147.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
国王の助言もあり、アリスを助けに来たエスコ曰く、アリスはユリアと体の主導権を取り合っているのだという。そんなアリスを助けるため、レオたちはアリスの精神世界へ行くことになったのだが……。
「——ほんと、しつっこいわねぇ」
王座のような椅子に座る金髪碧眼の女性は、目の前に転がる自分の子孫を見てため息をついた。
この世界にあるのは、大きな鉄格子。あとは、真っ暗な世界が広がっているだけだった。
いや、鉄格子の向こう側に一つだけ光が見えるのだが、その光の前ですすり泣く幼い金髪の少女がいた。
ここは、アリスの精神世界。
剣で体を貫かれ、意識を失ったアリスだが、体に異物が入ってきたのを感じ取ったので意思だけは目覚めたのだ。
そして、自分の体が、別の魂に操られていることに絶句した。何より、その侵入者が破壊の限りを尽くしていることに。
だから、侵入者に飛びついて、何とか体の支配権を取り戻そうとした。だが、濃い魔力の層に邪魔されて、侵入者に近づくことすらできない。
抵抗しながら、どうしようかと考えていたその時、よく知る声が聞こえてきた。
「——ぼくの方へ来てください! 意識ごと、こっちへ! 大丈夫、絶対に受け止めるから。だから、ぼくを信じて!」
「アリス! イメージしろ! 魔術はイメージ!」
皓然とパウラの声。
だから、アリスはその声に従って魔術を使った。
魔力の層を突き破るイメージを。そして、この侵入者を閉じ込めるイメージを。
作戦は成功し、アリスは侵入者に飛びかかることはできた。だが、思っていたよりもこの侵入者が暴れるものだから、自分ごと檻に閉じ込めるイメージをしてしまった。
それ以来、アリスはこの侵入者——ご先祖様のユリアを、自分の中に閉じ込めるべく、文字通り体を張って表舞台に出ないように抑え込んでいた。
だが、ユリアはとにかく強かった。
次元が違う。
とにかく、その言葉が一番しっくりくる。
アリスが作り出したこの檻だって、本気を出せばユリアは壊すことができるだろう。それなのに、そうしないのは一体なぜなのだろうか……。
「あなたの記憶、読ませてもらったけど……」
ユリアはそう言って、手の中に本を取り出した。赤い皮で出来た表紙の、装飾は少なめの本だ。
それをパラパラとめくってから、ユリアはポイッと本を捨ててしまった。捨てられた本は、床に落ちる前に光となって消えていった。
「私が前に出て、あなたのママを倒せば全て丸く収まるんじゃないの? ママさえ倒せば、あなたは晴れて自由の身でしょ?」
「だから、タタラの時にも言ったけど、殺しはダメって言ってるでしょ!」
立ち上がり、アリスはユリアを思い切り睨みつけた。
容姿はヘレナと似ている。金色の髪に空のような青い瞳。身に着けている衣装は、白い布を巻き付けただけのようなゆるいワンピース。夏休みに見た遺跡に彫刻されていたように、いや、それ以上に美しい女性だった。
しかし、耳はエルフのように長かった。それに、常識というものは全くなっていなかった。
「分かった、分かった!」
ユリアはいら立ちを振り払うかのように、手を大きく振るった。
「殺しはしない。殺さないで、あなたのママを治す。それならいいでしょ?」
「……出来るの、それ?」
「さあ?」
「確実な方法じゃないのなら、それは飲めない」
「アリーってば、お堅いんだから」
肘をつき、ユリアは大きなため息をついた。だが、その瞳は唯一の光へと向けられた。
「——お客様よ」
その言葉に、アリスも光の方へ顔を向けた。相変わらず、光の前で幼い少女——自分がすすり泣いている。だが、目に入ってきたのは、それではなくて……。
「みんな……」
「アリス!」
真っ先にレオが走ってきて、檻を掴んだ。
「無事か!?」
「えっと、色んな意味で無事じゃない、かな……」
アリスがチラリと視線でユリアを示すと、レオはユリアを見つけ、睨みつけた。
だが、他の面々はというと、目の前にあのユリアがいることに、驚きを隠せないでいるらしかった。
「あらやだ。そんなに睨まないでよ」
怪しく微笑んだユリアは、手の中に再びあの本を取り出した。
「アリー、歴史が苦手でしょ。私のことをあまり分かっていないようねぇ。えーっと……、あなたがレオね? 歴史が得意なんですってね。今の私がどんな存在になっているのか、教えてもらえる? この子の記憶じゃ、詳しいことが分からないわ」
「……一言でいうと、神。この世界の救世主で、今の魔術界を作り上げた創造主」
「あら、光栄ね」
玉座から立ち上がったユリアは、鉄格子越しにレオたちに微笑みかけた。
