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141.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 炭坑から三人そろって脱出するべく、アリスと皓然は捕まってしまったアダンをどう助け出そうかと頭を悩ませていた。そして、ふと、皓然は一つの作戦を思い立ち……。

 皓然の作戦。


 それは、わざと三人そろって捕まって、炭坑主に接触する、というものだった。


 もちろん、アリスは第一声「大丈夫なの、それ?」と彼に尋ねた。だが、彼曰く、これが一番、外に出られる確率が高いとのことだったので、不安は残るが頷いたのだ。


 そして、今。


 アリスたちは、炭坑主の秘書だという小太りの男に連れられて、大きな扉の前に立っている。


 およそ一時間前。


「——マブが『俺と炭坑主の言うことは絶対』って、言っていたでしょう? ということは、組のリーダーは炭坑主と接触することができるって、考えられませんか?」


「確かに、そんなことは言っていたけど……。ちょっと、無理やり過ぎない?」


「そうですか……。ぼく、あんなことを言うからには、炭坑主とマブとの間に何かしらのパイプがあると思ったんですけど……」


「それはあると思うよ。ほら、皓然も『ノルマ達成がある』って言ってたじゃん?」


 アリスは皓然をまっすぐに見つめた。


「多分だけど、マブの上に現場監督者がいるんじゃないのかな。マブはその現場監督者から炭坑主の指示を受けている、とは考えられない?」


「アリスの言う通りですね……。でも、やっぱり組のリーダーを通せばぼくらの存在を炭坑主に伝えることはできる」


「確かにそうだけどさ……。あのさ、具体的にどうするの? その、炭坑主に会ってから」


「そこなんです。アリスには一芝居お願いしようと思って」


「ひ、一芝居?」


 うなずいた皓然に作戦内容を聞かされ、アリスは顔をしかめたものの、うなずいた。


 そして、立ち上がってアダンを捕まえた組の者たちの前に颯爽と姿を現した。


「——アリス!?」


 真っ先にアダンがそのことに気付き、炭坑者たちはその後に振り返って、その瞳に金髪の魔術師を映した。


「何してんだよ! 皓然は……!」


「“アリス・ランフォードが命じる。私の言うことを聞きなさい”」


 その瞬間、炭坑者たちは一斉にピシッと背筋を伸ばし、動けなくなった。


 それを見て、アリスは口角をあげたが、その口元は右手で隠した。


「そう。私の指示があるまで、そうやって突っ立っていればいいわ」


 ポカンとしているアダンの元に、皓然が走ってやってきた。腰に付けていたナイフで彼を拘束していた縄を断ち切り、「大丈夫ですか?」と尋ねながら立ち上がらせた。


「大丈夫だけど……。アリスのアレ、何?」


「えーっと、ルイーズの真似……、です」


 皓然がアリスにお願いした一芝居というのは、「ルイーズの真似をしてくれませんか?」ということだった。


 交渉の場において、こちらがビクビクしていては相手の有利なように事を持っていかれてしまう。だから、堂々として、冷静な頭で相手との話し合いを進めなければならない。


 長いことパウラと一緒にいて、皓然はそのことを肌で実感していた。それをアリスに分かりやすく説明し、実行してもらうには、「ルイーズの真似をして」とお願いするのが一番だと思ったのだ。少なくとも、これで堂々とはしてくれるはずだ。


 アリスはルイーズに対して悪い印象しか持っていないようだが……。


「この組のリーダーは、どなた?」


 相変わらずルイーズの真似をするアリスの問いに、一人の女が手をあげた。中年で、ひょろりとしている、ネロの囚人服を着た女だ。


「そう。じゃあ、あなた。私たちが来たことを、ここの炭坑主に伝えてちょうだい。『ユリアの子孫が会いに来た』ってね。私の方から会いに来てあげたんだもの、まさか、私のことを無下にするわけないものね?」


 そう言って高笑いをするアリスを見て、アダンは「やりすぎだって」と小さく漏らしたのだった。


 それからしばらくして、小太りの男がやってきて「タタラ様の元へご案内いたします」と、アリスたちをこの扉の前まで連れてきたのだった。


 ルイーズのモノマネのしすぎで、表情筋が痛み出したアリスを。


 炭坑主のタタラがいるのだという部屋は、急な坂道を何十分も登った先にあった。途中、マブと石や砂利を捨てた場所を通ったから、かなり地上に近い場所まで来たことになる。


 ——もしかしたら、皓然の言っていた通りかもしれない。外に出られるかも。


 その希望が、アリスの緊張を少しだけ和らげていた。これからの交渉は、自分次第なのだというのに。


 恭しく開かれた扉の向こう側に、短い赤髪と赤い瞳を持った、中年の女性がソファに座ってアリスたちのことを待っていた。


「お前か、ユリアの子孫というのは」


 足を組む女性は、まるで値踏みでもするかのようにアリスを見つめた。


 それから、その隣の皓然も。


「千夜族……」


『——それじゃあ、かぐやの一族が呪われているみたいだわ。そうねぇ、……『千夜族』、なんてどう? かぐやの髪と瞳は夜空みたいだし、人魚の血肉を食べたから千年生きるのでしょう?』


 その言葉を振り払おうと、赤髪の女性は軽く頭を左右に振った。


「私はタタラ。ここの炭坑主、と言えばわかるか。よく来たな、アリス・ランフォード、黄皓然、アダン・トゥータン」


「あら、私たちのことをご存知なのね」


 なおもルイーズの真似をするアリスは、真っ先にソファに腰かけてタタラに微笑みかけた。


「ずっと地中に潜っていらっしゃるから、私たちのことを知らないのだと思っていたわ」


「お前たちのことを知らないのなんて、こちらに来たばかりの別世界出身者くらいだろう。よく知っているとも。それは一体、誰の真似だ? お前と敵対しているという、ルイーズ・ド・フレースか?」


 その言葉にアリスはピシッと固まり、代わりに皓然が「お詳しいですね」と口をはさんだ。


「そうか、お前の入れ知恵か」


「さて、何のことだか」


 真っ赤な顔でプルプルと震えているアリスを一瞬だけ見てから、皓然は視線をタタラに戻した。組んだ手を膝に乗せ、体を前に乗り出してタタラに微笑みかけた。


 アリスも出会って最初の頃によく見ていた、あの人畜無害そうな笑顔を。


「ここからは、彼女に代わってぼくがお話しますね」


「なるほど。ルイス・ランフォードの付き人をしているのだったな」


 こちらは腕を組み、背もたれに体を預けたタタラは、ニヤリと笑った。


「ユリアの子孫に、かぐやの子孫が仕える。あの二人も想像していなかっただろうな」

お読みいただきありがとうございました!

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