131.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ドラゴンたちに騙されたアリスたち。その護送車の中で、皓然は「どうして自分たちを狙ってきたのか」を教えてくれた。それによれば、ドラゴンたちは色々と問題を抱えているようで……。
「——あのバカ。だから冷静でいろと……」
連絡を受けたルイスは、大きなため息をついた。
ドラコについたアリスたちが記者団に捕まっている所から、ルイスたちには色々と連絡が来ていた。例えば、皓然がドラゴンたちを脅しただとか。
だから、ルイスとアン、それからメアリーの三人は早々にパーティーを切り上げ、国に帰ってパウラからの続報を待っていた。
それなのに、届いたのは縄で縛られたパウラ、レオ、ローズの三人と、「残り三人はドラコの法律に基づいて、炭坑送りの刑に処しました」という国際問題だった。
「私がしっかりしていないばかりに、申し訳ございません」
縄をほどかれたパウラが頭を下げてきたから、ルイスは片手をあげて頭をあげさせた。
「今回ばかりは、皓然に問題がある。勝手に炭坑送りにしたドラコにも問題はあるがな。さて、どうしたものか……」
一番理想的なのは、アエラスとドラコが話し合い、平和的に解決することだ。できれば、アリスたちが炭坑についてしまう前に決着をつけたい。
そうでなければ、アンの精神が持たないだろう。
「もう嫌! 帰ってきたら、あの子だけでもダリア先生の所で預かってもらいましょう! そうでもしないと、あの子ばっかりこんな目に遭って可哀そうだわ!」
静電気をバチバチ言わせるアンがドラコへ乗り込もうとするのを止めるのに、随分と骨を折ったものだ。今は何とか納得してもらい、待機させている。
ドラコ側の意図は分かっている。だから、それを証明さえできればアリスたちを取り戻すのに大きな一手となる。
だが、その証拠がない。パウラたちの話をした所で、あのドラゴンたちは「作り話だ」だなんだと言って、まともに取り合ってはくれないだろう。
「父さん……」
「大丈夫だ、レオ。何とかしてアリスたちを取り戻すから」
これでも、現役の法学者だ。何か、とっかかりがあればルイスでもドラコに対抗できるのだが……。
ローガンがパーティー会場で言っていた、雪山でのワンシーンが頭をちらつく。
何とかしなければ、本当に自分たちは……。
「そうじゃなくて、これ使えない?」
そう言ってレオが取り出したのは、USBメモリ。
驚いた眼で見つめると、レオは罰が悪そうに首をすくめた。
「なんだか胡散臭くてさ、あのドラゴンたち。それに、パウラのことをバカにしたのも気に喰わなかったから、一泡吹かせてやろうと思って……。それで、『警備の参考に欲しい』って、防犯カメラの映像をこっちに落としておいてたんだ。もちろん、リアルタイムで」
「でかしたぞ、レオ!」
思わずレオを抱きしめて、ルイスはUSBを受け取った。
もし、これにドラコを責める決定的な証拠が収まっていれば、そうすれば……!
***
アリスたちを乗せた護送車は丸一日走り続け、ついに目的地に到着した。
ドラゴンたちの大好物である、宝石や鉱石を掘り出すための炭坑所。ただし、ドラゴンでは中に入れないので、働いているのは人間やノームなどの妖精たちだ。
そう、人間が働いているのだ。
アリスたちは一度、護送車の中から出された。
外は、真っ白な雪に覆われていて、アリスたちをこれでもかと凍えさせた。風も冷たく、フィンレーとクロエはたまらずアリスと皓然の中へ、それぞれ隠れてしまった。
ドラコがある南半球は、これから冬に入っていく。
アリスたちはドラゴンから人間へと引き渡された。この、引き渡し先の人々こそ、ドラゴンたちが警戒していた空賊だった。
アリスたちはホビーに乗せられ、猿轡までされて移動を余儀なくされた。
三人は真っ黒な手錠をかけられ、何のお情けか毛布だけ上にかぶらされた。しばらくすると、毛布の隙間から小さな町が見えてきた。
間違いない。カールが言っていた炭鉱町だ。
ホビーはその町には入らず、その手前にあった詰所のような場所に降り立った。アリスたちはそこから蹴り出されるようにして降ろされ、手錠を引っ張られて歩く。
「タタラに言ってくれ。新しい商品が入ったってよ。一人はチビだが……、まあ、『カナリア』くらいには使えるだろう」
それを聞いて皓然は体をピシッと固め、アリスとアダンは何のことだかわからず、首を傾げた。
