134.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
炭坑所に連れて行かれたアリスたちを救うべく、ルイスはセレナたちにアリスたち救出の指示を出すことにした。一方で、レオたちはアリスを実際に炭坑所まで連れて行った空賊たちを逮捕、情報を聞き出そうとしていて……。
「——じゃ、約束は約束です。守ってくださいね」
パンパン、と両手を打ち付けて埃を払い、皓然は床でうずくまっている男たちにどこか冷たい声で告げた。
勝負は、本当にすぐ終わってしまった。人数がそれなりにいるので、その分の時間はかかった。何せ、相手はガタイが良く、皓然より圧倒的に背も高く、体力もある男たちだ。それに、中には戦いの心得のある者も数人はいるらしく、時々、アリスが息をのむ場面があった。
特に、マブが意外と強かった。唯一、皓然に防御を取らせた相手だ。攻撃も重かったらしく、皓然はしびれでも取るように何度か攻撃を受けた両手を振っていた。
「ああ、何の文句もねぇ」
床に大の字になっていたマブは息を弾ませながら答えた。それから、ゆっくりと起き上がり、元の場所に足をひきずりながら戻った。実は、彼は右脛に皓然の蹴りを食らったのだ。
「それに、久しぶりに面白いもんも見れたしな。な、小人の言葉を話す兄ちゃん」
皓然がピクッと反応し、マブを睨んだ。だが、マブはアリスたちにニヤッと笑ってから、一同に「おら、もう寝るぞ!」と声をかけただけだった。
「明日も早い。仕事に差し支えるぞ。それから、新人たちには毛布を分けてやれ。一番分厚いやつだ。まだここに慣れていないだろうからな。初日から風邪をひいたら可哀そうだろ」
男たちはそれに気の抜けた返事をすると、もそもそとそれぞれの定位置に戻って行った。そのうち、アリスたちの近くにいた初老の男がアダンに薄汚れた毛布を渡した。他の物は穴が空いていたり、ボロボロに破れていたりするので、これが一番状態が良さそうだ。
アダンはそれに礼を述べて受け取ると、皓然とアリスを挟むようにして地面に寝転んだ。毛布は大きかったから、広げて半分を下に敷き、余った部分を体にかけた。
「すみません、こんな風に寝ることになって」
あちこちから寝息が聞こえてきても、アリスが眠れずにいると皓然がこそっと彼女に耳打ちした。呆れてしまうのが、アダンは男たちと一緒で先に夢の世界に旅立っていることだった。
「ううん、気にしないで」
そう言いながら、アリスは不安で仕方なくて、眠ろうなんて思えない。アダンの胆の据わり方が羨ましいくらいだ。
「——手、繋ぎます?」
ふいに皓然がそんなことを言ってきたから、アリスは思わず「え?」と返した。
「あ、深い意味は無いですよ。……ぼくらはね、不安な時は手を繋いで寝るんです。ぼく、落ち着くってすごい評判がいいんですよ。ほら」
そう言って皓然があげた手は、アダンの手と繋がっていた。道理で、アリスの体の上に何か重いものがあるわけだ。毛布が重いだけでは無かったらしい。
「嫌なら、いいんですけど」
「ううん。お願い、私とも手を繋いでて」
アリスが手を出すと、皓然は笑ってその手を握ってくれた。
——ああ、なんだか落ち着く意味が分かる。
皓然の手は温かかった。どうやら、彼は体温が高いらしい。それに、自分よりも一回り大きな手に触れていると、なんだか安心する。
それから、アリスは断続的にだが眠ることが出来た。そして、目が覚める度、皓然がアリスとも、アダンとも手を繋いで眠っていることに安心してから眠った。
起床ラッパがなって目覚めたアリスが彼の腕の中にすっぽりと納まっていたのは、きっとそういう風に感じていたからだろう。
無理やり起こされることには慣れているので、アリスはむくっと起き上がった。だが、その両隣を固めている男子二人は寝起きがあまり良くないのだ。皓然はうなり声をあげながら毛布の中に潜ろうとし、アダンは「うるさいなぁ」と漏らしながら皓然と繋いでいた手を放して耳を塞いだ。
寝起きの問題ではなく、この二人の緊張感が欠如しているだけのように思えてきた。
「ねえ、朝。二人とも起きて」
アリスも皓然と繋いでいた手をほどいて、二人のことを揺すり起こした。
「ん……」
皓然はゆっくりと起き上がり、小さくあくびを漏らして寝ぐせのついた前髪をかき上げた。
「……ああ、そっか。おはよう、二十四番」
「おはよう。は——、十三番」
ここで名前を呼んではいけない。
その掟を思い出し、アリスは皓然を番号で呼び直し、はにかんだ笑顔を浮かべた。
なんだか変な気分だ。本当に囚人になったような感じがする。
——いや、今の自分たちは本当に囚人だった。
「ほら、六十二番も起きてください」
皓然はアダンのことも揺するが、彼はうなり声をあげてやはり寝ようとするから、皓然はため息をついて毛布を取り上げた。
「さっむ!」
アダンは自分の体を抱きしめてブルッと震えた。そう言えば、エルフは温かい場所に住むから、あまり寒さには強くないのだと前にローズが言っていた。
「それより、ほら。早く顔を洗いに行きますよ。……ここがぼくの知っている炭鉱と同じなら、時間制限があるはずです。あと、ご飯は少ないと思うので少しでも多く胃の中に詰め込んでくださいね」
二人は「そんな言うほど?」と思っていたが、すぐにそれは舐めていたことに気付いた。
顔洗い場は男たちで大混雑していたのだ。それもそのはず。顔を洗うための水が入っているのは一本の丸太を半分に割り、中身をくり抜いて作った簡素な水受けで、そこに入っている水をみんなで使いまわすのだ。おかげで、アリスたちの番が回ってきた時、水は手ですくうことすらできなかった。
そんな水など使いたくないから少しホッとしたが、この日アリスたちは顔どころか、歯も、手すら洗うことが出来なかった。
「新人に仕事を教えてやる」
猫まんまのような食事を何でもないようにすするマブは、なかなか食事に手を付けようとしないアリスとアダンに肩をすくめた見せた。
「お前たちはまだ技術が無いから、仕事は砂利や岩を所定の場所まで運ぶことだ。力仕事だ、体力を使う。汚いって思っても、無理やりにでも食え。明日の朝になるまで、もう飯は出てこねえぞ」
それに驚いたアリスとアダンは、変なにおいのするそれを頑張って口に運び始めたが、時間になってしまってそれらはロボットに強制回収されてしまった。
「さあ、仕事だ」
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