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137.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 炭坑所に送られてしまったアリスたちを救うべく、レオたちは作戦を練っていた。そんな中、レオと一緒に炭坑所を見に行ったルイスは、ある事件との関連性に気が付いて……。

 この炭坑に来て早三日。ついにこの日がやってきた。


 アリスたちは急に現場まで引っ張り出されて、いくつも道別れしているうちの一つ、細くて小さな穴が開いた壁の前まで連れて行かれた。


「カナリア、行け」


 やっぱり。


 心臓が飛び上がって、ドクドクと音を立てながら血液を体中にめぐらせ始めた。背中には冷たい汗が流れ、手足がガタガタと震えだして呼吸も浅くなる。


「ぼくが行きます」


 アリスを後ろに下がらせて皓然が進み出るが、周りはニヤニヤしていた。


「ダメだ。そこのちっこいのが行く」


 マブに反対されてしまった。


「俺と炭坑主の命令は絶対。お前、あの時それを了解したよな?」


 ハッとした皓然は唇を噛んで黙り込むしかなかった。


 その間にも、アリスはたいまつを渡され、嫌がる暇もなく穴の前まで引きずり出された。


「おら、さっさと行け!」


「嫌だ、放して!」


 嫌がって、アリスは思わず逮捕術を使って自分を羽交い絞めにする男の腕を振り払ったが、頬を殴られて思わずその場に倒れこんでしまった。


「アリス!」


 アダンが思わずアリスに駆け寄ったが、それがまずかった。


「アリス?」


 周りがそれに反応してざわめきだしたのだ。いくら閉鎖的なこの環境でも、ビックニュースは入ってくる。特に、ヘレナに関するニュースは。


 金髪のアリスなど、魔術界には一人しかいない。


「——だから言ったろ、互いを名前で呼ぶなって」


 マブは皓然の胸倉をつかみ、目を細めた。


「もう隠せねぇぞ、黄皓然」


「……」


「なあ、リーダー。この女で遊んでもいいか?」


「金髪の女で遊べるなんて、この先、一生ありえねぇし」


「ああ、好きにしろ」


 その言葉を聞いた瞬間、皓然は強く唇を噛んでマブを睨みつけた。


「——おい」


 アダンを羽交い絞めにし、気を失っているアリスの服を暴こうとしていた男たちは、その低い声に思わず動きを止めた。


「その子に汚い手で触れるな。殺すぞ」


 あまりにもその殺気が凄すぎて、男たちだけでなくアダンまでビクッと体を震わせた。


「……随分と過保護なこった」


 マブは皓然と額を突き合わせて、さらに強く彼の胸倉を引き寄せた。


「そんなにあの女が大事か。あれは金髪、アエラスから来たのなら、あのランフォードの娘。そうだろ? ランフォード兄妹があの戦争の裏で何をしていたのか……、特にヘレナ・ランフォードがフォティアを落とした話を知ってるはずだ。どうして、そこまでしてあの女にこだわる」


「……約束したから。必ず守るって」


 マブを投げ飛ばした皓然は、そのままアリスとアダンを囲っている男たちにも襲い掛かった。だが、マブもやられっぱなしというわけにはいかないから、なおもしつこく皓然に襲い掛かった。


「フレア!」


 アダンの声が響くと、突然マブの指先が燃え上がり、狭い行動に悲鳴が上がった。


「皓然、無事!?」


「無事!」


 皓然はマブの手から逃れると、地面に倒れこんでいたアリスの体を担いで何のためらいもなく、小さな穴に飛び込んだ。アダンとフレアもそれに続き、三人が入り込んだのを見てから、皓然は一言叫んだ。


「“閉じろ”!」


 三人が逃げ込んだ小さな穴は、天井から崩れ落ちてきた大きな岩々によってふさがれてしまった。


 しばらく二人で細い道を走っていたが、誰も追ってこないのを見て休憩することにした。


「フレアが爆発を起こしてないってことは、ガスは無さそうですね」


 皓然は地面に座り込んで、ずっと背負っていたアリスを抱きかかえて優しくその体を揺さぶった。


「ぼく、水を探してくる」


 アリスがなかなか起きないのを見たアダンは立ち上がり、まだまだ先に続いている道を歩き始めた。


 皓然が「でも」と声をあげると、アダンは振り向いて明るく笑った。


「大丈夫。エルフは目がいいから、ちゃんと探せるし、戻って来れるよ。——あ、そうだ」


 アダンは囚人服を脱ぎ捨てて、魔術師の制服のポケットから「じゃーん!」と魔法使いの杖を取り出した。


「明り取り用に持ってきてたんだ。フレア、これの先っぽに火をつけて」


 フレアは小さくうなずくと、アダンが持っている杖に向かってフッと息を吹き付けた。杖の先に、丸い炎が現れてゆらゆら揺れている。


「じゃ、行ってくるね」


 アダンは杖を持って奥へ奥へと歩いて行ってしまった。


 その後姿を見送ってから、皓然は再びアリスの体を揺さぶって声をかけ始めた。


「ん……」


「あ、気が付きました?」


 薄く開いた目は、いつもより潤んでいた。まだ何が起こっているのか理解できていないらしい彼女は、ボーっとこちらを見つめてくる。それが恥ずかしくもあるのだが、我慢して「アリス」ともう一度彼女の名前を呼んで照れ隠しに笑って見せた。


