19.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
伝統の「お使い」に行くアリスが、レオは本当に心配で仕方がないようで……。
そんなやり取りは耳に入っていないのか、レオは相変わらずアリスの方を向いて浮かない顔をしていた。
「アリス。明日は本当に気を付けて行けよ」
「分かってるよ。お兄ちゃんてば、随分と心配性だね」
「いや、だって……。そもそも、お前、この世界で一度でも買い物したことあるのか?」
そう言われてみれば、一度もない。これまでは、他のみんなが買い物をしている様子を、ただ見ているばかりだったから。
「じゃあ、アリス。急で申し訳ないけど、今から買い物練習してみるか?」
だから、パウラのこの提案を蹴る理由が見つからなかった。
今日は皓然が夕飯を作ってくれるので、それまでの間、アリスとパウラの二人は王宮の中にある売店に行くことにした。
「——あ」
「あー! アリスちゃん!」
何と、その売店で桃子とニャットの二人と出会ったのだ。相変わらず、桃子は怖い人形を胸に抱いたまま。
「……と、えっと?」
「初めまして。ボクはパウラ」パウラは桃子に笑顔を見せた。「ニャットのクラスメイトで、皓然のチームメンバーでもある。今日の昼間は、顔を出せなくて悪かった」
「ああ! 然兄……、従兄の皓然から、お噂はかねがね伺っています! 斎桃子です、よろしくお願いします」
「アイツ、一体何を言ってたんだか……」
パウラは肩をすくめはしたものの、ニャットに笑顔を見せた。
「君らも買い物練習か?」
「うん。やっぱり、練習しておきたいだろうからさ」
ニャットも笑顔でパウラに返しているのを見て、アリスの頭に疑問符が浮かんだ。
自分たちは『あまりもの組』なんて揶揄されているはずだ。そのことは何度も言われてきた。だが、目の前にいるニャットはむしろパウラと親し気だ。とても、周りから非難されている人相手と話しているようには見えない。
そんなことを考えていると、桃子に「あのさ」と小声で話しかけられた。
「アリスちゃんは『運命の赤い糸』って知ってる?」
ここに来る前、まさに赤い毛糸の話をしていたものだから、アリスはドキッとした。だが、桃子が言っていることは知らないので、それは素直に「知らない」と首を左右に振った。
「なに、それ?」
「左手の小指に、自分の運命の人と繋がってる赤い糸が結ばれてるっていう、まあ恋の伝承みたいなやつ。俊宇の所だと、足首に赤い縄が結ばれてるんだって」
「え、それ本当にやってるの?」
「まさか! 本当にそんなことしてたら、あっちこっちが赤い糸と縄だらけになっちゃうよ」
「それはそうだけど……。それで、その伝承がどうかしたの?」
「実はね」より一層、桃子は声を潜めた。「この王宮に、恋愛魔術に手を出そうとしている人がいるんじゃないか。——って、ニャットくんがうちの他三人のチームメイトと話してるの、聞いちゃったんだ」
「恋愛魔術?」
それこそ、魔術師だの魔法使いだのがやっているイメージがある。だが、桃子が声を潜めているから、あまり褒められたことではないのかもしれない。
「どうして、そんな話になったの?」
「何でも、この王宮のあっちこっちで、切られた赤い糸とか毛糸とか縄とか、見つかってるらしいよ。こっちの世界だと、邪視から身を守るお守りに使われるんだけど、切るなんてしないから、別世界出身者がやってるんじゃないかって。もっと言うと、付き合ってる二人を引き裂こうとしてるんじゃないかって!」
「それ、ダメじゃないの?」
「うん、ダメだよ」
何てことないように言ってのけた桃子に面喰ったが、彼女はそのことに気付いていないらしい。「しかもだよ」なんて話を続けるのだから。
「それをしてるの、魔術師なんじゃないかって」
「この王宮にいる時点で、魔術師じゃないの?」
「違うよ。魔術師養成課程の学生たちと、先生たち、それに国王様と王妃様しか、このお城に魔術師はいないんだもん。他は、みんな魔法使い。十二歳以下の子たちは確実にね」
「あ、そうだった……。それで、それの何が大変なの?」
「魔術師が恋愛魔術をしてるんだよ? ほぼ確実に成功するに決まってるじゃん。だから、二人もその被害者が出て、そのどっちかと付き合おうとしている人がいるってこと」
それはそうだろう、と思った。
話を聞いていて、恋人を引き離す魔術が行われた形跡が見つかった。そんなことがあれば、桃子が言う「大変なこと」になるだろう。
非道徳的な行いだとは思う。だが、どうしてもアリスには胡散臭く思えて仕方がないのだ。
「おーい。君ら、さっきからこそこそ何の話をしてるんだ?」
呆れ気味のパウラの声が飛んできて、二人はビクッと体を跳ね上がらせた。
「な、何でもないよ」
「そう? なら、さっそく会計してみようか。まあ、めちゃくちゃ簡単なんだけどさ」
適当に、近くからチョコレートバーを手に取ったアリスは、それと一緒にレジ前に突き出された。
この世界のレジは、ほとんどがセルフレジだ。使い方は簡単。欲しい品物を持ってレジの前に立てば、画面に購入しようとしている商品一覧が表示される。今回だと、チョコレートバー一つだけが表示された。
「画面の商品と、手に持ってる商品が同じか確認したな? 合っていたら、ここに手をかざす。これで会計はおしまいだ」
パウラが指さしたのは、手のイラストが描かれている板だ。ご丁寧に「ここに触ってください」なんて書いてある。
恐る恐るそこに手を触れてみると、ポーンッなんて軽い音が鳴って「ありがとうございました」とさわやかな男性の声でお礼を言われた。
「はい、おしまい」
「は、早いね。本当にこれでお金払ったの?」
「ああ、間違いなくね。ダリア先生に登録してもらった時、引き落とし口座はカイル先生の所になってるー、とか言われたの覚えてる?」
「うん」
「なら話は早い。人の魔力は、一つとして同じものは存在しない。指紋みたいなものさ。この世界は、その魔力の波長を利用したシステムで成り立っているんだ。部屋に入る鍵も魔力、本人確認も魔力。そして、買い物も。ここに手をかざすと、例によって機械が君の魔力を読み取って登録されている口座からお金が引き落とされる仕組みになっているんだ。ちなみに、時々アップデートでシステムが使えない時があるから、鍵と現金は普段からちゃんと持ち歩いておくんだよ」
「ふーん……?」
アリスが首をかしげていると、一緒に話を聞いていた桃子が「分かった!」と声をあげた。
「きっと、クレジットカードと一緒なんだよ! 私たち自身がカードなんだよ。だから、ここに触ったら、紐づけされてる口座からお金が引き落とされるんだよ! タッチ決済と一緒!」
「あ、なるほど! そういうことね」
今度はパウラとニャットの二人が首をかしげてしまったが、別世界出身の二人は「きっと、そういうことだよ!」と手を取り合って喜び合った。
桃子も同じようにしてペットボトルの水の会計を終えると、アリスたちに手を振って嬉しそうに帰って行った。「明日、頑張ろうね!」と満面の笑みで。
「パウラさんも! ありがとうございました!」
「どういたしまして」
アリスと一緒にしばらく手を振っていたパウラは、桃子とニャットの二人が見えなくなると「元気な子だなぁ」と、手を降ろしながらポツリとこぼした。
お読みいただきありがとうございました!




