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135.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 皓然一人で、組の炭鉱夫たちに勝った。おかげで、ある程度の身の安全は保障されたアリスたち。そして、炭坑所での生活が始まった。

「さあ、仕事だ」


 マブは立ち上がり、囚人服に足を通した。彼の囚人服は青と黒のストライプだ。青が入っているということは、ネロのものなのだろう。


 それに、マブだけでなく、ここにいる男たちはそれぞれ違う国の囚人服を着ていた。アリスたちと同じ、アエラスの囚人服の男たちもいれば、マブと同じネロのものを着ている者もいる。恐らく、赤と黒のストライプはフォティア、緑と黒のストライプはガイアだろう。


 そして、種族はアダンを除けばほとんどが人間だった。それ以外だと、炭坑妖精のゴブリン、ノーム、ドワーフがいた。ゴブリンたちは炭鉱夫たちに鉱脈の場所を伝え、それを人間が掘り出すのだ。


 それを見て、皓然は慌ててかき上げていた前髪を降ろし、アリスたちに耳打ちしてきた。


「あの、一つお願いが。ぼくにはなるべく話しかけないでください」


「どうして?」


「……ぼくが話しているのは、小人の言葉だから。それで正体がバレてしまいかねない」


 アリスたちに掛かっているのは、翻訳の術だ。これにより、ほとんどの言葉を理解し、話すことが出来る。


 だが、厳密に言えばそれは少し違う。この術は、いわば脳内翻訳機の術なのだ。だから、アリスはこれまでずっと、別世界の言葉を話してきた。それを皓然たちが理解していたのは、耳から入ってくるアリスのフランス語を、彼らに掛かっている術が翻訳して魔術界の人間語にしてたからだ。だから、アリスはずっとフランス語で彼らと会話することが出来ている。


 それでも、直接聴こえるのは全く理解できない音だから、それを聞けば「アダンが話しているのはエルフ言葉だ」と言うことも分かる。逆に、翻訳の術がかかっていない相手には、こちらが話した言葉をその人に合わせて翻訳して口から発せられる音に載せる。本当に便利な術なのだ。


 そして、皓然がいつも話しているのは、小人の言葉だった。彼の母国語はアエラス語だが、母語は小人語だ。もちろん、アエラス語を話すこともできるが、小人の言葉の方が彼にとって使いやすいのだという。


「昨日、マブに言われたでしょう。翻訳の術をかけられているのなんて、一部の人間だけです。だから、ここでぼくが流暢な小人言葉を話したら……」


「怪しさ全開ってわけだな」アダンは大きくうなずいた。「それに、君の場合だと個人まで特定されるもんな。小人に育てられた人間なんて、君たち姉弟しかいないもん」


「そうなの?」


「そうさ。小人は魔術師が大嫌いなんだ。……魔術師と言うか、魔力が、かな。だから、皓然たちは色んな意味で有名なんだよ」


「そう言うことです。……でも、アリスはぼくらから離れないでくださいね。危ないですから。どうやら、昨日の一件でマブたちはぼくにはちょっかいを出さなくなったみたいですけど」


 皓然はアリスに耳打ちしてから、マブの指示する声に意識を向けた。


 どうやら、炭坑妖精は人間に「このブロックを掘れ」と指示を出し、マブが具体的に誰を何の仕事に充てるのかを決めているらしい。その計らいか、アリスたち三人は同じグループで、彼が最初に言っていたように、岩や砂利をどかす仕事を与えられた。


 そして、マブも。彼曰く、「新人の指導も俺の役目なんでな!」らしい。指導と名目を打って他の人たちより離れているから、周りには誰もいない。


「この岩たちを運び出すんだ。ただ、外にじゃねぇ。俺らは逃げられないように、この炭坑から出ていくことは許されちゃいねぇからな。収集場所がある。そこに置いて来るのさ。そこに紛れて外に出ようとすんのもダメだ。落盤があった時とか、鉄砲水があった時とかにあてがわれる材料になるからな。隠れているうち、出られなくなるか、圧死するかのどちらかだ」