門番はすぐにうなずき、男たちを中に招き入れた。だが、中に入ってすぐ、リーダーらしい男はアリスたちの手錠を手に取り、部下たちに「行ってこい」と笑って見せた。
部下たちは歓声を上げ、入ってすぐ、近くにあった立派な朱色の建物の中に吸い込まれていった。
「珍しいか。あれは娼館だ」
男はアリスたちの猿ぐつわを外しながら、不思議そうにしているアリスに鼻を鳴らした。「残念だったな。お前も、もう少し成長してたならあそこに入れたのに。だが、カナリアはいくらいても足りないくらいだからな」
「カナリアって?」
思わずそれを言ってしまってから、アリスは「しまった!」と慌てて口を閉じた。こういう時、口を出してはいけない。皓然とアダンも「黙ってて!」という視線を向けてくる。
だが、この男は殊の外上機嫌らしく「知らないか」と煙草をふかし始めた。
「そこの千夜族の兄ちゃんは知ってそうだがな。いいか、お前たちがこれから働く炭坑には、危険がいっぱいある。一番の敵は水だ。鉄砲水があるし、それによる落盤もあり得る。そして、もう一つの危険が、有毒ガスだ。山を掘り進んでいくと、小さな隙間が出てくることがある。お前みたいなチビはそこに入って行くんだ。お前が帰ってくれば、有毒ガスはない。だが、お前が帰って来なければ、もしくは大爆発が起これば、それはガスが発生していることを意味する。その時はその穴を埋める。良かったな、お前は死んだらちゃんと埋葬されるってわけだ」
とたん、アリスは顔を真っ青にした。つまり、この中で一番死ぬ確率が高いのは自分だということに気付いたから。
「じゃあな、お前ら。せいぜい最後の外の空気を堪能しな」
男は近づいてきた鎧姿の男にアリスたちの手錠を結び付けたワイヤーと鍵を渡し、硬貨がどっさりと入っているらしい袋を受け取ると、見せつけるように娼館に入って行った。
「来い」
男はワイヤーを引っ張り、アリスたちを連れて街の中を歩いた。
この町には倉庫のような建物がたくさん建っており、そこから飛び出した煙突からは例外なく黒い煙が出ている。おまけに、その近くでふいごを踏んでいるのはみすぼらしい格好をした女たちで、どこの言葉かもわからない歌を歌っていた。翻訳されないということは、よほどマイナーな言語らしい。
倉庫街を抜けると、今度はあちこちで鉄を鍛える音が響いていた。こちらは男たちで、身なりはやはり貧しいが、仕事柄か、ガタイはかなりいい。火に鉄を入れて熱し、金槌で叩いて水につける。こうして、鉄を鍛えて鋼にしているのだ。
だが、アリスたちはそこすらも通り抜けて、町から出てしまった。湖の近くを歩き、人が集まっている山の斜面に向かう。
男はそこを通り抜け、近くにあった簡易式の建物にアリスたちを入れて、薄汚れたボロボロの作業着を渡した。白と黒のボーダーが入っているこれはアエラスの囚人服だ。胸元にはそれぞれ六十二、十三、二十四、の番号が書かれている。
「俺が帰ってくるまでに、これに着替えておけ」
男はアリスたちの手錠をかけたまま外に出て、ドアのカギをかけてしまった。
「どうするの? 手錠かけられたままなのに……」
「囚人服って、赤ん坊の服と似てるんですよ」
皓然はアダンに一番サイズの大きい六十二番の服をかぶせた。何と、囚人服の下はズボンになっていたが、上半身部分は上からかぶって要所のボタンを留めるだけで服が出来上がるのだ。実際、アダンの腕にかけられた囚人服は、切り開かれたいた布をアダンの腕を包み込むようにしてボタンを留めて行くと、簡易だが袖に早変わりした。
「服、脱がなくていいかな」
ボタンを留めながらアダンがそうぼやくので、皓然はアリスの着替えを手伝いながら「脱がない方が良いでしょう」と答えた。
アリスの着替えが終わり、皓然も自分の服も着替えを終えると、アリスが「ねえ」と不安そうな声をあげた。ここまで来れば何となくわかる。自分たちは、この炭坑に売られたのだ。
「逃げられないの? 先生たちに報告して、助けてもらおうよ」
「大丈夫、ちゃんと助けはきます」
皓然はアリスの頭を撫でて、安心させるように笑って見せた。
「それに、何があっても、ぼくが絶対に守るから。カナリアになんてさせない。君とアダンだけは、絶対に無事にここから出すから」
アリスは小さくうなずき、彼の胸に頭を預けた。
温かい。
相変わらず、彼はとっても温かかった。それに、優しく頭を撫でてくれるから、こんな状況に反して安心してしまう。
再びドアが開かれたのは、アリスが安心して皓然から離れた時だった。
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