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146.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 目を覚ましたアリスは、記憶が六歳に戻ってしまっていた。おまけに、みんなは自分に隠し事ばかりすると、取り乱し始めて……。

 アンが思わずアリスの肩を掴んだ、その時だった。


「“眠れ”」


 医務室の入り口に現れたその人物の言葉通り、アリスはアンの腕の中に倒れこんだ。涙を流しながら、静かに寝息を立てている。


「ローガン兄様!」


 エスコとともに現れた兄を見て、パウラは感謝するのではなく、思い切り睨みつけた。


「なぜ、アリスを無理やり寝かせたのですか!」


「バカ。あのままにしてたら、アリスの暴走した魔力でこの王宮が崩壊するだろうが。報告通りなら、今のアリスはこの世界で一番の魔力の持ち主だ。この王宮を救ったことを、むしろ感謝して欲しいね」


 グッと言葉に詰まったパウラに、ローガンは鼻を鳴らして見せた。


「だからお前は、毎回詰めが甘いんだ。——ルイス先生、アン先生。陛下から言伝をお預かりしております」


「陛下から?」


 アリスを抱くアンに、ローガンは頷いてみせた。


「こちらのエスコ・ピレネン先生は、精神魔術の権威でいらっしゃいます。エスコ先生の知恵をお貸ししていただければ、お嬢様の容態はよくなられるのではないか、と」


「そういう訳で、アリスのことを診に来たんだよ」


 エスコはアリスの体を軽々と抱き上げると、近くのソファにその体を横たえた。


「エスコ先生!」


 セレナは、エスコの元に駆け寄って涙を流した。


「アリス、治るんですよね!?」


「さあ、それは何とも。お医者様の見解としては、どう?」


 エスコに見つめられ、牡丹は目をそらした。


「恐らく、精神的なショックを受けたのが原因かと。あまりの恐怖を感じたために、自分自身を守るため、幼い時の記憶がよみがえったものと考えられます」


「そんなこと、ありえるんですか?」


 そう尋ねてきた弟に、牡丹は頷いてみせた。


「頭に外傷はみられなかったから。そうなると、心的外因が考えられるの」


「牡丹がそう言うのなら、そうなんだろうね。私も、その意見に賛成だ」


 アリスの手のひらを見つめてから、小さな額に手を当てたエスコは、そっと目をつむった。


「——二つの魂のぶつかりを感じる。恐らく、アリスとユリア様の魂だ」


「つまり、『一つの体に二つの魂が入っている』ってことか?」


 ルイスは「ありえない」とでも言いたそうに、軽く頭を左右に振った。


 それなのに、エスコは頷いた。


「そうだね。二人で体の支配権を取り合っている」


 アリスの額から手をどかし、立ち上がったエスコはルイスとアンを見つめた。


「ここからは私の仮説だ。あまりの恐怖を感じたアリスは、記憶障害で六歳児になってしまった。そこに、ユリア様の魂が体に入ってくる。それを感じ取った十四歳のアリスが、必死に抵抗をしている。……そんなところかな。炭坑者たちを守ったこと、タタラに止めを刺すのを止めたこと。これらは、皓然が考えていた通り、十四歳のアリスが見せたユリア様への抵抗だろう」


「では、どうして今のアリスは六歳児なのですか?」


 ローズは不安そうな顔をエスコに向けた。


「先生のお考えの通りなら、十四歳のアリスかユリア様が、表に出てきてもおかしくないと思うのですが……」


「そう、そこだ」


 エスコはローズに向かって指を鳴らした。


「私が思うに、十四歳のアリスとユリア様は今、体の支配権をかけて壮絶な戦いをしているのだと思う。つまり、表に出ている暇がないのさ。そこで、すぐ近くまで浮上していた六歳のアリスが、代わりに表舞台に出てきてしまったのではないか。——それが、私の仮説」


