38.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
謁見の間で、魔力を暴走させてしまったアリス。被害は身近な人たちだけでなく、その場にいた全員に及んでしまった。てっきり怒られると思っていたアリスだが……。
「やはり、あの子は素晴らしい力を持っているんだ」
「こっちに帰ってきて正解よね。別世界で腐らせるには惜しいもの」
「全く、あの子を別世界で育てようだなんて! ランフォード夫妻は一体何を考えているのかしら!」
「これでこの世界も安泰ですわ」
「ああ。やっと、ヘレナをどうにかできるよ」
「この国はもう一度、英雄を生み出せるのね」
そんな声が聞こえて来て、アリスはギクッと体を再びこわばらせた。
両親から聞いていたではないか。この世界の人々は、アリスがヘレナを殺すことを望んでいるのだと。今の事故を誰も責めないのは、アリスの能力が彼らの合格ラインを超えたからだ。
だから、レオたちは浮かない表情をしていたのだ。
アリスの表情が強張っていることに気付いたレオが、声をかけようとした時だった。
「怪我をされた方はいらっしゃいませんか?」
よく通る、男性の声が広間に響き渡った。
ハッとして、その場にいた人たちのほとんどが広間の奥に向かって頭を下げた。全員ではなかったのは、声の持ち主が誰か分からず、その正体に行きつくまでに時間がかかったからだ。アリスと桃子も、そのうちの一人だった。
だが、その人の金色の髪と、青い瞳を見て慌てて跪いた。
アエラス国王だ。慌てていたからよく見ていないが、かなり若い。
「みなさん、顔をあげて。そして、まずは自分の場所に戻りましょうか。怪我をされた方は、すぐに名乗り出てください」
国王のその丁寧な呼びかけに、人々は自分の持ち場へとどんどん戻って行った。
レオたちも、そっと耳打ちした「大丈夫か?」という問いにうなずいたアリスを、心配そうに見つめながら。
全員が持ち場に戻り、そして怪我人もいないことも分かると、再び国王に向かって跪いた。正確には、国王と王妃、そして王妃の膝に座る幼い姫君に。
国王は再びアリスたちに頭をあげるように指示すると、宰相に謁見式を始めるように促した。その後ろには、無表情なガブリエルがいた。白い鎧姿の祖父は、まるで別人のようだ。
鼻眼鏡をかけた厳しそうな初老女性は、軽く咳払いしてから壇上に上がった。
「それでは、これより三六二三年度、謁見式を行います。最初に、陛下からのお言葉を頂戴いたします」
国王は立ち上がると、今年の新入生たちを見つめた。
「先ほどは、みなさん驚いたことでしょう。しかし、それで彼女らを責めてはいけません。新卒の魔術師というのは、まだ魔力の制御が難しい。それを責めるのは、心の狭い人間がすることです」
その言葉に、周りが頭を下げたので、アリスたちも習って頭を下げた。
国王は再び顔をあげさせると、今度はその厳しかった表情を和らげた。
「では、注意事項はこれくらいにして。新卒魔術師のみなさん、登城おめでとうございます。励ましの言葉を言いたいところですが、あなたたちには、これから数々の危険が降り注ぐことでしょう。それが現実です。魔術師というのは、危険と隣り合わせの職業です。あなた方が、無事に卒業することを、心から祈っています。あなたたちは学生であり、この国の民を守る存在です。国民がいるから、国は回る。確かに、国民は国の宝です。しかし、あなたたち一人一人もまた、我が国の民、宝そのものです。国民を守るあなたたちを、上級魔術師の先生方が守り、先生方を守るのが、私の役目です。互いに助け合うこと。そのことを常に心に留めていてください」
広間にいた全員の「誓います」の言葉が響き渡って、国王からの言葉は終わった。
次は、ついに階級章の授与式だ。
再び壇上に上がった宰相は「名前を呼ばれた者は前へ」と前置きしたのち、新入生の名前を読み上げ始めた。
何の試練か、推薦で登城した生徒たちから。
「推薦入試第一位——」
入試なんてしていないのに、入試というらしい。それも、知らない間に順位まで付けられて。
アリスが呑気にそんなことを思っていると、「アリス・ランフォード」と名前を呼ばれた。
「……はい?」
「推薦入試第一位、アリス・ランフォード。さあ、陛下の御前へ」
「え、は、はい!」
——第一位!? しかも推薦枠で!?
