144.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ルイスたちの前に現れたアリスには、なんとユリアの魂が宿っていた。おかげで炭鉱から脱出は出来たものの、皓然は「アリスがユリアの器になってしまったのだ」と、言い出して……。
「ちょっと待って。おかしいわ」
真っ先に、ローズがそう声をあげた。
「ユリア様の器になるためには、いくつか条件があったはずよ。アリスは、その全てに当てはまっていないじゃない!」
「そうです。だから、アリスを器にするのは半分しか成功していないんだと思います」
「どういうことですか?」
首を傾げたユーゴを、皓然は真っ直ぐに見つめた。
「あの時、アリスの意識が少し残っていた。ぼくらを助けたのも、ユリア様がタタラを殺そうとしていたのを止めたのも、アリスの意志でしょう。完全にユリア様の器になったのだとしたら、意識ごと消されていたと思うんです。ヘレナ先生みたいに」
レオたちの脳裏に、あの美しい金髪の女性が思い浮かんだ。確かに、完全に体を乗っ取られたのなら、ヘレナのように人格も何もかもが変わっていてもおかしくはない。
「——話を戻そう」
軽く頭を振ってから、ルイスは皓然を見つめた。
「それで、その続きは?」
「タタラはまず、秘書の男に命じてアリスを剣で傷つけました。黒魔術で、死体に魂を入れる、というものがあります。……ぼくの姉のように」
皓然が顔を暗くさせたので、アダンが代わりに「タタラは、死にかけているアリスを祭壇に寝かせたんです」と説明の続きを請け負った。
「祭壇の下には、古代文字で書かれた魔法陣がありました。タタラは、その魔法陣を使って、ユリア様の魂を呼びだしたんです。そして、それが死にかけていたアリスの体に入って行きました」
皓然とアダンは、魔術によって地面に縫い付けられていたから、その様子をただ見ているしかなかった。
そして、ユリアの魂がアリスの体に入ったとたん、大爆発が起こった。
「——そこからは、ぼくらも何があったのか分かりません。気が付いたら、地上に出れていたので。というか、落とされたので」
「そうか。それにしても、皓然。お前、よくアリスに意志が残っているってわかったな」
ルイスの言葉に、皓然は何でもないように「だって」と声をあげた。
「あの時、ぼくらだけじゃなくて炭坑者たちも助けられていたから……。急に呼び出されたユリア様が、他にも人間がいるってことを、知っているわけがないと思ったんです」
とはいえ、規模も人数も分からないのに、あの大人数を一瞬で守り抜いたユリアに、皓然は驚いていた。
魔術はイメージ。どれくらいの規模、人数を守るのかイメージできなければ、どんなに防御魔術が得意でも、それは成立しない。
つまり、あの一瞬でユリアは炭鉱の規模、人数、その他すべてを感じ取り、それらを守る、移動させる、というイメージをした、ということになる。
そんな高等テクニック、現代のどんなに有名な上級魔術師にも、不可能だろう。そもそも、そんなことができる人間がいるのかすら怪しい。
しかし、ユリアはそれをやってのけた。
これはつまり、ユリアをその身に宿したアリスが、現代で一番の魔術師になった、ということを意味する。
ルイスは顔を覆って、長いため息をついた。
このことを知れば、保守派の人々はアリスをヘレナの討伐へと向かわせるだろう。それに、フォティア王国も黙ってはいない。ジャン王子ではなく、アリスを後継者に選ぶことは、容易に想像がつく。
何より、魔術界にいる人々の、アリスへ向ける目が変わる。
「——とりあえず、このことはアンには言わないで……」
「誰に何を言わないですって?」
冷たいその声に、思わずルイスは飛び上がった。
「アン……。起きてたのか……」
「ええ、最初から最後まで、全部聞いてたわよ」
ベッドから起きてきたアンは、ルイスを冷たい瞳で見おろした。
「アリスは、別世界に戻す。それでいいでしょう? ダリア先生に、あの子の面倒を見てもらいましょう」
「……それは確かに、俺も考えたさ」
その言葉にレオたちがビクッと体を震わせたが、ルイスはわざと気付いていないフリをした。
「でも、アリスの意思は? あの子が別世界ではなく、こっちに残りたいと望んだら、どうするんだ。それに、記憶は書き換えたとはいえ、あの子を知っている人間はあっちにだっている。家の敷地からは出られないぞ……」
「あの子の身の安全が第一でしょう!」
「か、母さん、落ち着いて!」
ルイスとアンの間に、レオが真っ青な顔で飛び込んだ。
「ここにはローズたちもいるんだよ! 家に帰ってから、この話はしよう!」
最もなレオの言葉に、アンは口から出かかっていた言葉を何とか飲み込んだ。
それに……。
「——ママ?」
ボサボサの金色の頭が、むくりと起き上がったから。
しきりに手で擦られている瞳の色は、——グレー。
「アリー、起きたの!」
アンは最初よろめいたものの、アリスに駆け寄ってその手を握った。
「体は何ともない? ユリア様はどうしたの?」
「ゆりあさま?」
アリスはきょとん、とした瞳でアンを見つめた。
「ママ、何の話をしているの?」
舌足らずなその言葉に、ルイスは思わず立ち上がった。
アリスが、アンを「ママ」と呼ぶ。それは、アリスがこの世界のことを知る前までの話だ。
「アリス……」
「あ、パパもいる!」
ルイスの姿を見て、アリスの顔がパッと輝いた。
「変なの。パパとママ、アリーが起きるのを待ってたみたい!」
クスクス笑う娘を見て、ルイスはごくりとつばを飲み込んだ。
「アリス。……お前、今いくつだ?」
震える手をアンの肩に添え、ルイスはこの仮説が間違っていることを心の底から祈った。
だが、現実というのは無常なものだ。
「パパ、今日は本当に変! アリーは六歳だよ!」
アンだけでなく、ルイスまで倒れこんでしまいそうになった。
お読みいただきありがとうございました!
また、今年は大変お世話になりました。
来年も『人間不信なくらいが、たぶん丁度いい』をよろしくお願いいたします。
皆さま、よいお年をお迎えください!




