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123.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 ついに迎えた、期末パーティーの日。アンは昔を思い出し、気分が盛り下がっていた。それに、イリスもコソコソと後をついてこようとしていたから、なおさら。

 パーティー会場に到着すると、会場はなんだか異様な空気に支配されていて……。

「——なあ、本当にするのか?」


「本当にするよ」


 ドレス姿だというのに準備運動をするアリスを見て、パウラは密かにため息をついた。こうなったら、アリスはどんなに説得しても自分の意思を曲げようとしないだろうから。


「まあまあ、パウラ。面白そうじゃない」


「ローズは巻き込まれてないから、そんな風に言えるんだよ」


「あら、そんなことないわ。これは『あまりもの組』全員が巻き込まれているようなものよ。だって、私たちはアリスがしようとしていることを、知っていて止めなかったんだから。何かあったら、連帯責任だわ」


「……まあ、そうだな。これっくらい、へでもなかったな」


 ——いつもの差別に比べれば。


 そんなことをパウラが思っていたら、元気な挨拶が飛んできた。声の主は、ニコ、ツェツィーリエ、ラウラの三人だった。


「やあ。なんでも、うちのリエの力を借りたいとか?」


「そう。ねえ、聞いてツェツィーリエ」


 パウラの肩を掴み、アリスは笑顔を見せた。


「パウラが、セッションしてくれるって」


「え、本当!?」


 心の底から嬉しそうなツェツィーリエに、「条件がある」とパウラは顔をしかめた。


「『ユリア様の子守歌』は知ってるな? ボクは歌うから、君には伴奏をお願いしたい」


「お安い御用だよ!」


 そして、ツェツィーリエはアリスに右手を差し出した。


「パウラとセッションする機会を作ってくれて、ありがとう。あなたでしょ、パウラを説得してくれたのは?」


「どういたしまして!」


 パウラから恨めしそうな視線を受けながら、アリスは笑顔でツェツィーリエと握手を交わした。


「ところでアリス、ダンスパートナーは決まったんですの?」


 ラウラは首を傾げた。


「皓然とアダンにエスコートされていましたが……?」


「それは……、始まってからのお楽しみ」


 アリスはニヤリと笑った。


 そこにやってきたのが、ラファエルと牡丹だった。たった今来たばかりの二人は、この異様な空気に少し驚いているらしかった。


 どうして卒業生である二人がこの場にいるのかというと、受け入れた側の魔術師たちも招待されるからだ。残念なことに、イヴァナもダミニも、仕事の都合で出席していないけれど。


