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48.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 初めての依頼に行くことになったアリスたち。パウラたち先輩は、この依頼の犯人に心当たりがあるようだけれど……?

 初めての依頼で緊張していたのと、疲れすぎていたのもあって、アリスはあまり眠れないまま初めての依頼を受けることになった。


 お昼を取ってから、アリスたちはそれぞれの準備が終わってから門をくぐった。今回の門は依頼で外出するとき専用の門だ。城の裏口に繋がっていて、そこから馬車に乗って依頼人の元へ行く。今回は依頼人の自宅に。ただ、城の豪華な馬車では依頼人のプライバシーを守ることができないので、国中で普及しているような一般的な幌馬車だ。初めての幌馬車に、アリスは依頼のことも忘れて興奮していたけれど。


 今回の依頼人、ペネロペ・トンプソンの家は、静かな住宅街にあった。綺麗で豪華な家が多いのは、お金持ちの住宅街だからなのだとレオが教えてくれた。依頼人の家は石造りの三階建てで、緑の蔦が絡んでいて、玄関先には可愛らしい花が揺れていた。


 アリスたちを降ろした馬車が行ってから、パウラは呼び鈴を鳴らして「ご依頼をいただきました、王宮魔術師です」と名乗った。


 しばらくして出てきたのは、初老の女性だった。短い白髪に色の暗い緑色の瞳。身に着けている装飾品は控えめなモノばかりで、雰囲気の柔らかい人だ。


 女性はアリスとレオを見て「あら、まあ」と口元を隠してから、「ようこそいらっしゃいました」と門を開けてくれた。


「さあ、どうぞ中へ」


「ありがとうございます。お邪魔いたします」


 家に案内されたアリスたちは、品の良いリビングに通され、お茶を出された。それにお礼を言いつつ、自己紹介をして手帳を見せた。まるで警察のようだとアリスが思っていたのは、みんなには内緒だ。


「——まあ。やはり、あのランフォード家の」


 やはり、女性は驚いていた。


「ああ、申し遅れました。私、ペネロペ・トンプソンと申します。本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうござます」


「いえ、そんな。国民の安全を守るのが、我々王宮魔術師ですから」


 パウラはにこやかな笑顔を浮かべ、依頼主のトンプソン夫人を安心させるよう、ゆっくりと優しい声音で言った。


「では、早速ですが、ご依頼についてお話しいただけますか?」


「は、はい。……実は、どうやら二か月ほど前からこの音は始まっていたらしいのです」


「らしい、というのは?」


「先月亡くなった私の夫が、亡くなる二か月前に『何か聞こえる』と言い出しました。でも、私や他の使用人たちには聞こえませんでしたから、あまり気にしていませんでした。しかし、夫が亡くなって、思い出の詰まったこの家に住み続けていたら、一か月ほど前からでしょうか、私にも聞こえるようになったのです。夫も言っていたような、誰かが叫び泣いている声です。納屋から聞こえたのですが、見てくれた使用人たちは『何も無かった』と。しかし、その泣き声はだんだん強くなってきていて……」


「ふむ……」


 メモを取っていたパウラは皓然たちと目配せしてから、「いくつか、質問させていただきますね」と依頼人を見つめた。


「奥様。それはいつ聞こえますか?」


「絶えず聞こえてきますわ」


「夜中、寝ていたとしても目が覚めるほどですか?」


「ええ、そうなんです。おかげで夜も眠れなくて……」


「やっぱり」


 メモを置いたパウラは「今すぐ、その原因を捕まえましょう」と言って見せた。


「え、ええ! お願いします! でも、一体何なのでしょう……」


「恐らく、バンシーかと」


「バ、バンシー?」


「ええ。何か持病はお持ちですか?」


「いいえ」


「そうですか。——ああ、いえ。ちょっとした確認です。申し訳ございませんが、奥様はここに、アリス・ランフォード魔術師と、アダン・トゥータン魔術師、それから私と一緒に残っていただきます」


 それに大人しくしたがって、残り二人がメイドの案内でリビングを後にしてから、パウラは「いただきます」と断ってからお茶を飲んだ。


 それから彼女は、揺れるお茶を見つめ「バンシーというのは」と口を開いた。


「死を予言することのできる、妖婆です。ご存知でしょうか?」


「話は聞いたことがありますが……。わ、私は死ぬのですか……?」


「このままでは、恐らく」


 その言葉に、依頼主だけでなくアリスまで顔を真っ青にしてパウラを見つめた。まさか、依頼人にそんな簡単に残酷なことを言ってしまうとは思っていなかった。


「だから、確認させていただいたのです。持病はあるか。もしお持ちなら、今すぐ入院された方がよいかと思いました。しかし、持病をお持ちではない。そして、お家に問題も見受けられない。お家の状態維持魔術はきちんと作動していますからね。なら、考えられる可能性は二つ。何かに襲撃される。または、災害に巻き込まれる、です」


「ど、どうすれば良いのでしょう!?」依頼主は終に涙を流した。「使用人たちを巻き込む訳にもいきませんし、私はまだ死ぬわけには……! 私はどうすれば良いのですか!?」


