142.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
外へ脱出する交渉を炭坑主とするため、アリスはルイーズの物真似をしていた。だが、炭坑主のタタラにはそれが物真似だとバレていて、しかも、皓然を「かぐやの子孫」だと言い出し……。
「ユリアの子孫に、かぐやの子孫が仕える。あの二人も想像していなかっただろうな」
アリスとアダンは驚きのあまり、タタラと皓然の顔を交互に見比べた。
その皓然も、驚きのあまり口がきけなくなっていた。
「……確かに、かぐや様は千夜族の代表的な存在ですが——」
「代表なんぞで終わらせられんぞ。ヤツが、お前たち千夜族の始祖なのだからな」
再び口を閉ざしてしまった皓然を見て、タタラはフッと笑った。
「かぐやは、小人の突然変異種でな。ただの小人の夫婦の間に生まれたが、成長するにつれ、どんどん大きくなっていった。人間サイズにな。おまけに、魔術まで扱えるときた。それで、ヤツはあの娼館に売られたんだよ。小人からすれば気味が悪いからな」
「冗談はそれくらいに——」
「冗談なわけあるか」
タタラは組んでいた腕を解いて、自身の膝に肘をついた。
皓然の反応が面白くて、楽しくなってきた。
「あの頃の娼館は、女を閉じ込めて子供を産ませるための施設だった。かぐやはそこで何人もの男の相手をして、子を産み落とした。生まれてきた子供たちは、独立するとそれぞれ胡蝶だの、斎だの、安倍だのと名乗りだした。そして、かぐやが最後に生んだのが『黄』家だ。さらにそこから枝分かれし、李家やら朴家やらが生まれた。——なぜ、最後に生まれた『黄』が千夜族を取りまとめているのか、知っているか?」
ショックのあまり話せなくなったアリスたちに、タタラはこれまでで一番の笑みを見せた。ねっとりとした、気味の悪い笑みだった。
「黄には、ユリアの血が流れているからだ」
「……」
「お前たち黄も、ユリアの直系子孫だ」
皓然は、ついにギリッと奥歯を噛んだ。
「さっきから、何を言っているんですか? あなたの言う通りなら、ぼくら千夜族だって金髪と青い瞳を持っているはずです」
「持っているわけがない。金髪と青い瞳は、ユリアの呪いなのだから」
物凄い剣幕で皓然が睨んでいるというのに、タタラは呑気にお茶を飲む。
カップをクルクルと回しながら、そっと瞳を閉じた。
「あの男——皓とか言ったか。かぐやの長子で、ユリアが唯一、本気で恋をした相手だ。最初は、ただのお遊びだった。だが……。運命とは、不思議なものだな。お前、黄家なのだから家の始祖を知っているだろう?」
「百何」
「それは『黄』を名乗り始めてからの名だ。他の名前も知っているだろう?」
長い沈黙の後、皓然は静かに「イベリス」と短く答えた。
その言葉に、アリスは思わず反応してしまった。イベリスとは、花の名前だ。別世界の家——今はダリアの家だが、あの家の庭にアンが植えていたから、知っている。
花言葉は確か、「無関心」。花を植える時に、アンがそう教えてくれた。
「そう、イベリスだ。ユリアが名付けた。あの戦争で、皓は優秀な兵士として名をあげていた。ユリアと別れた後も、すぐ戦場にとんぼ返りしていたな。ユリアはな、何度も、何度も、手紙を送った。でも、一通も返ってこなかった。そんな中、生まれたのがイベリス。イベリスも金髪と青い瞳を持っていたが、ユリアはそれを消した。何故だと思う?」
「……知りませんよ、そんなこと」
「愛する人との、繋がりだったからだ。千夜族に黒髪黒目しか生まれなくなったのは、それからだ。おかげで、イベリスは権力争いにも巻き込まれず、すくすく育った……」
「もういいです」
皓然がタタラの話を遮ったので、アリスとアダンはハッとした。
話の内容が衝撃的だったから、ついつい聞いてしまっていたが、自分たちは今、交渉の場にいるのだった。
だが……。こんな話を聞いてしまったら、衝撃が強すぎて頭がうまく回ってくれない。色々と情報を処理する時間だって欲しい。
「——もう、十分です。十分、あなたの妄言には付き合った」
「妄言ではない。……が、そんなに苛立った状態で、この私と冷静にお喋りできるのか? ユリアとかぐやの子孫」
「ぼくをそうやって呼ぶのは止めてください。二度はありません」
さっきまで怖い顔をしていたのに、皓然はニコリとあの笑顔を浮かべた。
「ところで、どうしてあなたはドラゴンと共謀を? まだ学生とはいえ、一魔術師として看過できませんね」
「なに、難しい話ではない。ここは魔力石を山ほど手に入れられるからだ。ユリア復活のためには、大量の魔力が必要だ」
「なぜ、ユリア様を生き返らせるのでしょう?」
「今あるこの世界を壊すためだ」
そう答えて、タタラはアリスを品定めでもするかのように、ジッと見つめた。
「魔力の波長が乱れている。——アゴーナスを見させてもらったが、精神面も、魔力の技術面もお粗末。魔術師として、未熟すぎる。ユリアとは程遠いが、その魔力レベルの高さと家系特性だけは、お揃いだな。娘。どうやってかぐやを倒した」
「ど、『どうやって』って……」
「かぐやは、あの死線を共に潜り抜けてきた仲間だ。だからこそ、お前のような魔術師に負けるわけがないと言い切れる。よくて、防戦一方と言ったところだろう。どうやって勝った」
アリスは首をすくめ、「知らない」と正直に答えた。
あの時はとにかく、「死にたくない!」という想いが強かった。だから、がむしゃらに戦って……。
そうだ、フィンレーを呼びだした。自分の奥の手だと思って。
それで、フィンレーの特性を使って……。
そういえば、あの時の自分はどうしてレオの『百発百中』が使えたのだろう……。
「——なるほど、そういうことか」
アリスをジッと見つめるタタラの瞳は、不思議な色を帯びていた。
「その、フィンレーとやらがいれば、お前はフォティア王家の『百発百中』が使えるようになるのだな」
「……趣味が悪いな」
今までずっと黙っていたアダンが、タタラに険しい表情を見せた。
「人の気持ちを読む家系特性かな? だったら、隠していても意味がないよね。ぼくら、ここから出たいんだ。出してよ」
「それは無理だな、エルフの少年」
肘掛に体を預け、タタラは右手を挙げた。
「『ユリアの器』が自ら来てくれたんだ。帰すわけにはいかない」
タタラの指がなった瞬間。
「——え?」
一本の剣が、ソファの向こう側からアリスを串刺しにした。
「……?」
かすれる視界に、自分の血でぬらぬらと光る剣先が、腹から飛び出しているのが見えた。頭は冷静に、「あの小太りの男が刺してきたんだ」と状況を処理して、止まった。
「なん、で……」
名前を呼んでくれている二人ではなく、アリスはかすれた声でタタラに尋ねた。
「私の目的は、ユリアを復活させること。そう言っただろう?」
タタラは、アリスに美しく微笑んで見せた。
「私の理想の世界を作るために、死んでくれ。アリス・ランフォード」
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