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143.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 炭坑から抜け出すべく、炭坑主であるタタラとの交渉に乗り出したアリスたち。しかし、タタラは「黄家はユリアとかぐやの子孫だ」と言い出した。おまけに、ユリアを復活させるためにはアリスが必要なのだと言いだし……。

「——では、この作戦で行く」


 ルイスは、席についている魔術師たちの顔を一人ずつ見つめた。


 アリスたちを炭鉱から助け出すための作戦は練った。あとは、アエラスの代表者であるルイスが、ドラコをどこまで説得できるか、にかかっている。


 ルイスが説得を試みている間に、レオたちは例の炭坑の周りを囲っておく。いつ、ゴーサインが出ても大丈夫なように。


「作戦開始は、明日の正午。それまでに各々——」


 その瞬間、地面が大きく揺れた。冬眠していたミーナが起きるほどの大きな地震で、レオたちは慌ててテーブルの下にもぐった。


 これはテントだから、あちこちから支柱が倒れてきたが、おかげで潰されずに済んだ。


 揺れが収まってから、ゆっくりとテントから出た魔術師たちはハッとした。


 炭鉱町がある方角から、黒煙が昇っていたから。


「——アリス」


 無意識に、ルイスの口からその名前がこぼれ落ち、アンはルーナを連れて全速力で黒煙に向かって走った。


 そして、愕然とした。


 あの炭鉱町が、大きな穴の中に消えてしまっていたから。


「そんな……」


 ぺたん、とアンがその場に座り込んだところにレオたちがルイスを連れてやってきて、やはり、みんなも呆然とした。


 まだ炭鉱の中にアリスたちがいたのなら、確実に——。


「う、嘘……。嘘よ……」


 静電気をバチバチと鳴らすアンは、両手で顔を覆った。


「こんなの絶対に嘘よ! 嘘! だって……。嫌、嫌よ! こんな現実、受け入れないから!」


 取り乱すアンの隣に来て、ルイスもその場に座り込んでしまった。


 ——ああ、ゼノはこれを見たんだ。


 呑気に、頭はそんなことを考えていた。


 ついに大声で泣き叫び始めたアンは魔力を暴走させかけていた。だから、それを抑えなければいけない。


 頭ではそう分かっているのに、体が動いてくれなかった。


「アリス……」


 これまでのアリスとの思い出が、一気にルイスの脳内を駆け巡った。泣いている顔も、嬉しそうに笑っている顔も、怒っている顔も。


 何より——。


『パパ、大好き』


 そう言って抱きついてきた、あの子を。


「アリス……!」


「ルイス先輩、アン先輩、落ち着いてください!」


 その声の後、夫婦の頬に黒い手錠が当てられた。その瞬間、二人の周りで弾けていた静電気が消えた。


「メアリー……」


「アリスたちはきっと無事です! ……今は、それを信じましょう?」


 そう言ったメアリーの顔も、真っ青だった。おまけに手だって震えている。


 そうだった。あの炭鉱には、皓然とアダンも囚われている。それに、過去の脱獄囚たちも。魔術師として優先すべきは、その全員の安全を確保することだ。


 そのためにも——。


 ルイスは、雪の中に半分埋まっていたアンの手を、ぎゅっと強く握った。


「ルイス……」


「アン。アリスたちを、迎えに行こう」


 そうだ。もしかしたら、アリスがあの炭鉱町ごと、どこかへ瞬間移動したのかもしれない。あの子の魔力なら、出来なくもない。


 ……限りなく、ゼロに近いけれど。


 だが、今はそのゼロにすら、縋り付きたかった。


「作戦は変更だ」


 ルイスは振り向き、まだ驚きの最中にいる学生魔術師たちに声をかけた。


「救助を第一優先とする。ドラコとの話し合いは、この際後だ。俺が後で何とでも言い訳してやる。あの炭鉱町で働いていた人間、妖精たちの保護を優先。アリスたちを見つけたら、……俺たち上級魔術師に教えてく——」


「ねえ!」


 その声に、一同は一斉に顔をあげた。


 これまでずっと、意識は陥没した麓の炭坑町に注がれていたから、上には全く注意していなかった。


 みんなの視線を受け、声の主は楽しそうに微笑んだ。


 風に揺れる長い金色の髪、彼女の母親をほうふつとさせる美しい顔立ち。何より、アエラス王国の魔術師の制服。カスタマイズされたものだから、言ってしまえば、世界で一つだけの制服。


 それなのに、彼女の左目は青かった。


 青空を落とし込んだかのような、青だった。


「ねえ、さっきからあなたたちが言っている『アリス』って、この子?」


 少女——アリスは、自分自身を指さした。その時、前かがみになったから、彼女の腹の辺りで血がにじんでいるのが見えた。


 いや、よくよく見てみたら、背中から腹に向かって、剣が突き刺さっているではないか!


