149.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
精神年齢が六歳になってしまったアリスを救うべく、アリスの精神世界にやってきたレオたちは、そこでユリアと出会う。そして、ユリアをアリスの中から追い出すと、アリスの魂の一部が欠けてしまうという事実が発覚する。それでも、アリスはユリアを追い出す覚悟を決め……。
それからしばらく医務室に入院したアリスは、別世界のダリアに預けられることになった。名目上は、怪我の療養。
真の目的は、ルイスとアンがこれ以上アリスを危険に晒したくない、と考えたからだった。
アリスは、やはり『欲望』——感情を失った状態で目覚めていた。声をかけなければ食事もしないし、何もしようとしない。
部屋に帰れるようになっても、アリスはソファに座ってボーッと窓の外を眺めてばかりだった。自分から話すことはない。だが、話しかければ短い返答は返ってくる。ほとんどが単語だったけれど。フィンレーもみんなに心を閉ざしてしまって、アリスの中から出てこなくなった。
ルイスたちは、何が起こったのかを包み隠さず国に報告した。最初は保守派たちが無理やりにでもアリスをヘレナの討伐に向かわせようとしたが、ゼノが首を横に振った。
「今の彼女には、無理でしょう。感情がないのなら、ヘレナに勝つという意志すらないのと同じですからね。魔術が使えるのかどうかすら、怪しい」
その言葉に、誰もが黙り込んでしまった。
ドラコとタタラはというと、戦闘ドラゴンをアリスたちにけしかけたこと、これまで囚人たちを匿っていたこと、しかも、劣悪な環境で働かせていたことなどを罪として問われた。
ドラコは国際的に孤立し、しかも領土の一部を取り上げられ、多額の罰金を支払うこととなった。タタラは、かぐやと一緒に国際裁判にかけられた。
かぐやとタタラは、満場一致でこの世界で最南端にある刑務所、ヘレに投獄されることとなった。脱出は絶対に不可能、「収監されるくらいなら死んだほうがマシ」とまで言われている場所に。
その判決が出た二週間後。
アリスは、ラファエルに付き添われて門の前に立っていた。これから、ダリアの元へ行くために。
アンはふさぎ込んでしまい、ここにはいない。ルイスとガブリエルも、仕事があるため別世界まで付いていけない。それで、ラファエルが別世界まで送ることになった。
それから、レオたちも。外出日でもない、いわゆる平日である今日は、城の外へ行くことを許可されていなかった。
だから、ルイス、ガブリエル、イリス、パウラたちチームメイトに、桃子たち仲良しの四人は、門までしかアリスを見送ることが出来なかった。
「アリス、忘れ物は無いか?」
笑顔で尋ねたパウラに、アリスは首を横に振って答えた。
それから、アリスは周りをキョロキョロと見回してから、ラファエルを見上げた。
「ん? どうした?」
「お母さん」
「——母さんは、体調が悪いんだって。見送れなくてごめんって言ってたよ」
何も、アリスは記憶まで失ったわけではない。だから、この場にアンがいないことに気が付いたらしい。
ラファエルの苦笑い気味の回答を受けて、アリスが視線を床に向けた時だった。
「アリス!」
黒髪をハーフツインテールにした、小さな魔術師がアリスに抱きついたのだ。
「ラヴ、待って……!」
その後ろから、肩で息をするニコ。それに、シオンと、ディルの姿もあった。
アリスが別世界へ帰るということで、国王が特別にラウラたちの入国を認めたのだ。もしかしたら、アリスの感情が戻るキッカケになるかもしれないから。だが、さすがにオリヴィアは来ることが出来なかったらしい。
シオンは無表情のアリスを見て顔を引きつらせ、黙って手を固く握って動かなくなった。
「間に合ってよかったのです!」
ラウラは顔をあげ、涙の浮かんだ瞳を細めた。
「早く、良くなって帰ってきてくださいませね! ラヴ、待ってますの!」
「ごめん、アリス! 怪我してない?」
やっとラウラに追いついたニコに、アリスはやはり無表情にうなずいた。
「アリス。オリヴィアから手紙を預かって来たよ。あとで読んであげて」