「でも、だからってどうして六歳児に……」


「アリス自身の不安と直結している可能性が高いね」


 次なる疑問を打ち出したユーゴに、やはりエスコは指を鳴らした。


「アリスのこれまでの記憶にある不安。それが今回結びついてしまったんだろう。さあ、ご両親。六歳のアリスが一番不安に思っていたことは何だと思う?」


 急に話を振られた両親——ルイスとアンは、顔を引きつらせて、それぞれ床を見つめた。思い当たるふしが見当たらないのだ。


 ただ……。


「そう言えば、やけに甘えてきたわね。赤ちゃん返りじゃないけれど……」


「なるほど。パパは?」


「パッ……。俺は……、分からない。丁度、守り人の業務と並行して、カモフラージュ用の会社を設立した時期だから、とにかく忙しくて……」


 それぞれ、煮え切らない回答をした両親に代わり、レオが「学校だよ」と答えた。


「別世界で、学校に通い始めた時期。ほら、あっちは夏休み明けから学校が始まったじゃん。最初は楽しそうにしてたけど、途中から行き渋りが酷くなった」


「その理由は?」


「無意識のうちに魔力を暴走させて、周りから距離を置かれていたのと、……俺ら家族の血の繋がりを疑われ始めた時期だから。俺たち、学校受験して私立の金持ち学校に通ってたんだ。狭い世界じゃ、変な噂はすぐに広まる」


 両親が驚いている中、エスコは「それだね」とレオに大きくうなずいて見せた。


「となれば、アリスがこれまでの人生で大きな不安を感じたのは三回。一回目は六歳の学校に通い始めた時期。初めて自分の家族に疑問を持つキッカケになったのだろう。二回目は、十三歳。君たちもご存知の通り、急にこちらの世界に来ることになったこと。そして今回が三回目。死への恐怖。その中で六歳の不安が選ばれたのは、親に守ってもらえるという安心感がセットでついて来るからだ」


 エスコの瞳に、すっかりやつれてしまった夫婦の姿が映った。


 驚いて、動けなくなっている夫婦が。


「君らのことだ。泣いて帰ってきたアリスを慰めただろう。『自分たちの子供だ』と言い聞かせただろう。アリスにとって、それが何よりの安心だったんだ。だから、『守ってもらえる』不安を選んだ。最後には安心を手に入れられる不安をね」


 エスコがそう言い終わると同時に、医務室のドアがノックされた。


 そっと開かれたドアから顔をのぞかせたのは、桃子。


「あの、アリスに会いに来てもいいって、聞いてきたんですけど……」


「ああ、君を待っていたよ」


 そう言って、エスコはアリスのチームメイトたち、それから、桃子、セレナ、ユーゴ、俊宇たちをアリスの前に立たせた。


「エスコ」


 堪らず、ルイスはエスコを見つめた。


「お前、何を考えてる?」


「ようは、アリスが体の主導権を取り返し、かつ十四歳のアリスも安心出来る状況にいるんだって、分からせればいい。つまり、頼れるのは何も親だけじゃないって教えてあげるのさ。だから、このメンバーにはアリスの精神世界に入って、一緒にユリア様と戦ってもらう。かなりの荒治療だけどね」


「前代未聞ですよ!」


 エスコの考えに、牡丹が声をあげた。


「それに、精神世界での影響は、肉体にも影響が出ます。一気にそんな大人数を精神世界に送り込んでは、患者が持ちこたえられません!」


「だから、荒治療なんだってば。大丈夫、私も何も考えていないわけじゃない。時間制限を設ける。タイムリミットが来たら、全員を無理やりこっちに引っ張り出す」


 それから、生徒たちの顔を見た。


「まあ、君らが行くかどうかは、自分で決めていいけど」


「行かせてください!」


 真っ先に声をあげた桃子とセレナの言葉に、他のメンバーもうなずいた。


 それを見て、エスコはやっと表情を和らげた。


「アリスは、良い友達に恵まれたみたいだね。さあ、行っておいで。くれぐれも、死なないようにね」

お読みいただきありがとうございました!

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