45.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現,、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
魔力レベルのテストと、家系特性のテストを受けている真っ最中のアリスたち。
だが、アリスは検査薬を飲み込めず、吐き出してしまう。それに追い打ちをかけるように、今度はルイーズたちが絡んできて……。
——結局、あの鉄は何だったんだろう……。
そんなことを思いながら、アリスは次の部屋に向かった。だが、一人ずつ見ているせいなのか、あと十人分ほどアリスは待たなければならなかった。
アリスより先に部屋に入って行ったクラスメイトたちの反応は違っていた。喜んでいたり、泣いて出て来たり。
家系特性という存在を最近知ったアリスには、なぜみんなが一喜一憂しているのか点で分からなかった。
そうこうしているうち、桃子もやってきた。彼女も相当酷い目に遭ったのか、どこか疲れ切った顔をしていた。
「私、もう家系特性が分かっているのに、これ受けないといけないんだって」
水を飲みながら教えてくれた彼女に、アリスは「そうなの?」と首を傾げた。それから、買い物へ行った時に桃子が家系特性という言葉を言っていたことを思い出した。
「桃子の家系特性って、何なの?」
「『人形作家』。斎家の特性で、自分が作った人形に魂を入れることができるんだよ。一種の契約魔術なんだけど、魂が黒魔術に転用されないよう、人形に入れてあげるの。代わりに、人形の中の魂たちは成仏するまでの間、私に力を貸してくれるんだよ」
「じゃあ、いっつも抱っこしてるあの人形たちって……」
「うん、魂が入ってるよ!なんかね、お母さんの真似して出来るかなーってやってみたら、出来ちゃったんだよねぇ」
何だか怖い人形だとは思っていたが、本当に怖い人形とは思っていなかった。
アリスは自分から聞いたくせに、苦笑いを浮かべて「そうなんだ」としか返すことが出来なかった。桃子には悪いが、話題を変えさせてもらおう。
「そういえば、あの部屋から出てきたら泣いてる子もいてさ」
「ああ。もしかしたら、お家の家系特性じゃなかったのかも。その家の特性を受け継いだ子じゃないと家を継げないとかあるらしいし。この世界は基本、婿を取ることがほとんどだから、もしかしたらお母さんじゃなくてお父さんの特性だったのかもね」
「桃子の『人形作家』は?」
「お母さんの特性だよ。だから、私は無事に斎家を継げる予定。泣いてる子もいるのなら、あんまり大きな声では言えないけどね」
それに頷いたところで、アリスの番がやってきた。
除去室とは違い、今度は占いの館のような部屋だ。あちこちに布が張られた暗い部屋で、噂のジャーダ先生が水晶玉の向こうでアリスを待っていた。
「待っておったぞ、ヘレナとカイルの娘よ……」
フードを目深にかぶったジャーダは、ガラガラ声でアリスを自分の向かいに座らせた。水晶玉に、ジャーダの緑色の瞳が映っている。随分と年老いた先生だ。
「さあ、この水晶に手をかざすのじゃ」
言われた通りに手をかざすと、ジャーダがうなり始めた。
「複雑……。複雑じゃ。こんなことになったのは、ヘレナの家系特性を鑑定した時以来じゃ。お前さんは兄と同じく、『百発百中』が使えるじゃろう」
「じゃあ、私もランフォード家の『百発百中』なんですか?」
「そうとは言い切れぬ。お前さんはブラック家の『自己成就』も使える。ああ、だが分かってきたぞ。お前さんがハッキリと見えない理由は、お前さんの中にありとあらゆる魔術が入っておるからじゃ」
「どういう意味ですか?」
「分かりやすく言おう。一枚の紙に文字をいくつも書いていけば、紙はどんどん黒くなっていって、ついには読めなくなるじゃろう」
アリスが頷くと、ジャーダは「それじゃ」と大きくうなずいた。
「お前さんの中にはいくつも魔術が入っておる。家系特性かどうかも分からぬが、それらがお前さんを読むことを邪魔しておる。結果は、『不明』じゃ。しかし、これではお前さんも、ツヴィングリの娘も困るじゃろうて。一番近い回答をお前さんに授けよう——」