「つまり、どうあがいても外には出られないと」


 目を細めた皓然に、マブは肩をすくめた見せただけだった。どうやら、皓然が言っている通りらしい。

「兄ちゃん。お前さんは何かを必死に隠しているようだな。小人の言葉がアエラス語になってるが……、少し片言だな。アエラスから来たって言ってたが、小人の言葉を話すアエラスに住む人間なんて、一人の魔術師しかいねぇよな。姉ちゃんたちは人間の言葉を話すが、末っ子は赤ん坊の時から小人に育てられたらしいからな。小人の言葉で育ったんなら、何も不思議じゃねぇ」


「……お詳しいですね」


「当たり前だ。俺も含めて、ここにいるやつらのほとんどは、あの戦争に駆り出された。一兵隊よりも魔術師の治療が優先される中で、俺らのほとんどがアエラスの魔術医師夫婦に助けられた。命の恩人だからな、そりゃあニュースに取り上げられていたら反応しちまうさ。俺がここに来る直前、十五年くらい前か」


 つまり、マブはもう皓然の正体には気付いている、ということで。


 アリスとアダンの二人は、チラッと真ん中で微動だにしない皓然に視線を送った。だが、彼の視線は鋭いものとなっていて、マブを敵か味方か、見定めようとしているらしかった。


「勘違いですよ。魔術師様がここに来るわけがない。来たら、こんな炭坑すぐに運営停止令を出すことでしょう。それより、いいんですか? 仕事しなくて。ノルマ達成があるでしょう」


「……俺らの世界に詳しい。ますます怪しいな」


 マブは皓然にニヤリと笑ったが、これ以上詮索するのはやめたらしい。「ついてきな」とアリスたちに指で示し、仲間たちが鉄を掘っている近くまで新人たちを連れてきた。そこには無造作に大小さまざまな岩たちがゴロゴロと捨ててあった。


「持てるだけ持て。一度にたくさん運んだ方が、往復回数が少なく済む」


 マブは軽々とアリスの腰ほどまでありそうな岩を持ち上げ、先に歩き始めた。皓然とアダンもそれにならうので、アリスは何とかして持ち上げられる岩を抱え、三人の後に続いた。


 道はずっと坂道だった。重い岩を持ち、しかも凸凹だらけの坂を上るのはキツイ。足に力が入らなくなってくるし、指先もしびれてきて感覚が鈍くなる。もはや、目の前をゲジゲジが通っても、何とも思わなくなった。


「ま、待って……。ちょっと休憩……」


「そんな暇はねぇ。ちんたらしてねぇで、さっさと運べ!」


 マブの怒鳴り声が狭い坑道の中に響き渡った。この間にも、他のグループのものであろう男たちが、アリスの倍の量、重さの岩をせっせと運んで行った。


「……貸して」


 皓然が下りて来て、アリスの分の岩を自分が運んでいたものの上に置き、再び持ち上げた。一瞬ふらついたが、立て直すと前を見据えて再び歩き出す。


「はお——」


「ゆっくりでいいから、ついてきて。それで、次は運べるサイズのやつでいいから。それ以外は、ぼくとアダンで運びます」


「……ありがとう。ごめんね」


「いえ。……ぼくが、あの時油断していなければ、こんなことにはなっていませんでしたから。君らはぼくを怒ってもいいくらいですよ」


 今、パウラたちがどこまで来てくれているのかは分からない。


 しかし、絶対にパウラたちがすぐに助けに来てくれることを信じて疑わない皓然は、少しの間我慢するだけだと、それだけを頼りに頑張っているようだ。だから、その短い期間でアリスとアダンに何かあってはいけないと、自分からこうやって手伝いを買って出ているらしい。


 ——お兄ちゃんたち、早く助けてくれないかな。


 皓然の後をついて行きながら、アリスはそんなことを考えた。

お読みいただきありがとうございました!

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