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127.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 依頼のため、ドラゴンたちの国ドラコへやってきたアリスたち。入国してすぐ、報道陣に囲まれ田と思ったら、ドラゴンたちのパウラへの差別発言により、皓然がドラゴンたちを脅すという事態が発生した。どうやら、ドラゴンたちには依頼以外に何か思惑があるようで……。

「ルイス先生。少し、お時間よろしいでしょうか」


 やってきたのは、ローガンだった。


 卒業後、ローガンは国王の付き人となったため、今回の職業体験では体験生徒を受け入れていない。そのため、このパーティーには不参加だったはずだ。


 そのローガンが、わざわざパーティー会場にやってきた。しかも、魔術師の制服を着て。


 その緊急性を察したルイスに残された答えなど「ああ、いいよ」の一つだけだった。


 場所を変えた二人は、念のため盗み聞き防止の魔術を使ってから、改めて向かい合った。


「陛下が、『未来図』をご覧になられました」


「……なるほど」


「それによれば、雪山でルイス先生とアン先生が、雪山でたいそう絶望しておられたそうです」


「雪山で?」


 思わず、ルイスは眉をひそめた。


「他には?」


「パウラ・ツヴィングリのチームですが、妹と、ローズ・マルタン、レオ・ランフォードの姿は確認できましたが、他三名の姿が見えなかった、と」


 ——つまり、アリス、皓然、アダンの三人の身に何か起こる、ということだろうか。


 動かなくなった右足が引きつるのを感じる。


 ルイスはそのことを隠しながら、「他には?」とさらにローガンに尋ねてみたが、これ以上は何も出てこなかった。


 これから夏本番というこの時期に、雪が積もっている山などアエラスにはない。


 あるとすれば……、それこそ、ドラコとナーノスの国境になっている山脈くらいだ。この大きなレムリア大陸、北と南では気候がガラリと変わる。


 よりにもよって、アリスたちがドラコへ依頼で出かけたばかりだというのに。


 思わず大きな舌打ちを漏らし、ルイスは髪をかきむしった。


 ゼノの未来図によれば、自分たち夫婦はどこぞの雪山で絶望する未来。そこには、アリスはいない。


 メアリーがアリス名指しの依頼書を持ってきた時に、やはり止めるべきだったのだろうか。


 いや、今からでも連絡を入れて依頼を受けないように、と……。


 ——それは本当に、正解なのか?


 ルイスがここまで感情的になって、何としてでも国に戻らせようとしているのは、親としてのルイス・ランフォードがさせていることだ。


 では、アエラス王国魔術師統括管理者としてのルイス・ランフォードならば、どうするのが正解なのだろうか?


 スマホを片手に固まったルイスを見つめていたローガンは、そっと目をつむった。


「私は、あくまでも陛下の『未来図』の結果をあなたにお伝えするために参りました。仕事は終わりましたので、私はこれで」


 ローガンが去った後の部屋で、ルイスはまだ考え込んでいた。


 この役職になってから、悩んでばかりだ。親として、教師として、魔術師統括管理者として、一体なにが正解なのだろう。


 キリキリと胃が痛むが、今はそれよりも不安で一杯だった。


 ——どうか、無事で。


 それは、紛れもなく親としてのルイスが願ったことだった。



 ***



「——じゃあ、作戦としては、こういうことで」


 首相にお願いして貸してもらった会議室で、アリスは緊張しながらみんなの前に立っていた。


 あくまでも、これはアリス指名の依頼。そこで、今回の依頼の指揮はアリスが執ることになったのだ。パウラ曰く、これは予行練習らしい。


『ボクら、近いうちに修学旅行や実習もあるから。その間は、二人で切り盛りしてもらわないといけないからね』


 パウラのその言葉に、色んな意味で驚いたのは言うまでもない。一番は「修学旅行、あるんだ」ということだ。


 そんなわけで、パウラたちに手伝ってもらいながら何とか作戦を立てることができた。


 まず、三人ずつの二班に分かれる。パウラ班と皓然班だ。


 パウラ班は、レオとローズ。この三人は索敵に優れているため、常に周りを見回りながら空賊に備える。


 皓然班は、アリスとアダン。パワー系のこの三人は、もしもパウラ班が空賊を中に入れてしまった時、撃退するのが仕事だ。


「にしても、どうして今日なのかな」


 資料をめくりながら、アリスは頬を膨らませた。まだ、パーティーの途中に呼び出されたことを根に持っているのだ。


「予告状でも届いたとか?」


「そんなマヌケな空賊がいるかよ」


 レオは鼻で笑った。


「そんなことしたら警備がより厳重になるから、捕まって終わりだね。お前、アニメの見過ぎ」


「お兄ちゃんには言われたくない」


 レオを睨むアリスを、「まあまあ」とローズが止めにはいった。


「この時期は例の木を守る番人に暇を出されるから、空賊が出て来やすいのよ。天候を読むのもお上手だし、今夜は嵐も来なさそう。雨の匂いがしないもの。だからじゃないかしら?」