 それを見て、アンは終に気を失って倒れこんでしまった。


「アリス」


 倒れこんだアンの体を抱きしめながら、ルイスはカラカラに乾いた口を開いた。


「お前、その剣は……。ち、治療するから、降りて来なさい」


「うーん?」


 アリスは不思議そうにルイスを見つめてから、自身の腹に突き刺さっている剣を見て「ああ!」と声をあげた。


「そっか、これを心配してくれているのね? 大丈夫、私には効かないもの!」


 そういうが早いが、アリスが指を鳴らすと剣はサラサラと消えていった。それに、血が吹き出すこともない。


 ルイスたちは、ポカンとその様子を見ていた。


 あの少女は、確かにアリスだ。だが、どう考えても中身は別人だろう。人格が全く違っているし、アリスはあんな風に魔力を上手に扱えない。


「——そう。あの二人があなたのパパとママなの」


 アリスは胸に手を当て、どこか寂しそうに笑った。


「へえ、それにお兄ちゃんも。……チームメイト、友達、先生。ふーん、あなたを苦手に思っている子もいるの?」


 アリスはちらりとシオンを見てから、「へえ?」と楽しそうに笑った。


「さすがは、私の子孫ね」


「アリス!」


 意を決して、レオが声をあげた。


「皓然とアダンはどうした!? 一緒にいたんだろ!」


「皓然とアダン?」


 こめかみに手を当て、アリスはうなった。


「ねえ、知ってる? ——ああ、あの子たち」


 アリスはレオに笑いかけ、右の指をパチンと鳴らした。


 その瞬間、レオたちの背後にドサドサッと人間たちが落ちてきた。炭鉱町で働いていた人間たちと、妖精たち。その中に、傷だらけの皓然とアダンもいた。


 それから、険しい顔をしているタタラも。


「大変だったのよ? この子、あそこにいた生き物たちをみんな助けようとするんだもの」


「アリス!」


 起き上がった皓然は、真っ先に崖の先に立って、アリスを見上げた。


「早く起きてください!このままじゃ、体の支配権を取り返せなくなります!」


「黙れ、黄の小僧」


 タタラはというと、その場からアリスを見上げた。


「久しいな、ユリア」


「あなたは随分と年を取ったものね、タタラ。でも、まだ生きているってことは、やっぱり、かぐやの所へ行ったのね。人魚は美味しかった?」


 アリス——ユリアは、憎たらしいほど可愛らしい笑顔をタタラへ向けた。


「大丈夫よ、この子——『アリー』が全部教えてくれたから。隠さなくたっていいわ。かぐやってば、失礼しちゃう。私のことを何だと思っているのかしら。私は死んだって、パニックになっちゃって。タタラ、あなたもよ。私たちのこと、ただの道具としか思っていないんでしょう」


