154.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
牡丹から、自分が六歳児になっていたことを話されたアリスは、薬と教科書をもらって再び別世界に戻ってきた。適当にペラペラとめくっていた教科書には、ルイスとヘレナの過去が載っていて……。
感情を取り戻してから、早一週間。
アゴーナスの日がやってきた。
アリスはダリアに頼み込んで、この日だけはお勉強と戦闘訓練を休みにしてもらった。みんなの活躍を見たいから。
ダリアは渋々それを承諾してくれて、リビングのテレビにアゴーナスの映像を映し出してくれた。
フィンレーと一緒に盛り上がっているアリスにため息をつきつつ、ダリアは魔術界の新聞紙を広げていた。本当はこの時間、アリスには体力増強メニューをこなしてもらい、自分はニュースを見ているはずだったのに……。
「『フォティア王国の国宝『ユリアの壺』が盗まれる』……? 全く、フォティア国立博物館は一体、何をしているのだか……。まともなニュースは無いのですか、全く」
ブツブツと新聞に文句を垂れているダリアのことは、放っておいて。アリスとフィンレーは、目を爛々と輝かせながらテレビを見ていた。
今年のアゴーナス開催地は、ネロ王国。
半島に位置するこの国では貿易が盛んで、貿易品と一緒に色々な情報、学問が入ってくる。その影響もあり、有名大学がいくつも存在している。
アナウンサーが語る国の紹介を聞きながら、アリスはうんうん、と大きくうなずいていた。たとえ小さな基礎情報でも、今は聞き逃したくないから。
アゴーナスの開会式が始まるまでの間、各国の魔術師チームの紹介と、チームコードの紹介が始まった。アナウンサーが淡々と読み上げていく階級と名前の中には、アリスも知る人たちもいた。具体的には、シオンとミーナ、ニコ、ツェツィーリア、ラウラ、オリヴィア、ディル、それに、桃子たち。
最後の方になって、パウラたちチームメイトも紹介された。
「あ、お兄ちゃんたちだ! がんばれー!」
「少しは落ち着きなさい」
テレビに向かって声援を送るアリスとフィンレーに、ダリアは新聞から顔をあげて、呆れたようにそう言った。それに、新聞はテーブルへ。こんなに騒がれては、集中して読み物など出来たものではない。
だが、その言葉が無くてもアリスは大人しくなっていただろう。最後に紹介されたのは、ルイーズだったから。
しかし、随分と人数が減っている。今、ルイーズのチームにいるのはアメリアだけ。つまり、二人だけのチームになっていた。
「——他のメンバーは昇級できなかったのですよ」
アリスの無言の問いに、ダリアは紅茶をすすりながら答えてくれた。
「座学の成績は良かったのですが、ポイントが圧倒的に足りませんでした。依頼件数がとにかく少なかったのです」
「担当の先生が依頼を取ってきてくれなかった、ってことですか?」
「いいえ。ルイーズ・ド・フレースたちが受けたことを知って、依頼主の方から別の魔術師の派遣を要請されたのです。中には、依頼書に『ルイーズ・ド・フレースのチーム以外で』と書いてあることもあったそうですよ。恐らく、一年生の時のエキシビションの影響でしょうね。依頼人のほとんどは、平民ですから」
それで、ソニヤやジョージ、レティシアはこのチームから抜けて、他のチームへ移籍しようとした。しかし……。
——彼女たちを受け入れてしまうと、自分たちの依頼件数も減ってしまう。
そう思われて、どこのチームも三人を受け入れてくれなかったから、結局、他チームへの移籍は叶わず。最終的に、ポイントが足らなくて三人は強制退学となってしまったらしい。
「——要は、自業自得です」
「ですね」
アリスは、迷うことなく頷いた。あいにくと、ルイーズたちに同情する気持ちは持ち合わせていない。
セレナのことを、あれだけ苦しめていたのだ。それ相応の報いを受けて当然だろう、とすら思っていた。
さて、いよいよアゴーナスが始まった。
ネロ王国のアレクシア女王の言葉が終われば、エキシビションが始まる。
今年のエキシビションは、鬼ごっこ。腰に巻いたハチマキの本数分だけ、ポイントが入る。逆に、自分のハチマキきを盗られてしまえば、これまでにとったハチマキも相手に渡さなければならない。