「それで、ぼくらを呼んだんですね」


 皓然は依頼書をひらつかせ、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「魔術師が警備に当たっているって、空賊にアピールするために。ついでに、小人への憎悪を煽るために、わざと報道陣を呼び寄せて」


「その線が濃厚だから、くれぐれも冷静にな、皓然」


 パウラは、相変わらず不機嫌そうな皓然をジッと見つめた。


「君らパワー型が、要なんだから。その君がパフォーマンスを十分に発揮できないと、班を二つに分けた意味がない。最悪、ボクと替わってもらうことになるぞ」


「それはダメですよ。だってぼく、ドラゴンを見るたびに首を落としたくなっちゃいますから。たとえ、警備隊のドラゴンでも」


 そう言った皓然は、初めてアリスたちに残忍な笑顔を見せた。


 その笑顔を見て、アリスの背筋が凍り付いた。


 皓然は、良くも悪くも、容赦ない。


 普段は優しくて面倒見の良いお兄さんだが、一度敵とみなしたら情け容赦ない。ここに来てから、彼がずっと殺気立っていることはアリスにだってわかる。


 アリスの肩の上で、フィンレーが震えて小さく縮こまった。


「本当に頼むから、これ以上の国際問題はやめてくれよ……」


 パウラは痛む胃を服の上から優しく撫でつけた。


 時間になったので、アリスたちはそれぞれの班に分かれて配置に就いた。


 アリスたち皓然班が守るのは、ドラゴンたちの国宝である、黄金の実がなる木。


 それを間近で見て、アリスは思わず息をのんだ。


 木そのものが金で出来ていたのだ。枝も、葉の一枚一枚も、噂の実も、何もかも。


「すごい……!」


「世界で唯一の木らしいよ。金ピカが大好きなドラゴンたちが、大事にするわけだ」


 アダンはそう言って木を見上げてから、皓然に目をやった。彼は腰の刀に手をやって、あちこちを見回していた。


「苛立ってて、しかも嫌いな種族からの頼みでも、仕事ならちゃんとやるんだから。真面目だなぁ」


「何か言いました?」


「うんにゃ、何も」


 アダンは背負っていた弓を手に持ち替え、周りを見回した。


「にしても、変だ。ドラゴンの守り番はどこ行ったのさ」


「……ローズも言っていたでしょう。年に一度だけ、暇が出されるんです。いないということは、今日がその日なのでしょう」


 普段、この木に巻き付いて寝ずの番をしているドラゴンがいる。だが、過去に一度だけ居眠りをしてしまったそうで……。それ以来、年に一度だけ暇が出されるようになったのだとか。ドラゴンも、労働を見直すきっかけになったらしい。


「——ドラゴンって、そんな一日だけの休暇で休めるものなの?」


「ドラゴンは長生きですからねぇ。ぼくらにとっての一年なんて、一瞬なんですよ。きっと、アダンにとっても」


 皓然の視線を受けて、アダンは寂しそうに肩をすくめた。


「急に嫌なこと思い出させないでよ」


「アダンも、長生きなの? あ、エルフだもんね」


「そうさ。ぼくはきっと、君らで言う青年期で成長が止まる。そのまま、何百年も生きることになるんだよ。君らに置いて行かれてね」


「そっか……。でも、大丈夫だよ、アダン」


 アリスはこの寂しそうなエルフに微笑んで見せた。


「きっと、私たちの子孫がアダンと一緒にいるから。だから、寂しくないよ」


「ぼくの子孫はいないかもしれませんけどね。あ、牡丹姉さんがいるから、黄の子供はいると思いますよ」


「なんで皓然ってば、そんなこと言うの」


「だって、ぼくは誰とも付き合うつもりがありませんから。誰とも付き合わないなら、子供は生まれないでしょう?」


「そうだけどさ……。でも、どうして、誰とも付き合わないの?」


 皓然は、きっと女子たちにとっての理想像だ。料理もできるし、頭もいいし、気遣いもできる。これほどまでに理想そのものの人はいないだろう。


「——ぼくには、誰とも付き合う権利がありませんから」


「誰かと付き合うのに権利なんて……」


 次の瞬間、皓然の目の前に真っ黒な鱗のドラゴンが舞い降りてきた。大きく広げられた口の中には赤を通り越して青い炎。


「……え?」

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