148.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
アリスの精神世界にやってきたレオたちは、ユリアをアリスの中から追い出そうとした。しかし、ユリア曰く、彼女の一部がアリスの魂に直結しているため、ユリアを追い出すとアリスは『欲望』を失ってしまうと言われて……。
「——追い出すよ」
そんな状況だったから、アリスの声が、やけに響いた。
みんなが驚きの目を向ける中、アリスはユリアのことを真っ直ぐに見つめていた。
「言ったでしょ、『一人の人間のアリスとして生きていく』んだって。私はもう、何にも振り回されたくない。それは、紛れもなく私の意志だから……」
自分の手のひらを見つめ、その手をグッと握ってアリスはユリアを真正面から睨みつけた。
「この気持ちは、絶対に私だけのものだから。私の人生だもん。どうするのかは、自分で決める。大人の事情とか、アンタの欲望とかに、振り回されたくない」
「——その『振り回されたくない』っていう気持ちだって、欲望から来ている感情よ?」
「でも、『振り回されない』って決めたのは、私の意志でしょ?」
アリスはユリアにニコリと微笑んで見せた。
「確かに、アンタを追い出したら私は無気力で、無感情な人間になってしまうのかもしれない。でも、絶対に私はアンタの呪いなんかに負けない。絶対に感情を取り戻すから」
フィンレーを呼びだし、アリスはユリアの前に立った。
「ま、待って……」
皓然に手を掴まれて、泣きそうな顔でそう言われたが、アリスは笑顔を見せて彼の手を、振るえる自分の手から外した。アリスの手が震えていることに気付いたのか、ハッとした表情をしている彼に、笑顔で。
本当は、怖い。欲望が消えた自分が、どうなってしまうのかと。もしかしたら、一生、それが治らないかもしれない。
でも——。
「それに、私には家族も友達もいるから。こんな所まで助けに来てくれたんだもん、きっと離れないでいてくれる。……そう信じてる」
振り向いたアリスは、駆け付けてくれたみんなの顔を一人一人見つめ、微笑んでみせた。
「でも、保険をかけて言っておくね。みんな、助けに来てくれてありがとう。それから、お父さんたちにも、このことを伝えておいて欲しいんだ。——私、お父さんとお母さんの娘になれて、みんなと家族になれて、嬉しかった。愛してくれて、ありがとう。パウラ、皓然、ローズ。いつも守ってくれて、ありがとう。桃子、セレナ、ユーゴ、俊宇、アダン。私と仲良くなってくれて、ありがとう。オリヴィアとラウラにも伝えてね。みんな、お友達になってくれて、すごく嬉しかった」
「アリス、お前……」
銃を下ろし、レオは頭を左右に振った。これからアリスが何をしようとしているのか、分かったから。
「やめっ……!」
アリスに駆け寄ろうとしたレオを止めたのは、——皓然だった。
刀を手の中から消して、皓然は真っ直ぐにアリスのことを見つめていた。
「分かりました。ルイス先生たちに、必ず伝えます」
「おい、皓然!」
パウラまで真っ青な顔で彼を見つめたが、やはり皓然はアリスから目をそらさなかった。
それどころか、優しく微笑んでまでいた。
「ぼくからも、保険をかけて君に伝えておきます」
アリスはクスクス笑ってから、皓然を見つめた。
「改まって、どうしたの?」
「好きです」
突然の告白に、レオとパウラは顔を見合わせてから、まじまじと皓然を見つめた。ユリアですら、目を見張っている。涙を流していた桃子たちも、ポカンと皓然を見つめた。
アリスも驚いていたが、それでも皓然は優しい笑みを浮かべていた。
「えっと……?」
「ぼくは、君のことが好きです」
潤む瞳を細めて、皓然は明るく笑った。
「だから。だから、君が……」
声が震えないように腹に力を入れ、皓然はグッと顔をあげた。
「君が、ユリア様の呪いに勝ったら。その時に、返事を聞かせてください」
「——分かった」
アリスも瞳を潤ませ、微笑んで頷いた。
「約束ね」
「はい、約束です」
アリスはもう一度、みんなに笑って見せてから大きく深呼吸した。
「——フィンレー、巻き込んでごめんね」
瞳を青く輝かせたアリスは、魔法陣が浮かんだ両手をユリアに向けた。同時に、アリスの目の前には白い光の玉が現れる。
アリスの魂だ。黒くなっている一部分が、ユリアの呪いがかかった部分。
「“アリス・ランフォードが命じる。ユリア、私の中から消えなさい”」
魔法陣から放たれた白い光はユリアを貫き、その瞬間に光の一部分が欠けた。
それを見て桃子は目をつむって顔をそらし、パウラたちの目からは涙がこぼれ落ちた。
皓然は——黙ってアリスの後姿を見つめていた。
「——後悔しない?」
光の粒となって消えていくユリアの問いに、アリスは頷いた。
「みんなのことも、私自身のことも、信じているから」
「そう」
微笑んだユリアは、静かに消えていった。
「アリス!」
思わずこぼれたレオの声に、アリスは振り向いた。
いつもの、明るい笑顔を浮かべて。
「みんな、ありがとう。——少しの間だけ、バイバイ」
その瞬間、レオたちの意識は無理やりアリスの精神世界から追い出されてしまった。
ハッとしたら、そこは医務室だった。どうやら、勢いよく追い出されたせいで床にたたきつけられてしまったらしい。体中が痛む。
「レオ!」
ルイスとアンは、起き上がったレオの肩を掴んだ。
「アリスは!?」
「……アリスは」
レオの視線の先で、むくりとアリスが起き上がった。しかし、長い髪によって顔は隠されてしまっている。
「アリス!」
アンはアリスを抱きしめてから、パッと体を離した。
「アリス、今何歳?」
「十四歳」
抑揚のない声だった。
短く答えたアリスは、みんなが見守る中、ゆっくりと顔をあげた。
焦点のあっていない瞳に、顔を引きつらせるアンを映し出して。
「——レオ。説明しろ」
「……はい」
レオたちは椅子にも座らず、床に座り込んだまま何があったのかを説明した。
それを聞いて、ルイスが顔を覆い、アンがアリスを抱きしめて泣いてしまうのは、ある意味、予想の範囲内だった。
「——バカが」
そうこぼしたルイスの声は、震えていた。
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