「まさか、その創造主を追い払おうとしているんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだよ。時間がないんだ、さっさと出て行ってもらおうか」
「嫌よ」
「嫌でも出て行ってもらう」
ユリアはため息をつくと、左の指を鳴らした。
その瞬間、レオたちはアリスの真後ろに立っていた。いや、牢の範囲が広がったのだ。やはり、ユリアはその気になればこの檻から出ることができると思ってよさそうだ。
ユリアは再び本を開いた。今度はゆっくりとページをめくる。
「かぐやの子孫たち……。へえ、本当に『千夜族』を名乗っているなんて。それに、エルフと狼人間が人間社会に入れるようになっているなんて、随分と変わったのねぇ。あれから一体、何年経ったのかしら。いえ、何百、何千年?」
本をめくりながら、ユリアは楽しそうにクスクスと笑った。
「ちょっと!」
堪らず、アリスは腰に手を当ててユリアを睨みつけた。
「さっきから出したり消したり! その本、一体何なの?」
「あなたの記憶」
そう言ってユリアが見せてくれた本の題名は、「アリス・ランフォード」だった。
「これ一冊があれば、あなたの記憶は全て知る事が出来る。あなたが忘れてしまっていることだって。あなたが生まれてからの記録が、全部ここに載っている」
「ひ、人の記憶を……!」
「あら、いいじゃない。私たちは、まさに一心同体の存在なんだから」
「そういう問題じゃないし、アンタと一心同体の存在になりたくない!」
アリスはみんなの前にたち、ユリアを強く睨みつけた。
「私はアリス。アリス・ランフォード! ユリアでも、ユリアの器でもなく、一人の人間のアリスとして生きていくの!」
そのためには、目の前にいるご先祖様を追い出さなければ。
「みんな、お願い。力を貸して」
「言われなくても」
眼鏡をはずしたパウラは、アリスの肩をポンと叩いた。
「そのために、ボクらは君の精神世界にお邪魔したんだから」
「え、そうなの?」
「逆にどうして、ここにいると思ったんですか……」
ため息をつきながらも、皓然は刀を手にアリスの前に立った。
その姿を見て、ユリアの顔が引きつるのが分かっていたから。
「——あなた、何者?」
「黄皓然」
「……へえ」
それから、ユリアの視線は千夜族……、桃子と俊宇へと向けられた。
「あなたたちは?」
「斎桃子」
「……李俊宇」
「ふーん」
ユリアは再び本をパラパラとめくって、首を傾げた。
「——ってことは、私の血はあなたたちにも受け継がれたってことか。かぐやの『月詠み人』が少し改変されているものね……」
本を閉じ、ユリアはアリスたちの前をウロウロと歩き始めた。
「恐らくだけど、千夜族同士で血を濃くしてきたのね? そう言えば、アリーの記憶にも『千夜族は一族』だって書いてあった……」
「問答はもういいよ」
ユリアに銃口を向け、レオは冷たく言い放った。
「言っただろ、『時間がない』って。早く、アリスの中から出ていけよ。じゃないと、無理やりにでも出て行ってもらうぞ」
「嫌。——というか、無理ね」
足を止め、ユリアは本で口元を隠しながらレオに微笑んでみせた。
「タタラに言われたはずよ。金髪と青い瞳は私の呪いだって。今でいう王家と、あなたたち家族にはね、私の魂の情報が刻まれているの。アリーにも、あなたにも、私の魂の一部が含まれているの。無理やり私とアリーの繋がりを断ち切ったら、あなたの大事な妹ちゃんは抜け殻になっちゃうわよ?」
頭に疑問符を浮かべた魔術師たちに、ユリアは笑顔を向けた。
「魂は、理性、意志、欲望の三つで成り立っている。この三つがバランスよく成り立って初めて、魂は完成し、肉体に宿る。私の魔力をより濃く受け継いだ子孫たちは、——つまり、金髪、青い瞳、特性のどれかを持っている子たちは、その魂の三要素のどれかに、私の魂の情報が刻まれている。だから、タタラは『呪い』という言葉を使ったのね。アリーの場合は、欲望」
ユリアは、その美しい瞳にレオとアリスの兄妹を映した。
「欲望って、大事なのよ? 私を追い出したら、アリーからはあらゆる欲望が消える。それがどういうことか、分かる? 何をする気も起らないの。食欲も、睡眠欲も、何も無くなる。したいことも、欲しいものも消える。そんな、無気力な人間になってしまうの。それでも、私を追い出せる?」
その言葉に、レオの指は引き金から離れてしまった。
他の面々も。ユリアのことは睨みつけるが、何も言わなかった。
それを見て、ユリアはますます楽しそうに、形の良い唇で弧を描いた。
「——追い出すよ」
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