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138.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 ついに、アエラスの王宮魔術師であることがバレてしまったアリスたち。炭鉱夫たちから逃れるため、三人は小さな穴の中に飛び込んだ。そのころ、アリスたちを救出しようと動いていたレオたちはというと……。

「——なるほど。あの炭鉱か」


 レオにスコープを返しながら、ヒューは顔をしかめた。


「厄介だな。それで、ヤンセンからの返答は?」


「ビンゴだ。さすがは父さん。十五年前、フォティアから脱獄した囚人と番号が合致した」


 三日間観察していて、毎日のように新しい囚人が補充されていることが分かった。それは必ずしも、アエラスとは限らなかった。ネロ、フォティア、ガイアの三か国の囚人服も確認できた。それぞれ、シオン、ニコ、ディルに問い合わせたところ、他の三カ国も同じく行方不明の囚人であることが分かった。


 さらに、レオが密かに持ち帰っていたUSBには、例の戦闘ドラゴンがアリスたちを攻撃しようとしていた場面もしっかり映っていた。


 これらのピースを集めたルイスは、ドラゴンたちに一泡吹かせようと、テントの中でずっと作戦を考えている。


 問題は、アンだ。


 アリスのことが心配過ぎて、食事も喉を通らないと来た。そんな状態では頭も回るはずもなく、ルイスとは違う理由でテントから出ない生活を送っている。


 しかし、ドラゴンたちを追い詰めるための駒は揃いつつある。


 二人がテントに戻ると、シオンたちがやってきていた。


「シオン! 早かったな!」


「まあね。それにしても、昨日の今日でこんな大事件に巻き込まれるなんて、君らも大変だね」


 ルイスが考えた作戦は、こうだ。


 皓然の罪については、レオが持ち帰ってきたUSB映像を使い、「どっちもどっち」という判決に持ち込むこと。


 炭坑に関しては、他の国の囚人もいて、アエラスだけの問題ではないので、他三か国と合同で動くこと。そうすれば、アエラスの「負い目」も少しはカバーすることができる。


 そこで、各国から腕の立つ魔術師チームが一チームずつ派遣されることになったのだ。ネロからは、シオンたちが派遣されることになったようだ。


 だが、違和感が一つ。


「一人、足らなくない? カエサルはもう卒業したからいないのは分かるんだけどさ。ミーナは?」


「……冬眠した」


 シオンの震える指の先で、白い大きな蛇がとぐろを巻いてぐっすり眠っていた。


「いや、仕方がないのだよ。ミーナは蛇人間だからね。だが、ここまで誰が引っ張ってきたと思う? ぼくだよ! こういう時に限って、ナナもタボも運ぼうとしないんだ!」


「あー、うん。お前も大変だな……」


 憐みの目をシオンに向けていると、フォティアからも魔術師チームが到着した。


「やっほー。シオンくんが、また可哀そうなことになってる気配を感じたよー」


「ニコ!」


 レオは思わず笑みを漏らした。


「フォティアからはお前らだったんだ!」


「うん。実際に話を受けたのは俺らだからね。そのまま依頼として引き受けることになったってわけ。それに、アリスが連れて行かれちゃったんだろ? ラヴも大事な友達が行方不明だから、力になりたがっていてね」


