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136.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 炭坑では、いらない岩を運ぶ仕事を与えられたアリスたち。不思議なことに、アリスたちは全く知らない、炭坑でのルールを皓然は色々と知っていた。そんな彼は、パウラたちが絶対に助けに来てくれると信じているらしい。一方、そのころパウラたちはというと……。

 空賊の男たちは、怖い魔術師たちの尋問に素直に答えた。人をさらって炭坑に売っていたこと。そのほとんどが高い値で売れたこと。炭鉱町まではホビーで連れて行くこと。連れて行くまでの間に何かあった時、それを埋める場所。……炭坑町の主はタタラと言うこと。


 その間に、ルイスとヒューたちのチームもやってきたから、空賊たちはさらに素直になった。


「そのタタラのことは、何も分からないの?」


 イライラした様子のメアリーが椅子に座って足を組むと、「会ったことはねぇ。いつも部下伝いに会話してるからな」と床に顔をこすりつけながら、リーダーの男はかすれた声を上げた。


「だが、いつも大金をたんまりとくれるから、別に良かった。俺らとタタラの約束事は三つだけ。一つ、攫ってくるのは魔術師ではないこと。二つ、貴族ではないこと。三つ、俺らの関係とあの町のことを話さないこと」


 つまり、この男はその約束事を二つも破ったことになる。取調する側にとって、これは良い情報をくれる鴨であるし、同時に口の軽くて信用できない者になる。


「タタラ、ふいごね。……炭坑町にちなんだ名前ってところかしら」


 狼ローズは低いうなり声をあげ、唇をめくり上げて人さらいたちに鋭い牙を見せつけた。男たちが怯えた声を上げるが、容赦はしない。本気で噛みついてやろうかと、何度思ったことか。


「三人に手を出して……! 絶対に許さないわよ……!」


「ローズ、抑えるんだ」パウラも腕を組んで険しい表情をしている。「こいつらは先生たちに任せて、ボクらは皓然たちを迎えに行く算段を付けよう。あまり長居させたくない。そのためにも、君には冷静でいてもらわないと困る」


「問題は所有権か……」


 レオがそう呟くと、メアリーと同じく椅子に腰かけていたルイスは黙って髪をかき上げた。


 場所も現状も分かっているのにレオ達が踏み込めないでいる理由。それが、土地の所有権だ。


 アリスたちが連れて行かれたとみられる炭鉱町は、どこからどう見ても、どうひっくり返しても、ドラコの領土で間違いなかった。


 つまり、四つの国の魔術師たちでは中に入ることが出来ない。旅で通る、事故で飛ばされたなどの特別かつ稀有なケースを除き、武装した魔術師が他国に踏み込むことが出来ない。それは最悪の場合、侵攻とみなされ、圧力をかけられてしまう場合があるからだ。


 アリスたちは、事件に巻き込まれた被害者であるから、罪に問われることは無いだろう。だが、レオ達の場合は自らその場所へ行く。理由がどうであれ、武装した魔術師がなんの許可も得ず、ずかずかと行くことを、他の国々はどう思うだろうか。


 と、面倒な国際問題に発展しかねないので、レオ達はここで上に報告し、ドラコの許可を得られるまで待機していなければならないのだ。


「いっそのこと、どっかの貴族の所有地だったらなぁ」パウラが髪をかきむしった。「そうだったら、色んな手を使って丸め込んで、アリスたちを助け出した後にしょっ引けるんだけど」


 本当、そうであったらどんなに楽だったことか。


 他国の許可がいる。それはつまり、その国が拒否したら踏み込めないということだ。それだけは、どうしても避けたい。


 それなのに、こういう時に限ってこの嫌なカードを引いてしまうのだ。


 レオはメアリーのスマホが震え、それに出たメアリーが顔をひきつらせたのを見て、「ほら、やっぱり」と心の中で怒り狂った。何となく、こうなることは予想がついていた。


「やっぱり、ドラコが救助を拒否しているんですって。『犯罪者をそう簡単に引き渡すわけにはいかない』って……」


「——おごっ?」


 急に変な声が聞こえたから、みんなは一斉にそちらへ目を向けた。そして、空賊の男たちがそれぞれ奇声をあげながら頭を膨らませているのを見て、驚きで目を見張った。


 わざとでは無さそうだ。男たちは魔力を弾く手錠をかけているし、杖も取り上げている。それに、苦しんでいる。飛びだしかけている目玉と、ボロボロとこぼれ落ちる涙と唾液。血管が浮かび上がっていて、今にも破裂してしまいそうだ。


「お前たち、見るな」ルイスは子供たちの前にコートを広げた。「“目をつむれ”!」


「ピ、」


 パアン! と何かが破裂する音が、続けて起こった。ルイスの術のせいで目を開けないから、何も見えない。だが、何が起こったのかは何となく見当がついた。人間の鼻でも分かるほどの、血と糞尿と、死の匂い。瞼の裏には、死に際の男たちの姿が、耳には断末魔が残っている。


