155.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
始まったアゴーナスネロ大会、第一回戦目。種目は個人戦。ダリアとフィンレーと一緒にアリスが見守る中、レオの試合が始まった。
まさか別世界で療養中の妹に罵倒されているなど露にも思っていないレオは、エミリーを前に頭をフル回転させていた。
——どっかで、見たことあるんだよなぁ。誰だっけ?
そう、レオはエミリーが同学年であることも、同じ中級魔術師であることも、モデルをしているくらいの美女だということも、知らなかった。ただ、何となく顔は見たことがある。……気がする。
さっきお辞儀して見せたのだって、笑いかけられたからだ。あまりチームメイト以外の女子とつるんだ事の無いレオは、笑いかけられて、どうすればよいのか分からなかったので、とりあえずお辞儀しただけだった。
つまり、アリスの心配事は完全に取り越し苦労、というヤツだった。
試合開始を告げる銅鑼の音が響いた瞬間。レオはゴム弾が入った拳銃をエミリーに向けて構えたが、そのエミリーがしたことに目を見張った。
エミリーは武器を構えるのではなく、瞳の色をピンク色に染めて、レオにウィンクして投げキッスまでしてきたのだ。
だからと言って、レオが放ったゴム弾はナイフによって簡単に防がれてしまったけれど。
「——思い出した。一年の時、エキシビションで当たった。相変わらず、魅了の術が得意みたいだな?」
「そちらこそ。相変わらず、君には効かないのね」
エミリーはそういうと、ナイフ片手にレオを見つめた。
魅了の術は、その名の通り相手を骨抜きにしてしまう魔術だ。ただし、効果を発揮しない場合もある。
それは、心から愛している人がいる場合。
レオは一年生の時、同じようにエミリーに魅了の術をかけられた。だが、それが効かなかったレオは容赦なくゴム弾を放ち、エミリーを医務室送りにしている。
もちろん、レオも発動条件のことは知っているので、照れ隠しに鼻を鳴らした。術が効かなかった理由など、一つしかない。だから、まるで公開処刑されているように思えてならなかった。
あのエキシビションの後だって、しばらくの間パウラと皓然、それにヒューとニャットにも、いじられたものだ。ラファエルと牡丹からは、温かい目で見られた。ルイスとガブリエルからは何も言われなかったけれど、アンとメアリーには「初恋が叶うと良いわね」なんて応援された。
レオが想い続けている人なんて、昔から一人しかいないから。
「これが終わったら、またいじられるな。気が重い」
「さっさと付き合っちゃえばいいのに」
「俺はそんな軽い男じゃない」
「重すぎる男だって問題よ?」
その言葉を受けて、レオは口を「へ」の字に曲げた。レオだって、何も考えていないわけではない。ただ、色々と……。そう、タイミングがなかなか無いだけだ。
正直、あのドタバタ騒ぎの中でアリスに告白した皓然を、羨ましく思えるくらい。残念なことに、レオには彼ほどの度胸は無かった。
「もういい。今年も医務室送りにして終わりだ」
「面倒くさい男」
そう言ってエミリーが投げつけてきたナイフは、紙一重でかわしたレオの頬を薄く切って背後の壁に突き刺さった。
仕返しにレオもゴム弾を放つが、何の魔術もかけられていないゴム弾たちは、ナイフに弾かれていくだけだ。
なぜ『百発百中』を使わないのかというと、魔力の消費が大きい術だからだ。
家系特性という魔術は、どんなものでも魔力の消費が大きい。だから、魔法使いたちは使わない。魔力レベルの高い魔術師でもなければ、魔力不足になって死んでしまうからだ。
その中でも『百発百中』は特に魔力の消費が大きい。精密さを求めれば求めるほど、消費量は大きくなる。
急所は外して、威力も弱くして……。それは、オプションを付けた分だけ金額が膨らんでいくのと同じだ。
エミリーを殺してしまわないためには、レオはかなり精神をすり減らして『百発百中』を使わなければならない。だが、それではこの後の試合に響いてしまう。おまけに、何度戦うことになるか分からないのだ。一試合、一試合の消費魔力は最小限に抑えたい。
一気に距離をつめてきたエミリーの攻撃を避けながら、レオはそんなことを考えていた。
「これだけ近かったら、撃てないでしょ」
「そうだな」
だが、レオの武器は何も銃器だけではない。
レオは手の中で拳銃をクルリと回し、グリップ部分でエミリーの腹を殴った。
ダメ押しで、大きく息を吐きだしたエミリーの足を引っかけて、派手に転ばせた。エミリーはレオから距離を取ろうとしていたから、その勢いも手伝って細い体はレオからかなり離れた。
何とかエミリーが顔をあげた瞬間。彼女の額にゴム弾が命中した。
額を抑え、涙目で睨みつけてくるエミリーに、レオは銃口を向けてニコリと微笑んだ。
「はい、俺の勝ち。残念でした」
その瞬間、審判の「そこまで!」という声が響いた。
「勝者、アエラス王国レオ・ランフォード中級魔術師!」
拳銃をホルスターにしまったレオは、エミリーに舌を突き出してから背を向けた。
好きな人がいるのだと、本人が見ている前でばらされたのだ。これくらいで勘弁してやったことを、褒めてもらいたいくらいだ。
観覧席に戻ろうと細い廊下を歩くレオを待っていたのは、ローズだった。実は、そろそろ自分の出番が回ってくるので、少し早めに来てレオのことを待っていたのだ。
「ローズ……」
「ねえ、レオ」
改めて向かい合ってきたローズに、レオはごくりとつばを飲み込んだ。
やっぱり、さっきのエミリーとの試合で、この気持ちがバレて——。
「あの、誰のことが好きなのかは分からないけど、お幸せにね。絶対、上手くいくわ」
「……はい?」
「じゃ、じゃあね! 私、そろそろだから……!」
ポカンとするレオに苦笑いを見せて、ローズは試合会場へと走って行った。
てっきり、ローズにこの気持ちがバレてしまって、それで、会いに来てくれたものだと思っていたのに……。
わなわなと震えるレオの手は、ローズに触れることすらできなかった。
——そうだ、叫べばいい。ローズは耳がいいから、叫べば絶対に聞こえるはずだ。
「すっ……!」
大きく息を吸いこんだレオだったが、やはり踏ん切りがつかなくて。せっかく吸い込んだ息は、小さな声にしかならなかった。
「好きなのは、お前だってばぁ……」
廊下のど真ん中で、レオは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
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