「落ち着いてください、奥様」


 パウラは立ち上がり、夫人の足元に膝をついたと思ったら、震える手を握って優しく微笑んだ。もう一度「大丈夫」と繰り返す。


「先ほども申し上げましたように、あなたたちを守るのが王宮魔術師です。私たちが必ず、お守り致します。ご安心ください」


「は、はい……」


 そこで、アダンが「あ」と声を漏らした。


「何かが来る……。この感じ、皓然たちと妖精。多分、バンシーを捕まえたんだ」


「え?」依頼主は戸惑った声をあげた。「でも、あの声は聞こえないわ……」


「ということは、あなたの判断は正しかったようです」


 ドアを開け、泣いている老婆を連れて現れた仲間たちを見せたパウラは、驚く依頼主をもう一度を見つめた。


「まずは、このバンシーから詳しい話を聞き、対策を練りましょう。ご安心ください、必ず、あなたをお守りすると誓います」


***


 魔術実技の休憩中に飲み物を部屋に取りに行こうとした桃子は、思わず目を見張った。


 アエラスのものではない制服を着ている男の子がいたからだ。少なくとも、アエラスにはセーラー服を制服にしている人はいない。アエラスに海は無いからだ。しかも、年は自分とそんなに変わらないように見えるのに、彼の階級章は恐らく中級魔術師であることを示していた。貝殻を模した階級章の中には丸くカットされたサファイアが二つ入っていたから。


 見つめ過ぎたのだろうか、その少年は桃子の存在に気付くとずんずんと近づいてきた。


「君、千夜族(ちやぞく)だね」


「え、あ、はい」


「なら、皓然を知っているだろう? アイツは今、どこにいるか知っているかね? 連絡がつかなくて困っているのだよ。レオかパウラでもいい」


 随分と変わった話し方をする人だ。茶色の前髪に隠されていない右目は、美しいとび色をしていたが、鋭い光を宿していた。


「然兄……、じゃなくて、皓然先輩たちがどこにいるのかは、分からないですねぇ……。あ、お部屋にいるんじゃ?」


「実は、部屋が何号室か分からなくてね。教えてもらってもいいかい?」


「えーっと……」


 見知らぬ人に、部屋の場所を教えていいものか……。


 桃子が頭を回していると、たまたまヒューがそこに通りがかった。


「おや」


「お久しぶりです、ベーコン先輩」


 少年はヒューにお辞儀するが、そのヒューは「そんなかしこまらなくていい」と少年に顔をあげさせた。


「先輩、この人のことを知っているんですか!?」


「知ってるも何も、ネロの中級だ。ランフォードたちと仲が良いし、優秀な魔術師だ」


「ほえぇ……」


 桃子はまじまじと噂の少年を見てしまった。ヒューを先輩と言ったことと、階級が中級であることを踏まえると、恐らく二年生だろう。


「それで、どうしたんだい?」


「仕事でこっちに来たので、せっかくなのでレオたちに会いに来ました。噂の妹も来たらしいので、挨拶も兼ねて」


「ああ、そういうことか。残念だけど、彼らは依頼中だよ。俺からも君が来たことを伝えておこう」


「いえいえ、そんなお手を煩わせるわけにはいきません」


「遠慮するな。俺も、彼らには用事があるんだ。そのついでだよ」


「しかし……」


「シオン、お待たせ。帰ろうか」


 そこに中年の女性がやってきた。こちらもセーラー服姿だ。しかし、桃子には見覚えのない女性だ。階級章は、貝殻の中に水晶が三つ。上級だろう。


「おっと、お話し中だった?」


「いえ、問題ありません。ベーコン先輩、やはりぼくから連絡してみますので、お気になさらないでください。では、失礼いたします」


 少年は上級魔術師と一緒に去って行った。


「先輩、あの人は一体誰なんですか?」


「ネロ王国のミシャ・ノイマン上級魔術師と、その付き人のシオン・ハイド中級魔術師だよ。ちなみに、ハイドは一年生で中級に上がった天才児。去年のアゴーナスの団体戦で優勝したチームの一員だ。敵に回すと厄介だぞ」


 桃子が再び驚きの声をあげていると、ニャットが迎えに来てくれた。休憩時間が終わっても帰ってこないので、探しに来てくれたらしい。


「あれ、ヒューと一緒なんて珍しいね」


「ハイドがいたから、紹介してやったんだ」


「あ、なるほどね」


「ごめん、ニャットくん。時間までに戻れなくて」


 桃子が謝ると、ニャットは「仕方ないよ」と許してくれた。


「お客さんの応対をしていたんだから。でも、良かったね」


「何が?」


「シオンと会えたのはラッキーだよ。あの子、いつも使い魔の特性を使って姿を見せてくれないからさ」


 その言葉に、桃子は別の衝撃を受けていた。


 使い魔の特性を使うと、それなりに魔力を持っていかれてしまう。桃子の人形たちも使い魔に近い部分があるから、それがどんなに辛いことかは身をもって知っている。


 それを常時行っているのは、凄いことだ。それこそ、寝ている間も修行しているような、相当過酷なことで、並みの魔力レベルではこなせないことだ。


 もしかしたら、そんな超人とアゴーナスで戦うことになるかもしれない。


 桃子の背中に、冷たい汗が流れた。

お読みいただきありがとうございました!

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