが、さっきの銃撃のせいで周りの家々の明かりが付き始めているのがまた、男には不都合だった。
男は、左手をケガしていた。手に深々と突き刺さった矢は、抜くことが出来なかった。あまりにも深く突き刺さっていたから。これでは銃を撃つことも、魔術師どもを殺すこともできない。これは一度、作戦を立て直さねばならない。
ところで、さっきから聞こえてくる叫び声は何なのだろうか。うるさくて敵わない……。
突然、男は何かに後ろからグイッと引っ張られた。馬から引きずりおろされ、馬は一人で蹄の音を鳴らして走り去っていく。
「何……」
「おじさん、つっかまーえた!」
男を捕まえていたのは、びしょ濡れのまま、ニコニコ笑う小さな女の子だった。白と黒のリボンでツインテールにした、まだまだ幼い少女。しかし、その小さな体がまとっているのは王宮魔術師の制服だ。胸元に飾られているのは、中級魔術師であることを示す、羽を模した階級章。
「お前……!」
「随分と手こずらせてくれたな。アエラス王宮魔術師だ、大人しく投降しろ」
馬が走り去った方向から、茶髪の青年が現れた。眼鏡の奥で紫色の瞳が細められ、彼の胸でも中級魔術師の階級章が街灯に照らされてキラッと輝く。
「連続殺人強盗事件の件も聞かせてもらおうか。零時十八分、住居不法侵入罪、及び銃刀法違反の現行犯で逮捕する。これでやっと、俺らもゆっくり眠れるってもんだ」
「クソが……!」
男は拳銃を取り出そうとするが、腕を掴んでいる小さな手がさらに力を入れてきたから、骨からミシミシと嫌な音が鳴りはじめた。
「ぐぅ……っ!」
「おじさん、逃げるの? ダメだよ。悪いことしたら、ちゃんと『ごめんなさい』しなくちゃ! 桜花が教えてあげようか?」
「やっぱり、黄桜花……!」
男は手錠をかけられたあとも逃走を図ったが、少女によってあっけなく馬車に突っ込まれてしまった。
「——もしもし。ああ、捕まえたよ」
男を乗せた馬車が去ってから、魔術師の青年は男が乗っていた馬を撫でながら電話していた。
「依頼人は無事か? ……そうか。さすがだな、パウリンヒェン。……うん、こっちも怪我は無し。桜花が怪我なんてするわけないだろ。したとしても、痛みに鈍感なんだから気付きやしないよ」
「ルカ、ひどーい! 確かに、痛いのわかんないけどー!」
「桜花ちゃん、夜中だから静かにね」
水の泡に入った人魚にそう諭され、少女は頬を膨らませたものの静かになった。
青年はその二人を見て肩をすくめてから、「そういう訳だから」と電話の向こうにいる妹に語り掛けた。
「お前らのおかげだよ、ありがとう。おやすみ、パウリンヒェン」
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