ディルはそう言って、笑顔で封筒をアリスに差し出した。
アリスはやはり黙ってうなずき、それを受け取った。
「……」
「しまおうか。兄ちゃんに貸して?」
アリスはラファエルに手紙を預けてから、ジッとラウラを見つめた。
「いかがなさいましたの?」
ラウラは首をかしげたが、アリスは黙ったままだった。
「——アリー、そろそろ行こうか」
オリヴィアからの手紙をしまったラファエルの言葉に、アリスは頷いた。
だが、その瞬間に桃子の目から涙が溢れだした。
「……桃子」
「ごめんね、泣くつもりはなかったのに……!」
こちらも暗い顔をした俊宇に差し出されたハンカチを受け取り、桃子はその場にしゃがみこんで声をあげて泣いた。
セレナも涙を流していたが、声をあげないように唇を噛んでいた。
パウラたちの肩も震えている。
先輩たちのその姿を見ていたイリスは、何を思ったのか、急にガブリエルと繋いでいた手をほどいた。
「イリス?」
ガブリエルの呼びかけに答えず、イリスはアリスの手を取った。
「お姉ちゃん。こういう時は、みんなとぎゅーってするんだよ」
首を傾げたアリスに、桃子とセレナが勢いよく抱き着いた。
それから、パウラとローズの二人も。
女子たちの番が終わってから、レオたち男子たちも軽くアリスを抱きしめた。だが、皓然とシオンだけは、それをしなかった。
最後に、イリス、ガブリエル、ルイスにも抱きしめてもらったが、アリスは誰にもハグを返すことは無かった。
「ダリア先生の言うこと、よく聞くんだぞ」
ルイスの言葉にうなずき、アリスはラファエルに手を引かれて別世界に帰って行った。
門が閉じるまで、誰もその場から動かなかった。
***
門をくぐったアリスは、かつての家に帰ってきた。
「……」
「おかえりなさい」
こちらも無表情なダリアに、アリスは小さくうなずいた。
兄妹をリビングに通したダリアは、ラファエルにこれまでアリスがどういった生活をしていたのかを聞き、改めてアリスを見つめた。
「——分かりました。アリスのことは、任せてください」
「お願いします」
アリスに代わって荷解きをしたラファエルは、それが終わるとアリスを抱きしめてから魔術界に帰って行った。
兄を玄関口でダリアと一緒に見送ったアリスは、そのまま手を引かれて庭にやってきた。
裏庭には、様々な種類の花が咲いて、風に吹かれていた。アンは花壇にたくさんの花を植えていたから、風に飛ばされたタネがここで花を開いたらしいのだ。
そこに座ったアリスは、手元の花に触れて動かなくなった。
「花は好きですか?」
アリスは黙ったまま、動かない。
「……お母さん」
「お母さんが、花が好きなのですか?」
アリスは小さくうなずき、花を優しくなでた。
「花を摘むと、お母さんが怒る」
「そうですか。でも、今は摘んでも良いのですよ。——では、あなたにお仕事を頼みます」
顔をあげたアリスに、ダリアは魔術で取り寄せた駕籠と鋏を渡した。
「あなたのお仕事は、家の中に飾る花を摘んでくることです。でも、摘み過ぎてはいけません。剪定程度にしてください」
アリスは頷くと、駕籠と鋏を受け取った。
ダリアは「先に、中に戻っていますね」と断ってから、その場を後にした。
最初、アリスは花を剪定していたが、ふとその手は止まった。
「——お父さん、お母さん」
ポロリと、言葉がこぼれ落ちた。
「おじいちゃん、ラファお兄ちゃん、レオお兄ちゃん、イリス」
『——こういう時は、みんなとぎゅーってするんだよ』
イリスのその言葉が、アリスの頭に浮かび上がった。
鋏を置いたアリスは、自分の手をジッと見つめた。
「パウラ、ローズ、アダン、桃子、セレナ、オリヴィア、ラウラ、ユーゴ、俊宇……」
アリスの視界が、急に揺らいだ。
「ディル、ニコ、シオン、——皓然」
『君が、ユリア様の呪いに勝ったら。その時に、返事を聞かせてください』
「やくそく、した」
アリスの瞳から、大粒の涙が一滴こぼれ落ちた。
ポロポロと、次々と大粒の涙がこぼれ落ちて花を濡らしていく。
その様子を、ダリアは家の中から見つめていた。
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