「あ……」


 急に眼を見開いたアリスの顔が、明かりのせいか、赤く見えた。


「は、皓然……?」


「うん。ごめんね、こんな痛い思いをさせてしまって」


「えっと、何が起こって……」


 慌てた様子で皓然の腕からすり抜けたアリスは、まだ腫れている頬をいたわりながら周りを見回した。フレアがいてくれているから、周りはぼんやりと見えるくらいには明るい。


 それで、皓然は何が起こったのか、アリスに簡単に説明してやってから立ち上がった。バレたのならもういいだろうと、囚人服も脱ぎ捨てる。


「……囚人番号十三番、二十四番、六十二番。……十五年前、脱走して行方をくらました囚人たちと、同じ番号」


「え」


「十五年前、人間の四カ国の囚人が一斉に逃げ出してしまう事件が起こったんですよ。他国のことは知りませんが、ここにいたガルシアの囚人服を着ていた人たちの番号は、まだ戻って来ていない、行方不明の囚人たちの番号と同じでした」


 アリスも囚人服を脱ぎ終わってから、皓然は自分たちの囚人服を集めて、その囚人番号だけをはぎとってポケットにしまい込んだ。


「行きましょうか。フレア、手伝ってもらってもいいですか?」


 フレアは頷いて皓然の手のひらにちょこんと座り込んだ。


「待って、アダンはどうしたの?」


「水を探しに行ってます。でも、ここは一本道だから、ぼくらが動いたところですれ違うことは無いでしょう。分かれ道が出てきたら、そこでアダンを待ちましょうか。ここも安全とは限りませんし」


 それにアリスは頷き、二人は並んでフレアの明かりだけを頼りに歩き始めた。


「ところで、ここは?」


「君がカナリアとして中に入れられそうになってた道。一か八かだったけど、有毒ガスは無さそうですね。それより、体は? 大丈夫ですか?」


「まだ頭がちょっとぼーっとするけど、平気。歩く分には大丈夫。走れるかは分からないけど」


「呂律も回ってるから大丈夫とは思うけど、気分が悪くなったらすぐに教えてくださいね」


「うん」


 それからしばらく、二人は黙って歩いた。二十分、三十分……とにかく歩き続けて、二人はやっと分かれ道にたどり着いた。


 皓然がフレアを地面すれすれに近づけて地面を観察してみるが、分かれ道のどちらにも、アダンが通った形跡はなかった。数人分の足跡がどちらにも続いていたからだ。


「ここ、他の道と繋がってたんですね」


 そう言って皓然がポケットから取り出したのは、小型の聴診器のようだった。


「それ何?」


「音を拾えるんです。構造は聴診器と似てるかな。保安課員はもしもの時のために、音で合図を送ることもあるから、その時ようです」


 聴診器を耳に当てて、皓然は足元に落ちていた小石を持ち上げて壁を叩き始めた。坑道の中に石と石がぶつかり合う音が溶けていく。


 しばらく聴診器を壁に当ててから、皓然は眉をひそめて聴診器から耳を外した。


「やばいかも」


「え」


「アダンが『良い人が、水を分けてくれる』って大はしゃぎしてます」


「絶対、騙されてるじゃん」


「ええ。こういう場所で水を分けてくれる人なんて、いるわけない」


 皓然はしばらく地面を観察してから、右側の道へ歩き出した。


「アダンが履いているのと、同じ靴痕がありました」


「く、靴底まで把握してるんだ……」


「足元を見るだけで、読み取れる情報って結構多いんですよ。例えば、ぼくの右足」


 そう言って、皓然が見せてくれた彼の右足の底は、踵が擦り切れていた。


「小人の剣術では、すり足って言って、足を擦って歩くんです。だから、どうしても右足だけいつも擦り切れちゃうんですよね」


「どうして右足だけ?」


「左足の踵は浮かせるからです。すり足を使うと、歩く時と違って体の上下運動が無くなって、相手の懐に入りやすくなるんです」


「へえ!」


「つまり、ぼくと同じような靴底の擦り減り方をしていたら、小人の剣術を習得していると思っていいわけです。あとは、手からも結構わかることってあって……」


 二人は、そうやって話しながらアダンを探しに行った。

お読みいただきありがとうございました!

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