解説役の言葉によると、これはネロ王国の一年生が必ず通る道なのだという。相手との距離の取り方、気配の探り方などを覚えるために。
それなのに、優勝したのはアエラスの新卒魔術師だった。
名前は、クレール・ド・フレース。
ルイーズの弟だった。
姉の失敗を見ているからか、クレールは余計なことは口にしなかった。ただ、指揮能力が高い。効率的にハチマキを集めるために、チームメイトたちに的確な指示を出し、士気を挙げ、自らフォローを行う。姉とは違って、好印象を持つ。
しかし、油断ならない何かを、アリスはテレビ越しに感じ取っていた。
一回戦が始まるまでの間、エキシビションのダイジェスト映像が流れていたから、アリスはそれを見ながらクレールの観察をしていた。もしかしたら、何かの理由で彼と会うことになるかもしれないから。
というか、必ずどこかで顔を合わせることになるだろうから。
三十分ほど経ってから、一回戦目が発表された。
今年のアゴーナス一回戦は、個人戦。
相手を殺したり、再起不能のけがを負わせたりしなければ、使い魔特性以外のどんな魔術、どんな武器を使っても良いという、シンプルな個人試合。戦う相手は学年、階級を問わず無作為に選ばれる。その順位によって、与えられるポイントも変わってくるルールだ。
ただし、ルールを破った場合、それから試合場に足がついてしまった場合は失格となり、対戦相手の勝ちとなる。
試合は三十の試合会場で行われる。それぞれの試合会場で一位、二位になった魔術師は、その後他の試合会場の魔術師とも戦う、トーナメント形式。
しかし、しばらくは知り合いが出る予定が無かったので、その間にアリスはみんなのこと——例えば、アナウンサーに紹介されていなかったルーカスたちがどこへ行ったのかを尋ねた。
「あの子たちはもう卒業しましたよ。ルーカス・ツヴィングリはホワイトハッカーとして、保安部情報課に就職。フェリクス・マルタンは警備隊に引き抜かれましたね。サラと黄桜花は保安部の機動隊に」
「いつの間に……」
「魔術師は六年制。あなたのお兄さんも、あと一年ちょっとで卒業ですよ」
ということは、パウラも、皓然も、ローズもいなくなってしまう。
そうなれば、アリスとアダンの二人ぼっちだ。そうなる前に、何とかして生き残るすべを身に付けなければ。
アリスは、そう思って密かに息巻いていた。
さて。アリスの知っている人たちの中で最初に試合が行われたのは、兄のレオだった。
相手は、エミリー・スチュワート。どこかで見たことがあると思ったら、彼女は去年、パウラと一緒に魔法の鍵屋であるダミニの元へ職業体験に行っていた魔術師だった。
所属はネロ王国の、中級魔術師。学年はレオと同じ五年生。ストレートの長い髪を翻し、レオに美しい笑顔を見せている。解説によると、チームメイトであるチェルシーと一緒に、モデル活動もしているのだとか。
これまた知っている名前が飛び出してきて、アリスは驚いたけれど。チェルシーと言えば、これまた去年、アリスと一緒に魔術探偵事務所に職業体験へ行ったエルフだ。
だが、それらの情報はアリスの頭から飛んで行ってしまったけれど。だって、エミリーに笑いかけられたレオが、笑い返して優雅にお辞儀なんてして見せたから。
「ちょっと! お兄ちゃん、何考えてるの!? ローズがいるでしょ! この浮気者!」
「あの二人が付き合っているなんて話、私の耳には入ってきていませんね」
「え、まだ付き合ってないんですか!?」
アリスは思わず大きな声をあげて、テレビの中の兄を睨みつけた。だが、レオはやはり、笑顔をたたえて、余裕そうに立っていた。
「まあ、見ていなさい」
カップをソーサーに戻し、ダリアは大げさに肩をすくめた。
「あなた、レオ・ランフォードが一人で戦っている所をきちんと見たことがないでしょう。あの子がどんな戦いをするのか、知っていて損はしないと思いますよ」
それに……。
ダリアは、レオの対戦相手であるエミリーを見つめた。長い間魔術師統括管理者として、学生魔術師たちの面倒を見てきたのだ。他国の魔術師の情報だって、バッチリ頭に入っている。
エミリーがここでレオに当たってくれたのは、ダリアにとって好都合だった。これで新たに一つ、アリスに魔術を教えることができるから。
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