混乱していたのもあるが、周りに動きを合わせようと思っていたアリスは、ギクシャクと国王の前へ進み出た。
国王一家へまずは一礼。右にいる偉い大臣たち、左にいる偉い貴族たちに、それぞれ一礼。そして、国王の前へ一歩前進。
近くで見ると、アエラス国王はアリスが思い描いていた王と全く違っていた。
まず、若い。年は恐らく、ルイスたちと変わらない。それから、衣装が派手。アリスたちも着ている魔術師の制服の上に、重たそうな白いマントを付けているし、頭には白鳥を模した王冠が乗っている。
だが、ユーゴから聞いていた通り、優しそうな国王だった。さっきの騒ぎの時も、一番に怪我人の有無を確認していたくらいだ。
「“アエラス国王ゼノ・アエラスの名において、アリス・ランフォードをアエラス王国初級魔術師として任命する”」
国王の声が、妙に澄み切っていた。
その声は光の粒となり、羽を形作っていく。
光り輝くそれは、アリスの胸元へと飛んでいき、「パチンッ」という音と一緒に周りの光がはじけ飛んだ。
そこには、あの羽の階級章がついていた。羽は一枚。根元に埋め込まれている宝石は、何とダイヤモンドだった。
呆気にとられていると「久しぶりだね」と国王から小さな声で話しかけられた。
「は、はいっ」
「そう緊張しないで。……さっき分かったと思うけれど、この世界では君に希望を抱いている者も一定数いる」
左右をチラリと見て声を潜めた国王は、アリスの瞳をまっすぐに見つめた。
「君は、自分で道を切り開いて歩いて行ける子だ。友人、仲間、家族。縁ある人達を大事にしなさい。君が苦しい時、必ず彼らは君を助けてくれる」
「はい……」
「そして、私も君と縁ある人間だ。これからどうぞよろしく、アリス」
「よ、よろしくお願いします」
差し出された国王の右手に驚きつつも、アリスはその手を握った。握手を求められたのに、それを拒否するだなんて無礼極まりないはずだ。
握手を終えたアリスは、さっきと同じ流れで各方向にお辞儀してから、元の場所に戻った。
緊張は抜けなかったが、妙に国王からの言葉が胸に染み込んでいくのを感じていた。自分の石がダイヤモンドとは、露にも思っていなかったけれど。
「推薦入試第二位、アダン・トゥータン」
「はい」
なんと、アダンは二位らしい。
アダンは意外とアリスよりも丁寧、かつ滑らかに決められた動きをし、無事に階級章をもらって隣に戻ってきた。彼の石は、恐らく水晶だろう。
そして、推薦入試第三位は、セレナ・リラ・コルデーロという女の子だった。確か昨日、アダンが教えてくれた子だ。茶色の髪を一つにまとめた、とび色の瞳を持つ大人しそうな子。推薦というくらいなのだから、彼女も国から直々に声がかかったことになる。もしかしたら、彼女も何か特別な家系か、力を持っているのかもしれない。
推薦枠で入学した三人がこれで出揃った。次は、一般入試で入学した人たちだ。こちらも順位が高い順に呼ばれるらしかった。
「一般入試第一位、ユーゴ・プィチ」
「はい!」
意外な名前にアリスが思わず顔をあげると、どこか得意げに笑う彼と目が合った。階級章の授与もつつがなく終えた彼は、顔をキラキラ輝かせながら戻ってきた。
それから、俊宇が三位、桃子は六位と、どんどん授与式は進んでいく。
最後の二十七人目が元の場所に戻って、授与式は終わり。国王一家の左右にいた偉い人達の紹介も終われば、国王一家と彼らはここで退室となる。
見送るため、アリスたちは音楽隊のラッパの音が鳴り終わるまでずっと頭を下げていた。
「——では、注意事項を申し上げます」
