126.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
学期末パーティーの途中、依頼のため呼び出されたアリスたち。依頼は、なんとドラゴンから、アリス指名のものだった。詳しい話を聞くため、ドラゴンの国、ドラコへ行くことになったアリスたちだが……。
門の向こう側は、硫黄のような匂いがした。
洞窟をくり抜いたかのような武骨な作りをしたそこは、ドラゴンの国ドラコの首脳官邸。つまり、ドラコの首相がいるところ。
それが、アリスの緊張を後押しした。
もし、ヘマでもすれば、国際問題になりかねない。門をくぐる前、ルイスにそうプレッシャーをかけられた。
それなのに、門の外にはドラゴンの記者団が殺到していて、アリスたちはあっという間にもみくちゃにされた。しかも、ドラゴンの固い鱗に、だ。痛くて痛くて仕方がない。
「——うわっ! ツヴィングリの不純物だ!」
だが、その一言が、アリスたちを現実へと引き戻した。
不機嫌そうに立つパウラのまわりだけ、ドラゴンたちが避けている。
この構図を、アリスは知っている。
「ちょっと……!」
「こんにちは、みなさん」
アリスが飛び出す前に、皓然がパウラの前に立った。これには、パウラも驚いているらしい。緑色の瞳がまん丸になっている。
「ぼく、黄皓然と言います」
「もしかして、『死神』に育てられたっていう……」
ドラゴンたちがざわめきだしたのを見て、皓然は冷たく笑った。
「ぼくのこと、ご存知のようで何よりです。それで、どうしましょう。ぼく、両親からは『ドラゴンは見つけ次第、寝首をかけ』と教育されておりまして。あなたたちを殺す術を、幼いころから叩き込まれてきたんですよ」
皓然の手が、腰に吊った刀にのびた。銀色の刀身が光を反射して、鈍く光る。
刀を使うのは、小人だけ。小人の剣術は「断ち切る」のが基本。刀は、その特性とよく合っているから。
『死神』は、この剣術を使って数多くのドラゴンを地に還してきた。
記者団たちがたじろいだところで、警備隊たちがやってきた。
「遅れてきたの、絶対わざとだ」
アリスとローズを守るように立っていたレオの一言が、アリスの心にチクッと刺さった。
対魔術師の母親を持つパウラは、この世界では差別対象となる。そのパウラに酷いことを言えば、必ず仲間たちは彼女をかばうことだろう。
皓然は頭がいいから、普段は絶対に自分から喧嘩を売るようなことも、問題になるようなこともしない。そんな彼が感情的になるとすれば、……パウラのこと。
「何してんだ、バカ」
「別に」
会話はどこか乾いているのに、パウラは少し嬉しそうにしていた。
客間に通されたアリスたちはしばらくの間無言だったが、パウラが空気を入れ替えるように手を叩いた。
「やっちまったもんは仕方ない。でも、おかげでボクらがただの大人しいやつではないって、ドラゴンたちも分かったはずだよ」
「そうよね」ローズも明るい声をあげた。「それに、皓然には感謝しなくっちゃ。あの時、いの一番にパウラをかばってくれたんだもん」
「別に、大したことは……。というか、すみませんでした」
皓然は力なくうなだれ、唇をグッとかみしめた。
「感情的になっちゃって……。報道陣の前でドラゴンに脅しをかけちゃったし……」
「確かに。魔術的技能で人間の上に立つドラゴンにたてつく魔術師なんて、お前しかいないだろうね」
レオは肩をすくめた。
「まあ、なるようになるさ。それに、お前は嘘をつかないだろ?」
「もちろん」
皓然は刀を少しだけ引き出した。銀色の刀身に、黒髪黒目の少年が映し出される。
「物心ついた頃には、既にドラゴンの弱点を知っていましたよ。戦い方もね」
「どういうお家なの……」
思わず口をはさんだアリスに、皓然は何でもにように「軍人の家ですよ」と答えた。
「育ててくれた小人の両親とも、『死神』なんです。さっきも言った通り、ぼくの母さんはその隊長ですし。それに、『死神』の隊員たちがぼくの遊び相手をしてくれていましたから」
「それで、自然と『死神』としての心構えを学んだのね」
ローズが大きくうなずいたところで、ドラゴンの首相がやってきた。
首相は鮮やかな青い鱗を持っていて、金色の爬虫類の瞳でアリスたちを三メートルの高さから見おろした。
「急な依頼に関わらず、引き受けてくださったことに、まずは感謝いたします。ドラコ国の首相カールと申します」
「初めまして、カール首相」
代表して、パウラが立ちあがって首相に笑顔を見せた。
「ご依頼をいただきまして、ありがとうございます。ご指名されたアリス・ランフォード初級魔術師のチームリーダー、パウラ・ツヴィングリと申します」
「これは、これは。かの有名なツヴィングリ家のご令嬢とお会いできるとは。光栄ですな」
カールのその言葉に違和感を覚えつつも、アリスたちも順番に自己紹介をして、今回の依頼について尋ねることにした。
「実は、空賊に我が国の国宝である、金の実をつける木が狙われておりまして」
「空賊、ですか」とレオ。「なるほど。それで、アエラスにご依頼いただいたわけですね。空賊の取り締まりに最も力を入れていますから」
アエラスの首都、キュクノスは、強力な魔力石同士の反発の力を利用して浮いている。しかし、それはキュクノスだけではない。他にも、そう言った浮島は存在する。
そんな浮島を足掛かりに、アエラスの領土を荒らしているのが、空賊だ。ネロでは海賊の取り締まりが強化されてるように、アエラスでは空賊の取り締まりに、魔術界で最も力を注いでいる。
アリスも、何度か授業で空賊対策の訓練を受けたことがある。だが、まさか本当に空賊と戦うことになろうとは……。
「ええ。それで、あのかぐやを一人で逮捕したと噂のアリス・ランフォード魔術師を指名させていただいたのです」
カールの金色の瞳に、アリスの姿が映し出された。
「この世界では、その金色の髪がよく目立つ。あなた方ご兄妹を目にしただけで、空賊が去って行ってくれれば、何よりなのですがね」
それにしても、何かと鼻につく言い方をする首相だ。
出会ってまだ三十分ほどだが、アリスはこの首相のことが嫌で嫌で仕方なかった。いや、ドラゴンたちそのものに、嫌悪感さえ抱いていた。
パウラのことを「ツヴィングリ家の不純物」と呼んだこと。
わざと皓然を悪者にしたこと。
どこか、こちらを見下しているかのような視線。
しかし、それが気に入らないからと言って、ここにきて「依頼を受けません」とも言えない。
パウラに肘でつつかれ、「どうする?」という視線を向けられた。あくまでも、これはアリスを指名した依頼だからだ。受けるか、受けないか。それを決める権限は、今はアリスにある。
「——承知いたしました。そのご依頼、お引き受けいたします」
アリスは余所行きの笑顔を首相に見せた。
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