18.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
皓然から紹介してもらった三人と少し話しただけで打ち解けられたアリス。すると、今度はニャットが安心そうに変なことを言い出した……。
「打ち解けたようで良かった」ニャットは胸をなでおろした。「これなら、このメンバーでお使いも行けそうだね」
「お使い?」
アリスたちが首をかしげると、ヒューがテーブルの上に一枚の紙を出した。書いてあるのはハンカチだの、靴下だの、ノートだの……。どうやら、買い物リストのようだ。
「四人で、ここに書いてあるものを買ってくるんだ。全部、入学に必要なものだから、買い忘れは自分の首を絞めることになる」
ヒューは腕を組み、新入生たちの顔を見回した。
「ただし、この王宮の中で全てを買い揃えることはできない。四人で城下町まで行って買いに行ってくるんだ」
城下町。
その言葉を聞いて、アリスはパッと顔を輝かせた。こちらに来てから、まだ一度も王宮の外へ行ったことがないのだ。窓から外を眺めようにも、王宮の敷地が広すぎて衛兵の宿舎くらいしか見えたことはない。
皓然に視線を向けると、彼はニコリと笑って頷いた。
「毎年の恒例なんです。新入生は、自分たちの力だけで入学準備を終わらせるって。これは誰かと協力してもいいんです。君たち別世界出身者もいますから。ルールは三つ。決められた時間内に買い物を終わらせて帰ってくること。物を盗まれないこと。そして、困っている人がいたら、助けること」
「困っている人?」
「ええ。誰でもいいし、どんな困り事でもいいんです。これを通して、魔術師に必要な素質があるかを見極める目的があるんですよ」
ただの買い物なのに?
そう思ったものの、アリスは素直にうなずいた。何はともあれ、初めて王宮の外へ行けるチャンスだ。
買い物に行くのは明日。アリスたちは集合時間と場所だけ決めて、その日は解散した。
「アル、ブラッシングの時間だよ!」
アリスが声をかけると、百獣の王と呼ばれるライオンがまるで犬のように走ってやってくる。それも、アリスの前に到着するとお腹を出して床に寝そべって。
この数日で、アリスはすっかりみんなの使い魔たちとも仲良くなっていた。
パウラの使い魔アーベルは、栗が大好きなようだ。皮をむかずに与えても喜んで食べる。それに、貯食もしているので、アーベルの巣箱にはいくつもの種が隠されていた。
皓然の使い魔、クロエは輪ゴムで遊ぶのが好きなようだ。夕方になると急にあちこち飛び回り、大きな声で鳴く。すると、毎回呆れた様子の皓然が輪ゴムを与えるのだ。もちろん、光物も好きらしく、クロエの巣にはたくさんのボタンと輪ゴムが隠してある。
そして、レオの使い魔アルは、ブラッシングがとにかく好きらしい。時々、自分でブラッシング用の櫛を咥えてやってくるほどだ。不思議なのが、絶対にレオにブラッシングを頼まないことだ。
今も、アリスにブラッシングされて喉をゴロゴロ鳴らすアルは、ライオンというより、体の大きな猫のようだ。
「—————————へえ。明日、ついに買い物に行くんだ」
皓然から今日の報告を受けたレオは、開いていた本を閉じた。
「アリス、落っこちるなよ」
「落っこちるわけないじゃん」
そもそも、アリスが行くのは入学に必要な物品の買い出しだ。買い物に行くのに、どこに落ちるというのか。
「ボクらの時、どうだったっけなぁ」レオの向かいでパウラが天井を仰いだ。「何も思い出せないってことは、きっと問題なかったんだろうな」
「問題しかありませんでしたよ!」
クロエの足に絡まった毛糸をほどきながら、皓然は不貞腐れたように言った。
「パウラはすぐ迷子になるし、レオはすぐ寄り道するし!」
「そういう皓然は、仕立て屋で女の子と間違われてたよな」
「うるさい!」
パウラを思い切り睨んだ皓然は、やっとクロエの足に絡みついていた毛糸をほどき終えた。ボロボロになった赤い毛糸をまとめながら、大きなため息まで。
「クロエ、次からは気を付けるんだよ。あと、干してる服からボタン引きちぎるのもやめて」
不服そうな声をあげたクロエだったが、皓然に「クロエ」と低い声で名前を呼ばれると、静かに玄関近くの止まり木まで飛んで行った。
「にしても、変だな」
パウラは皓然の手の中にある赤い毛糸を見つめた。皓然は不機嫌でも、他人に当たることは無いとわかっているからだ。
「この時期に、毛糸?」
「……確かに」皓然もまじまじと毛糸を見つめた。「最近は暖かいし、衣替えだって済んでいる時期でしょうし……。ぼくはクロエに毛糸を渡したことなんてないし」
クロエが遊んで大分くたびれてしまっているが、太くて羊の毛が使われている高価な品に見える。
毛糸の端を持ち上げ、皓然は眉をひそめた。
「鋏か何かで切ってますね。クロエが引っこ抜いてきたにしては、断面が綺麗すぎる」
とはいえ、この毛糸のせいで何か重大な事件が起こったわけでもない。特別気にすることは無いだろうということで、この毛糸はゴミ箱に捨てられた。
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