部屋から出てきたアリスは、桃子と軽く挨拶をして教室に向かって歩き始めた。
「——あらぁ、ランフォードさんじゃありませんこと?」
聞きたくもないその声に肩を震わせ、アリスは思い切り顔をしかめ、ゆっくり振り向いた。不愉快極まりないことだが、これが誰の声か瞬時に判別がつくようになってしまった。
まだ出会って一週間なのに。
「ルイーズ……」
「まあ! 平民ごときが侯爵令嬢を呼び捨てだなんて!」
キンキン声で笑うルイーズとその取り巻きたちと、暗い表情のセレナ。
アリスの中で、パウラたちが立てた仮設が顔を出した。
首謀者はルイーズで、実行犯はセレナ説。
ルイーズは確かに侯爵令嬢で、取り巻きたちも伯爵令嬢や子爵子息。だが、セレナだけが平民身分だ。平民たちを見下しているルイーズたちがセレナを取り巻きに入れている理由は、汚い仕事をさせるためではないか。……というもの。
この世界で鞭を使う人は限られている。御者、農家、遊牧民族……。その中に貴族は入っていない。だが、セレナは遊牧民族の出だった。
つまり、本当にルイーズたちが企てていることなのであれば、謁見式の日、アリスに怪我をさせたのはセレナで間違いない。だが、セレナがアリスを攻撃する理由はないので、逆らえない人に指示されていると考えられるらしい。
それから、セレナが鞭を持っていた理由。それは、もしかしたらセレナの家系特性が関係しているのではないか。パウラたちはそう言っていた。遊牧民族は家畜たちを従わせるため、鞭や笛などを使って、動物に言うことを聞かせる特性を持っていることがほとんどらしい。
セレナの家系特性が鞭を使うものであれば、この仮説がグッと確証に近づく。
「——で? あなた、家系特性は何だったのかしら」
「……『自己成就』だけど」
「まあ、可哀そうに! 金髪なのにランフォード家の特性を引き継げなかったのね!」
「ルイーズ様、所詮は平民ですもの。平民には平民の家系特性がピッタリなのですわ」
「お兄ちゃんたちも平民身分だけどね」
アリスの指摘に、取り巻きの一人は顔を真っ赤にしたが、アリスは素知らぬ顔で教室へと歩き始めた。
セレナの家系特性を知るにも、ルイーズたちが近くにいては聞き出せないだろうから。
「——卑しい孤児の子供のくせに」
その言葉に、アリスの足はピタリと止まった。試験薬を飲んだときに暴れ回った何かが、膨らんでいくのを感じる。だが、今のアリスはそんなこと等どうでも良かった。
アリスはまだ、ヘレナとカイルのことをあまり知らない。ルイスとヘレナがどうして平民身分なのかも知らない。
だが、親を貶されたことだけは良く分かった。
射殺してしまいそうなほどに鋭いアリスの視線を受け、取り巻きの女子が体を強張らせた。さっき、アリスが揚げ足を取って差し上げた女の子だ。確か、ウェーバー伯爵の娘で、名前はアメリ。アメリ・フォン・ウェーバー。
そのアメリでなくても、他の取り巻きたちも体を強張らせた。これにひるまなかったのは、ルイーズただ一人だけだった。
笑いをひっこめたルイーズは、他よりも前に出て来てアリスと真正面から睨み合った。
「あなた、今目の前にいるのが誰なのか分かってるの?」
「もちろん。クラスメイトでしょ?」
「別世界人って言うのは、こんなにもお行儀が悪いのね。可哀そうに、自分の立場も分からないだなんて。哀れだわ」
「哀れんでくれてどうもありがとう。でも、身分で人にマウントを取るのって、とても幼稚だね。あ、そっか。身分でしかマウント取れないんだ! 自分のご先祖様たちの栄光に縋り付くこと以外、誇れることないんだね! うわぁ、可哀そう……」
オーバーにルイーズに憐みの目を向けると、彼女の口から舌打ちが漏れた。
アリスだって、こんなルイーズを怒らせたかったわけではない。ただ、我慢の限界だったのと、怒りを抑えることで精いっぱいだったのとで、自分の感情がコントロール出来なくなっていた。
それでも、冷静に。絶対にアリスから攻撃は仕掛けないように心がけていた。仕返しをしてしまったら、絶対にアリスはたたでは済まない。
