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139.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アリスたち救出のため、そして、炭坑で働かされている囚人たちを取り戻すため、各国から魔術師たちが派遣されてきた。その中には、シオン、ニコ、ディルたちの姿も。すぐに情報交換の場が設けられ、ディルはアリスたちの無事をみんなに報告した。その時、アリスたちは……。

 皓然と坑道を歩きながら、アリスはちらりと隣の彼を盗み見た。


 アリスは、皓然のことを、頼りになる先輩だと思っている。それでいて、兄の友達で、父の付き人で、チームメイトで、アリス自身の友達でもあって……。


 そんな面倒見の良い年上の友達は、聴診器を耳に、アダンの居場所を探ろうとしている。だが、アリスからの視線に気が付いたのだろう。ふと、顔をあげた。ずっと地面すれすれのところで作業をしているからか、頬には泥がついてしまっていた。


「どうかしました?」


「あ、ううん。その、炭坑ってこうなってたんだなって。それに、皓然って炭坑について、やけに詳しいなぁ、とか思って」


「ああ……」


 聴診器を首にかけ、皓然はごつごつとした岩肌を見つめた。


「小人って、魔力を弾く鉄を国外に売って外貨を稼いでいるんです。なので、炭坑町がいくつもあって。ぼくが住んでいた町も、そうでした。——手錠とかもナーノスの鉄が使われているんですよ。魔力を弾くということは、魔術や魔法が使えなくなる、というわけですから」


 アリスが去年受けた、魔力テストの時に渡された鉄が、まさにそうだった。


 魔力が暴走した時、まずは暴走している魔力を取り除く、というのが最優先。そんな訳で、アドワはアリスにナーノスの鉄を手にするよう、指示したのだった。


「ああ、そういう……」


 皓然からその説明を受け、納得する反面。アリスの好奇心は次の疑問点を彼にぶつけようとしていた。


 だから、しばらく考えて、アリスは思い切って皓然に聞いてみることにした。


「皓然は、どうして魔術師になろうと思ったの?」


「え?」


「ユーゴから聞いたけど、王宮に引き取られたからと言って、必ず魔術師にならなければならないわけではないんでしょ? つまり、他の職業も選べたわけだし、学校に通うこともできたわけじゃん」


「……」


「……あの、答えたくなかったら、ぜんぜん答えてくれなくてもいいんだけど……」


「あ、いえ。そういうわけでは……!」


 激しく首を左右に振り、皓然は少し考えてから「昔」と語り始めた。


「ぼくは、たまたまアエラスに来たって前に離したと思います。でも、その前にその、色々とナーノスでありまして。ぼくはずっと、奪われる側の人間だった。恐怖や不安とか、そういう、負の感情をよく知っている。だから、誰よりも強い魔術師になろうと思ったんです。もう誰も、ぼくから大切なものを奪えなくなるように。……ぼくは、そういう自分勝手な人間なんですよ」


「そんなことないよ」


 アリスは、それを強く否定した。


「それは、皓然が強いからできることだよ。本当に自分勝手な人は、同じような背景があったとしても、人を助ける魔術師にはならない。だって、復讐のことばかり考えるから」


「……パウラにも、同じことを言われました」


 皓然は、ふにゃりと笑った。


「その後ですよ。二人で『お互いを助けよう』って約束をしたの。前から思っていましたけど、君とパウラはよく似ていますね」


「そんなことないよ。私、パウラみたいに的確な指示とか、判断できないし……」


「パウラだって、最初から指示が的確だったわけじゃないんですよ。ぼくら、一年生の時は少しだけルカ先輩のチームにいて、アゴーナス前に独立したんです。独立したての時は、まあ、酷くて。依頼が達成できないことだって、沢山ありました。レオはほどんと別世界にいたし、ぼくとパウラは意見が対立しまくるし」


「そうだったの?」


「はい。それでも、彼女についていけたのは、裏で沢山努力をしているのを知っていたからです。兵法や交渉術、それにルカ先輩や先生たちに質問をして勉強をしていること……。ああ見えて、パウラは真面目ですからね」


「そのことは知っているよ。そうじゃなくちゃ、学年二位なんて取れないでしょ?」


「それもありますね。——君はよく、ぼくとパウラの仲を聞いてきますね。でも、それはきっと、ぼくがパウラを尊敬しているから、そう見えるだけなんだと思います」


「そっか……」


 確かに、アリスもパウラによく懐いている自覚があるから、何となく分かる。それに、彼の言葉がスッと心に染み込んでいくのが分かった。


 皓然は、パウラを「人として好きだ」といった。


 それは、アリスも一緒。パウラのことを尊敬しているからこそ、そういうことが言えるようになる。だって、信じて自分の命さえも任せられるから。


 魔術界に来て、アリスが知った一番大事なこと。


 その間にも皓然は聴診器を岩肌に当てて、時々石で壁を叩いていた。


 それを繰り返しながらも、少しずつ、アリスたちはアダンへと近づいて行った。


 だが、ふと。


 ふと、聴診器を壁に当てていた皓然が思い切り顔をしかめた。


「……アリス。残念なお知らせです」


「アダン、捕まった?」


「大正解」


「嬉しくない正解……」


 ここにきて、水を探しに行っていたアダンが何者かによって捕まってしまった。


「だから油断するなと、常日頃……」


 ため息をついた皓然だったが、ふとその表情を悲しいものにした。


「それを言ったら、ぼくもか。とにかく、アダンのことを助けに行きましょう」


「うん」


 聴診器を首にかけた皓然はそう言ってアリスの前を歩き出したが、突然その足を止めた。フレアは、アリスの手の中へ。


「誰かいる」


「えっ」


 そっと二人で覗き込んでみると、どうやら他の班の炭坑者たちらしい男たちだった。その奥には、縄で縛られ、壁際に転がされたアダンの姿も見える。


「こんな近くにいたなんて……」


 アリスは唾を飲み込んでから、皓然に「どうする?」という視線を向けた。もちろん、アダンのことは助けに行く。だが、問題はどのようにして助け出すのか、ということだ。


「囚人服、脱がないでおくべきだったな……」


 低い声でうなり、皓然は考えるときの癖で、口元に手をやった。


「一気に攻め込んでアダンを回収してくるか……。いや、リスクが大きすぎる。それに、魔術師って言うだけで警戒もされているだろうし……。ん、いや? 待てよ?」


 パッと顔をあげた皓然の頭に、ある作戦が思いついていた。こちらもやはりリスクが伴うが、だが、一番外に出られる確率は高い。


 あまり褒められた作戦ではない。けれど……。


 皓然は不安そうなアリスを見つめ、ごくりとつばを飲み込んだ。


 この作戦、アリスにすべてがかかっている。

お読みいただきありがとうございました!

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