「うっ」


 パウラが低い声を上げて、次にバタバタと走り回る音がした。レオもそれの音を頼りに、外をめざす。その間に、この込み上げるものが出てきてしまわないように、口には手を当てた。


 アンがパウラとレオ、人間の姿に戻ったローズの三人の腕を掴んで、外に出してくれた。寒さが体に突き刺さるが、そんなことはお構いなしに三人は雪の上に我慢していたモノを吐き出した。見なくても、どうなったのか分かる。


 ルイスの術が解けたのだろう。やっとレオ達は目を開くことが出来るようになった。だが、再び開いた目には涙が浮かんでいて、視界は悪い。


「……移動しましょう」


 アンはまだ吐いているパウラとセレナの背を優しくなでながら、小屋の中に声をかけた。


「調べるのは私に任せて。……まだ、慣れている方だから。メアリー、テントを建てるから、そこでこの子たちを介抱してあげて。ルイスも一緒に。それで、アリスたちを助けに行く算段を考えててほしいの」


 アンがテントを建てる間、メアリーは子供たちに毛布を掛けて、ルイスは魔術で寒さから守ってくれた。それでも、体の芯はずっと冷え切ったままだ。


「……先生」パウラは小さな声を漏らした。「皓然たち、大丈夫かな。殺されたりなんて、しないよね」


「大丈夫よ」


 メアリーはわざと明るい声でパウラを励まし、その細い腕を毛布の上からさすってやった。初めて、目の前でむごい死人が出たから、パウラが弱気になってしまっている。


 そして、こういう感情は他の人にも伝播してしまう。負の感情や不安は人を弱らせるから、何としてでも気分を上げてやらねば。


「あの子たちのことだから、上手いことやってるわ。絶対、死なないで私たちが助けに来るのを待ってるわよ。だから、早く三人のこと助けに行ってあげましょう? ね?」


 パウラは真っ青な顔でそれに小さくうなずき、心配そうにしているセレナのことを抱きしめた。


 建てられた仮設テントの中は、トイレ以外に部屋はないが、十分な広さがあるし、暖かい。キッチンもあるので、暖かい飲み物も淹れられる。


 子供たちは口の中をゆすいで、テントの中にあったソファにくっついて沈み込んだ。まだ心はここにあらずで、眼が開けられなくなる直前の映像と、あの音声と匂いがずっと脳内で繰り返されている。


 テントに戻ってきたアンには一切、死を連想させるようなものはついていなかった。だが、彼女の服装が変わっていたことが、それの過酷さを物語っていて。気を紛らわせるために、必死になってアリスたちを助け出す方法を考えた。


 結局、パウラたちは一睡もすることが出来ないまま、次の日を迎えた。生徒たちだけでなく、ルイスたちも同様で、暗い表情をしている。


「私、思ったんだけど」


 ローズがポツリとこぼしたのは、雪のこびりついた窓から、弱々しい朝日が差し込んできた時だった。


「私たちが行かなきゃいいんじゃないの? ……えっと、言葉が足りなかったわ。つまり、魔術師としてじゃなくて、オフとして炭坑町に行くの。そうすれば、規則には従ってるわ。思い出したの。全世界魔術師法第二十九条『すべての魔術師は、例えいかなる時、場所においても、必要とあればいつもの権限を持って行動することを許される』。旅行先でトラブルにあっても、魔術師として解決することが出来るのよ」


「……一法学者として言わせてもらうが」とルイス。「それはあくまでも人間の領内であればの話だ。ドラゴンや小人の国で魔術師が勝手に動いてみろ。どんな理由であれ、捕まるぞ。あの町がある領域は、あくまでもドラコの所有物。魔術師の法では守られていても、他国の法では守られていない。——お前たちはここで少し休憩してろ。俺は例の町を見に行ってくる」


「俺も行く」レオは勢いよく立ち上がった。「外は雪道だから、父さん一人では歩きにくいだろうし、それに、こんな状況でボーっとしてたら頭がおかしくなりそうだから」


 そんな訳で、ルイスとレオの二人で炭鉱町まで様子を見に行くことになった。


 黒煙が上がっているその町を、親子は山の上から狙撃用スコープを覗いて様子を探ってみた。


「……お前、十五年前に起こった大事件を知ってるか」


「え? どの事件?」


「人間の国四カ国で同時テロが起こり、牢獄に捕らえていた囚人たちが逃亡を図った。全体の三分の二は連れ戻すのに成功したが、残り三分の一は今だ行方知らずだ」


 ハッとしてルイスと同じ場所を見て見ると、クネシリの囚人服を着た男たちが新たに炭坑の中に連れて行かれていた。魔術を使ってさらに視力をあげてみると、その囚人番号まで確認できた。


「お前、フォティアのニコ・ヤンセンと繋がってたな。あの囚人番号をあてがわれた囚人が今どうなっているのか、問い合わせてみろ」


「わ、わかった!」


 レオがニコに連絡を取っている間、ルイスの目はスッと細められた。

お読みいただきありがとうございました!

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