国王一家とともに部屋を出て行った宰相に代わり、ダリアが壇上に上がった。
「まず、魔術師になった、あるいは魔術師である。その自覚を持ってください。問題行動等起こさぬように。第二に、再起不能の怪我を負わせること、黒魔術に手を出すこと、相手を死傷させることなど、法に触れる行為も禁止です。当たり前ですね。第三に、新卒の方々へ。あなたたちはこれから、魔術師として活動していきます。良い成績や行動、依頼の達成など、優れたことをすればポイントがたまります。このポイントで昇級などが出来ますので、積極的に集めるように。逆に、このポイントが年度末に最低基準に達していない場合、強制退学となります。気を付けましょうね」
入学してそうそう説明されたその内容に、アリスは音を立ててつばを飲み込んだ。ただ、学生として生活しているだけではダメらしい。
それからも、ダリアの注意事項は続いた。外出日と依頼以外で王宮の外へ行くのは禁止、依頼内容は他言無用、依頼などで得た情報を第三者へ開示するのは禁止、その他諸々……。
長い注意を終え、ダリアはここで次の仕事へと取り掛かった。そのために、まずは二年生以上の生徒たちへアナウンスを。
「新人を迎えるつもりのないチームは、ここで解散。それぞれの教室へ戻り、自習していなさい」
そう、チーム分けだ。
ぞろぞろと新人を迎えないチームの生徒たちが出て行くと、急にガランとした雰囲気になった。恐らく、先輩たちの半分ほどが出て行ってしまったのだろう。
「さあ、新人の皆さん。自分の入りたいチームの所へどうぞ。あなた方だけで作っても構いません。メンバーが確定したら、申請書を出口の機械に入れて魔力認証してください。終わったら、そのチームもそれぞれの教室へ。一年生は教室で待機していなさい」
それにアリスが思わず首をかしげると、それが見えたらしいダリアが「新卒のみなさんに言い忘れていました」と付け足してくれた。
「これまで、あなた方がいたチームはこちらで考えた編成です。これからもそのチームに留まるのか、新しく別のチームに入るのか。それはあなた方の自由です。なお、チーム編成は後からも行えます。例えば、一年生の間は先輩と同じチームで、二年生から自分たちだけで新しくチームを作る、ということも可能です。ただし、チームは依頼や魔術実技だけでなく、生活を共にすることになります。チーム実績等だけではなく、雰囲気や先輩、担当の先生の研究分野等を考えたうえで入ること。よろしいですね?」
一年生たちが返事をした所で、やっとチーム分けに移ることができた。一年生たちはそれぞれ、入りたいチームの元へ動き出した。人気のチームだと、希望者が殺到して話し合いや面接等も始まった。
そんな中、アリスは迷うことなくパウラたちの元へ向かった。やってきたのは、アリスとアダン。この二人だけだった。
「おかえり」
新人二人に笑顔を見せ、パウラは腰に手を当てた。
「うちは花形チームでもないし、のんびりやって行こう」
「なんでそんなこと言うんですか。その通りだけど」
皓然は頬を少し膨らませたが、レオは楽しそうに笑った。
「いいじゃんか、『あまりもの組』っぽくってさ。それに、新人はこっちの方が絶対にやりやすいだろ。そんな危ない依頼も来ないし、そこまで忙しくないし」
「これまでほぼ二人体制だったから、それはそれで大変だったけどね」
肩をすくめたパウラに見つめられ、アリスとアダンは「よろしくお願いします!」と笑顔で挨拶を返した。皓然とレオの二人もそれに返してくれた。
お読みいただきありがとうございました!