とはいえ、ここまで煽るつもりは無かったのだけれど。
火花を散らし始めたルイーズに微笑んで見せて、アリスは踵を返して歩き出した。ここでルイーズとにらみ合っていたって、時間の無駄だ。
「“ルイーズ・ド・フレースが命じる”」
妙に澄んだその声に、思わずアリスは振り向いた。ルイーズはアリスに向かって魔法陣が浮いた両手を向けている。
「“ぶっ飛べ、アリス・ランフォード! 私の前から消えなさい!”」
ルイーズが放った赤黒い魔力の塊はアリスに向かって一直線に飛んできたが、アリスが作り出した防御魔術によってそれは弾かれてしまった。
明後日の方向へ飛んで行ったルイーズの魔術は、天井に当たると術者本人へと跳ね返って行った。
「ルイーズ様!」
呪文通りぶっ飛んで行ったルイーズの元へ取り巻きたちが走って行く中、セレナだけはアリスのことを見つめていた。
「なに?」
「あ、あの……っ」
「何事ですか」
セレナが何か言いかけたところで、ダリアがやってきた。その後ろには桃子。どうやら、アリスたちがバチバチしているのを見て、ルイーズたちを止められる上級魔術師を連れてきてくれたらしい。
「アリス・ランフォードです!」
取り巻きたちは伸びたルイーズを介抱しながら、口々にアリスが悪いのだとダリアに訴えた。アリスが魔術でルイーズを攻撃したのだと。
「アリス・ランフォード。本当ならば、百ポイントは没収しなければなりませんよ」
「誓って、私は何もしていません」
そう証言したところで、一対大多数だ。普通ならば、アリスが罰を受けるだろう。
普通ならば。
「証拠はあります」
アリスは懐からボイスレコーダーを取り出した。
「全て、ここに録音してあります」
念のため、とレオに渡されていたのだが、まさか本当に役に立つとは思っていなかった。それに、パウラたちの入れ知恵も役に立ちそうだ。
「まだ証拠が足らないのでしたら、ここの魔力痕を調べていただいても結構です。私は防御魔術しか使っていません。私が弾いたルイーズの攻撃呪文は天井に当たって、なぜか彼女に当たったんです」
「……王宮には、攻撃魔法を受けたら術者に反射する特別な魔術がかけられています。本当にあなたが防御魔術しか使っていないのならば、魔力痕を調べる必要もありません。そこでルイーズ・ド・フレースが伸びていることが、彼女が攻撃呪文を唱えたことの、なによりの証拠です」
その言葉に、取り巻きたちは揃って顔を真っ青にした。ルイーズが悪いことがバレてしまったし、アリスがボイスレコーダーを提出すれば、自分たちがどんな言動をとっていたのかも知られてしまう。そうなれば、虚偽発言の罪で罰はもっと大きくなる。
取り巻きたちの予想通り、ボイスレコーダーをアリスから預かったダリアは、ルイーズを医務室へ搬送するように命じ、アリスたちは尋問室へ連れてきた。
ルイーズが呪文を唱え始めたところでボイスレコーダーの再生を止め、ダリアは取り巻きたちに「どういうことか、説明していただきましょうか」と冷たい視線を向けた。
取り巻きたちにとって都合の悪かったことは、アリスがこの一週間にされた嫌がらせの証拠写真を出してきたことだった。桃子がダリアを連れてきたことも、アリスが証拠写真やボイスレコーダーを持っていたことも、想定外だった。
だが、彼女たちには切り離すことができるしっぽがある。
「それ、私たちがしたんじゃないです。全部、この子がやりました」
「ほう。——セレナ・リラ・コルデーロ、そうなのですか?」
アメリに売られたセレナは、小さな声で「はい」と罪を認めた。
「なぜ、こんなことを?」
「それは、……ランフォードさんのことが、気に入らなかったからです。入試一位で」
その発言にはアリスだけでなく、ダリアも眼を細めた。
「その言葉に、嘘偽りはありませんか?」
「……はい」
「そうですか。アリス・ランフォード、斎桃子。あなた方は教室に戻って結構です」
そのまま、アリスと桃子は部屋の外へ半ば無理やり追い出されてしまった。
お読みいただきありがとうございました!




