20.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
明日の「お使い」に向け、売店に向かったアリスとパウラ。途中で合流したニャット、桃子とともに買い物の練習を終えたが、アリスには不思議に思っていることがあった……。
アリスと一緒にしばらく手を振っていたパウラは、桃子とニャットの二人が見えなくなると「元気な子だなぁ」と、手を降ろしながらポツリとこぼした。
「千夜族なのに、ボクにあんな親しくしてくれるなんてね」
それを聞いて、アリスの頭に疑問符がいくつも浮かんだ。
「ねえ、パウラ。今日、ニャットも言っていたんだけど『千夜族』? って、何なの?」
「——この世界の、優等種のことさ」
薄く笑ったパウラは、そのままアリスを連れて部屋ではなく談話室にやってきた。
夕食後の時間ということもあって、人はまばらだ。それなのに、パウラはわざわざ奥の席に腰を下ろし、アリスにも席を勧めた。
アリスが席に着くと、急にテーブルをシャボン玉が囲んだから、アリスは思わず肩を跳ね上がらせてしまった。
「ごめん、ビックリさせたな。ここは、秘密の話をする時に使う席なんだ。だから、盗み聞きされないよう、こうやって盗聴防止の魔術が作動するんだ」
パウラは背もたれに体を預け、寂しそうに笑った。
「あんまり、人に聞かれない方がいいからさ。あのさ、別世界には差別ってあるのか?」
「差別? えっと、人種差別とかってこと? それならあったよ。人の肌の色で差別するの」
「肌の色で? どういう色の人が優位なんだ?」
「私やパウラみたいに、色素が薄い人。でも、黒人って呼ばれてる肌が黒い人とか、黄色い肌の人は、差別されてる。黒人は昔、奴隷にされてたんだって。差別をなくそうって動きはあるよ。でも、どうして?」
「いや、別世界だったらボクはきっと『あまりもの組』じゃないんだろうな、って思って」
パウラの深緑の瞳に、アリスの顔が映し出された。
「この世界は魔術が全てだ。優位に立っている順に言えば、魔術師、魔法使い、非魔術師、対魔術師。非魔術師は、魔力を扱うことができない人。別世界人みたいなもんだな。そして、この世界で忌み嫌われているのが、……対魔術師。対魔術師は魔力そのものを受け付けない体質なんだ。魔法や魔術はもちろん使えないし、効果もない。魔法がかからないんだ」
「えっと……。それじゃあ、対魔術師の人は最強なんじゃないの? だって、呪いも効かないんじゃないの?」
「まあ、そうだね。でも、この世界の八割が魔力発現者だ。その人たちからすれば、魔力を受け付けないなんて気持ち悪くて仕方ないんだ。だって、魔法や魔術、呪いで殺そうとしても殺せないんだから」
「こ、殺……?」
「あ、極端な例だよ」
怖がるアリスを見て、パウラは慌てた様子で体を起こした。
「えっと、予備知識はこれっくらいでいいかな。『千夜族』っていうのは、皓然やニャットみたいな人のことを指すんだ。黒髪黒目で、なんかこう、顔の彫りが浅くって、背が低くて、童顔の。あ、悪口じゃないからな?」
「あ、うん。分かってるよ」
そう言いながら、アリスは心の中で「つまり、アジア人を千夜族っていうんだろうな」と思っていた。よく考えれば、『アジア』というのは別世界の大州だ。魔術界人のパウラが、その言葉を知っているわけがなかった。
パウラはアリスの言葉にホッとしたように胸をなでおろした。
「千夜族は、魔力発現者の中でも特に質の良い魔力を持っている一族なんだ」
「一族?」
「ああ。千夜族は、みんな血縁関係にあるんだ。とはいっても、二十三の家しかないけどね。その二十三の家同士で結婚を繰り返して、血と魔力を濃くしてきた歴史がある。その本家に当たるのが君もご存知、黄家」
アリスの頭に、幼い笑顔を浮かべる少年の顔が浮かんだ。
「『黄』皓然……?」
「そういうこと」
パウラは軽く肩をすくめた。
「アイツ、魔術師として一級品の血筋なんだよね。とはいえ、そのお父さんが勘当されてるんだけどさ」
「勘当?」
「えーっと……。皓然の爺さんと、皓然の父さんが親子関係を切っちゃったんだ。だから、アイツは貴族の血を引いてはいるけど、平民身分なんだ。そうじゃなくちゃ、小人に育てられることは無かっただろうね」
そう言えば、レオも「皓然は小人に育てられた」と言っていたような気がする。あの時は、とにかく目の前で起こっていることを処理するので精一杯で、そこまで気が回っていなかった。
「話がズレたけど、千夜族っていうのは、皓然たちのことを指すんだって覚えておけばいいよ。身体的特徴はさっき話した通り。もう一つの特徴は、とても魔力レベルが高いってこと」
「ごめん、魔力レベルって?」
「ああ、そうだね。『魔力レベル』っていうのは、魔力の強さを表すんだ。魔力の量、魔力の質を元に一から十五までの数字で表すんだ。数字が大きければ、その人の魔力は強くなる。つまり、強力な魔法、魔術をかけることができるんだ」
「なるほど……」
アリスはメモ帳にペンを走らせた。レオに頼んで、買ってもらったメモ帳だ。新しく知った情報をここに書き込んでいるのだ。
「じゃあ、皓然たちは魔術師のエリートってわけだね」
「そうだね。君らもそうだけど」
肘をつき、パウラは羨ましそうにアリスを見つめた。
「黄家だけじゃない。ランフォード家も、ヒューのベーコン家も、上級魔術師を数多く輩出している『上級魔術師家系』だ。いいかい、魔術って言うのは血筋なんだ。強い魔術師同士の子供は、決まって出来の良い魔術師になる。つまり、これがどういうことか分かるか?」
アリスが素直に首を左右に振ると、パウラは小さく息を吐きだした。
「さっきも『この世界は魔術が全て』って言ったろ? この世界の貴族も、政治家も、偉い人たちのほとんどが上級魔術師家系の人だ。非魔術師や対魔術師は、どんどん肩身の狭い生活を余儀なくされていっているんだよ」
それを聞いて、アリスはやっと合点がいった。だから、パウラは最初に「別世界に人種差別はあるか?」と聞いてきたのだ。
どうやら、この世界では魔力云々で人を差別しているらしい。
何と言えばいいのかわからず、アリスが黙りこむと、パウラはわざと明るい声で「さあ、勉強はこれでおしまいだ」と笑顔を見せた。
「どこで誰が、何の話を聞いているか分からないからさ。皓然も、こういう話が苦手だから部屋でも話せないしね。それで急にここに連れて来ちゃったってわけ。さあ、もう帰ろうか。ボクの話に付き合ってくれて、どうもありがとう」
パウラが立ちあがると、周りを囲んでいたシャボン玉がはじけ飛び、外界との境界線が消えた。
帰りは、静かなものだった。お互いに口を開くことが無かったから。
だが、部屋の前について、ドアを開ける直前。パウラが「なあ」と小さな声をあげたのだ。
「さっき、売店で桃子と恋愛魔術がどうこうって、話してただろ」
聞かれていたことに驚き、アリスが目を見張っていると、パウラは初めて冷たい瞳でアリスを見つめた。
「絶対、深入りしてはいけないよ。君らはまだこの世界のことを何も知らないんだから。もし、何かトラブルに巻き込まれたらボクらの誰かに知らせること。絶対だよ」
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