「まさか。ただ、力を借りたいだけだ」


「——へえ、本当?」


 ユリアが怪しく微笑んだ瞬間、タタラの右腕が明後日の方向へと飛んで行った。


 みんなの目の前で、タタラの右肩から血が噴き出している。


「私もね、自分を道具扱いする人のことが大嫌いなの」


 膝をついたタタラを、ユリアは冷たく見おろしていた。だが、急に頭を押さえて顔をゆがませた。


「なに、怪我させるなって? アリス。あなたってば、本当にわがままね……」


「アリス! 聞こえているんですか!?」


 再び、皓然はアリスに向かって叫んだ。


「なら、ぼくの方へ来てください! 意識ごと、こっちへ! 大丈夫、絶対に受け止めるから。だから、ぼくを信じて!」


「ちょっと、黙っててくれる?」


 ユリアは皓然を睨みつけた。


 だが、急にハッとした表情になった。顔は真っ青になって、頭を抱えていた手も力なくおろされる。


「ひか、る……?」


「アリス!」


 パウラが皓然の隣に立ち、彼女の中の最大声量で叫んだ。


「イメージしろ! 魔術はイメージ!」


 その瞬間、ユリアは大きく目を見開いたかと思うと、急に気を失った。そのせいで、体を浮かせていた魔術も解けたのだろう。


 アリスの体が、炭坑町があった大きな穴へと落ち始めた。


「アリス!」


 ルイスは魔術でアリスの体を受け止めると、「皓然!」と付き人の名を呼んだ。


「アリスを!」


「はい!」


 皓然が出した腕の中に、アリスはドサッと落とされた。途中で、ルイスの術が解けたからだ。


 皓然の腕の中で、アリスは気を失っていた。


「ルイス先生、もうちょっと優しく……」


「悪い、俺も動揺しているみたいだ……」


 振り向いた皓然に、ルイスは大きく息を吐いて見せた。顔を覆うその手は、震えていた。


 だが、ルイスにはまだ、すべきことが残っている。


「アダン——」


「大丈夫ですよ、ルイス先生」


 振り向いたルイスの視線の先で、アダンがタタラに向けて弓を構えていた。それに、精霊たちが炭坑者たちを囲っている。


 みんながアリスに注目していた中、アダンは皓然の指示でタタラたちが逃げられないようにマークしていたのだ。


「タタラも、そこの脱獄囚たちも、逮捕する。まあ、その怪我なら先に医務室かな」


「……」


 タタラはアダンを鋭い目つきで睨んだものの、抵抗はしなかった。


 タタラもまた、動揺していたから。それに、左腕には手錠をかけられているから、瞬間移動の魔術も使えない。


 ——ユリアがどれほど冷酷な人物だったのか、忘れていた。


 メアリーと各国の魔術師たちがアダンの手伝いをする中、アリスはルイスの腕の中へと帰された。


「すまない、助かった」


 アンとアリスを抱き、ルイスは震える小さな声で、そう漏らした。


「パウラ、ローズはテントを直してきてくれるか? 悪いが、皓然はもう一度、アリスを頼む。レオはアンを」


「はい」


 パウラとローズは走ってテントまで急ぎ、皓然はアリスを、レオはアンを、それぞれ抱き上げた。


 ルイスは、メアリーとともに立つと、声を合わせて手を動かした。


「“門よ、ここへ。我々をアエラス城へ”」


 何もなかった場所に、門が現れた。大理石でできた門には、金細工の植物と白鳥の装飾が施されている。


 門は、瞬間移動の術のさらに上。高難易度の魔術だ。ゆえに、門を作り出すことができるのは各国の選ばれた上級魔術師のみとなっている。


 開かれた門に、炭坑者たちはゾロゾロと吸い込まれていった。中には脱走しようとした者もいたが、魔術師たちがそれを許さなかった。


「シー坊」


 タボはシオンを小突いた。


「ここは俺たちに任せて、ランフォード嬢の所へ行っておいで」


「……いいのかね」


「お前が抜けたからと言って、脱獄囚を逃がしやしない。ほら、俺らの気が変わる前に行ってこい」


 シオンはタボに短く礼をすると、テントに向かって走って行った。


 そこには、ラウラや、セレナ、俊宇、ユーゴもいた。みんな、アリスを心配してきたのは一緒、というわけだ。


 だが、噂の金髪の魔術師はまだベッドの中。しかも、時々唸り声をあげていると来た。しかし、腹の傷は完全にふさがっていて、傷跡は一つも残っていなかったのだという。


「——皓然、説明してくれるか?」


 アリスを見つめながら、パウラは静かに補佐役の少年を呼んだ。


「どうして、アリスがユリア様になっていたのか」


 それに頷き、皓然はぽつぽつと、何が起こったのかを説明し始めた。


「タタラの目的は、ユリア様を復活させて今あるこの世界を壊すこと。だから、あの炭鉱所……、正確には、タタラの執務室の奥に、ユリア様の魂を器に移すための祭壇があったんです」


「ということは……」


 真っ青な顔をするレオに、皓然は頷いて見せた。


「アリスは、ユリア様の器になってしまった、ということです」

お読みいただきありがとうございました!

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