「はい。ドラゴンの奴らの首を切り落とすつもりで参りましたの」


「……ってな感じで、気合だけは十分だから」


「首を切り落としたら、君も炭鉱に連れて行かれるのだよ……」


 シオンは肩をすくめてから、すっかりやつれたアンを見つめた。


「アン先生も、気が気じゃないだろうね」


「ああ……。何も食ってくれないんだ。泣くか、吐くかしかしなくて……」


 レオはそっとアンに近づくと、わざと明るい声音で「母さん」と声をかけた。


「ほら、見て! シオンたちも手伝いに来てくれたよ! きっと、アリスたちも無事だよ」


「ああ、うん。そうね……。ありがとう、みんな。助けに来てくれて……」


 アンは力なくシオンたちに微笑んだ。しかし、すぐにその視線は手元へと落とされてしまう。そこには、この夏に撮ったばかりのアリスの写真がある。


「お母様……。どうか、どうか、アリスをお守りください……」


 幼い頃に亡くなった母にすがるほど、アンは精神的に参っていた。


「アン先輩。レオが言う通り、きっと三人とも無事ですよ」


 メアリーも、アンの顔を覗き込んで微笑んで見せた。


「だから、早く迎えに行ってあげましょう? そのためにも、先輩の知恵をお借りしたいんです」


「ええ……。そうね」


 涙をぬぐい、やっとアンは顔をあげた。


 そのことにホッとしているレオたちの元に、最後の一カ国、ガイアの魔術師たちが到着した。


「——結局、このメンバーか」


 少数精鋭の魔術師たちを連れて登場したディルは、集まったメンバーを見て肩をすくめた。


「なになに、不満なの? 国から期待されてるってことなのに」


 ニコに肩を組まれても、ディルはやはり浮かない表情だった。


「裏を返せば、失敗は許されないってことだろ。それから、我が国で分かったことを共有しておくよ」


 ディルのその一言によって、早速情報共有の時間がとられた。


「ドラコはガイアの隣国ですから、色々と情報が入ってくるんです」


 ドラコとガイアの間には広大な共有管理地が存在していて、それを挟んでお隣さん同士、ということになる。


 ドラゴンが人間に対してあまり良い印象を持っていないことから、ガイアは特に、ドラゴンたちの動向に目を光らせている国でもある。


「ドラゴンたちは鉱石類のほかに、魔力石を掘り出し、それを裏で売っています。ただ、彼ら自身が掘っているわけではない。ノームたち妖精や、人間を使っています。ここまでは有名な話なので、皆さんもご存知かと」


 一同が頷いたのを見て、ディルは「問題は二つ」と顔をひきつらせた。


「その炭鉱で働いている人間たちが、空賊によって全国から誘拐されてきているということ。もう一つ、炭坑主が三英傑のタタラ様である可能性が高い、ということです」


「三英傑のタタラ!?」ユーゴが驚きの声をあげた。「もしかして、ユリア様と一緒に悪魔軍を退けた、あのタタラ様のことをおっしゃってます?」


「その通り」


 ディルは大きくうなずいた。


「これまでは、あくまでも都市伝説の範囲だった。でも、今年の職業体験で、かぐや様が二千年の時を生きていることが分かって、タタラ様が炭坑主説も一気に濃厚になった。タタラ様も、人魚の血肉を口にして寿命を延ばしている可能性がある」


「質問したい」


 ナナがスッと手をあげた。


「何をもってして、その説が浮上した? 偽名で『タタラ』を名乗っている可能性もあるだろう」


「タタラ様は、炭坑者たちにとっての守り神です。よって、炭坑者たちの間ではユリア様よりもタタラ様を称える風習があります」


「なるほど。タタラ様への不敬に当たるから、偽名でも『タタラ』を名乗る可能性が低いってことか」


 パウラは腕を組み、ディルを見つめた。


「ボクからも質問。さっき、かぐや様が二千年生きているから、タタラ様も同じなんじゃないかって話が出たろ。どうして、そう思った?」


「ここだけの話、例の炭坑には情報提供者がいる」


 みんなが驚いの声を上げる中、上級魔術師である三人は「そうだろう」と大きくうなずいていた。


 ドラコが、もしナーノスを下したとしたら。次に狙われるのは隣国であるガイアだろう。ガイアはそのことを考えて、スパイやドラコ内に情報提供者を作っていることは、容易に想像できた。


「その情報提供者の話によると、タタラ様は何とかしてユリア様を復活させようと考えているみたいなんだ。そのためには、四つの王家の血と、大量の魔力がいる。……それから、ランフォードご夫妻」


 ディルは、ルイスとアンを見つめ、ふ、と表情を緩めた。


「その情報提供者の話によると、今の所、三人とも無事なようです。黄が、上手い具合に立ち回ったそうで」


「そうか……」


 さすがのランフォード夫妻とメアリーも、この知らせには体中の力が抜けたようだ。パウラたちも、さっきより顔色が良くなった。


 ルイスは長く息を吐きだしてから、「しかし」と、再び表情を硬いものにした。


「早めに助けに行くに、越したことはないだろう。何せ、皓然は小人の言葉を話しているし、アリスは金髪で、アダンはエルフ。毎日のように要員補充されているのなら、すぐ魔術師だとバレるだろう」


「はい、情報提供者も、すぐに魔術師だとわかったようです。アリスの金髪は別世界出身者だから、と誤魔化せたようですが、黄の言葉を聞いてすぐピンと来たと。彼のアエラス語は、少し片言ですしね」


「やっぱりな」


 小人の言葉を話す人間など、皓然しかいないのだから。そもそも、千夜族というだけでも目立つというのに。


 よりにもよって、目立つ三人が連れて行かれてしまったものだ。


 ルイスは瞳を鋭いものにした。


「さて、作戦会議を始めようか」

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