「なんだよ、アリー。また何かやらかしたのか?」


「なんで私が何かやらかした前提で話すの?」アリスは頬を膨らませた。「ただ、皓然とアダンにエスコートしてもらっただけだよ」


「それで、ざわついているのね」


 牡丹は肩をすくめた。


「良かったわね、小然。二年連続で可愛い子のエスコートが出来て」


「今年はエスコートだけですけどね」


 その言葉に、上級見習い二人の眉が跳ね上がった。


「エスコートだけ? 踊るんじゃないの?」


「姉さん。エスコートしたからって、一緒に踊るとは限りませんよ」


「どういうこと?」ニコは首を傾げた。「俺にもさっぱり意味が分からないよ。もっと分かりやすく説明してよ!」


「ごめんね、ニコ。ネタバレになるから、これ以上は言えないの」


「ダンスにネタバレとかある?」


「私が代表生徒である限りは」


 アリスにそんなことを言われ、ニコはますます首を傾げた。確かに、アリスは別世界出身なので、考え方などにはよく驚かされているが……。


 パウラはそんな様子のニコを見て、小さく微笑んだ。いつも、何かと突っかかってくる彼がああやって首をかしげているのを見れて、少し嬉しかったのだ。


「嬉しそうですね、パウラ」


「まあね。良いものが見れたから」


「良いもの?」


 パウラの視線を追った皓然は、その先にニコがいることに気付くとハッとして口元を覆い隠した。


「まさか、パウラ……!」


「な、何だよ」


「ニコのこと、す……、いっだぁ!」


「違うから。あと、あんま調子乗んなよ」


 踏まれた足をいたわる皓然に、パウラは冷たく言い放った。


「ヒール! ヒールは反則でしょう!」


「アリスに踏まれた時は、そんな痛がらなかったくせに。あ。もしかして皓然、アリスのことが……?」


「違いますから!」


 皓然は赤い顔をブンブンと振った。


「今のは完全に悪意があったじゃないですか! 思いっきり踏んだでしょう!」


「まあ、否定はしない」


「事実ですからね!」


 皓然には悪いが、二人の会話を聞いていて、アリスはクスッと笑った。それに、緊張の糸も少しほぐれたような気がする。


「二人とも、いつまでもそういう関係でいてね」


「どうした、急に」


「パウラに一生、足を踏まれてろってことですか?」


 先輩二人は怪訝そうに顔をしかめたが、アリスはただ楽しそうに笑っているだけだった。


 しかし、そんな楽しい時間も終わりを告げた。ホール全体の明かりが落ちたからだ。


 アリスのダンスが始まる合図。


 アリスは最後にレオとラファエルに抱きしめてもらってから、一人でスポットライトの中に姿を現した。周りがざわめく声が聞こえる。


 それでも、アリスは目をつむり、深呼吸してから一歩、前に踏み出した。


 それが、はじまりの合図。パウラの美しい歌声と、ツェツィーリエのバイオリンの音色が響き渡った。


 アリスが決めた、今年のダンス。それは、一人で踊ること。


 一人で踊ることで「自分は一人でも大丈夫」と言い聞かせたかったのもあるし、こちらの方が相手の足を踏む心配もなく自由に動けるから。


 とはいえ、アリスは社交ダンスが苦手だから、少しアレンジを加えた。社交ダンスとバレエを組み合わせたこの振り付けならば、このダンスパーティーの雰囲気も壊さずに済むだろう。


 最初はざわめいていた魔術師たちも、いつの間にかアリスのダンスに釘付けになっていた。


 アリスは、無意識のうちに『自己成就』を使っていた。


 とはいえ、衣装や会場にではない。自分自身に使っていた。


 どうすれば、綺麗に魅せられるか。それを考えながら、アリスは踊っていたから。


 だから、会場にいた人たちはアリスから目が離せなくなっていた。あらかじめ、内容を聞いていたレオたちでさえも。


 曲が終わり、アリスが深々と一礼すると、会場は沈黙に包まれた。


 ——やっぱり、やりすぎたかな?


 アリスがそう思った瞬間、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。


 ホッと胸をなでおろしつつ、アリスはみんなの元へ戻った。みんなしてアリスに「綺麗だったよ」と言ってくれたから、アリスは照れつつお礼をした。


「パウラ、ツェツィーリエ、どうもありがとう」


「どういたしまして」


 アリスの顔にかかっていた髪を払ってやりながら、パウラは笑顔で答えた。


「それから、ほら」


「あ。お父さん、お母さん」


 驚いた表情をしている両親の元へ、アリスは走って行った。


「ねえ、見てた? 私ね、みんなに褒められたんだよ!」


「あ、ええ……。見てたわよ……」


 アンはアリスに手を引っ張られながら、呆然と娘を見つめていた。


 アリスが見せたあれは、完全にカイルの『自己成就』だったから。


「ねえ、ルイス」


「ああ……」


 ルイスはアリスの頬に軽く触れた。


「綺麗だったよ、とても」


「ありがとう!」


 ルイスの手に頬を摺り寄せて、アリスが両親から離れた時。背後では今年デビュタントを迎えた魔術師たちが踊っていた。つまり、ラウラたちの代。


 それを見ていたら、急にアリスは左手首を掴まれた。


「あれ、シオン」


「あのっ」


 真っ赤になったシオンは、アリスの手首をつかむ手に、少し力を入れた。


「い、一緒に、踊ってくれないか……」


「あ……、うん」


 シオンが、顔を赤くしていたせいだろうか。


 アリスまで頬を赤らめて、小さくうなずいた。


「いいよ……」


「ありがとう」


 一年生たちのダンスが終わると、アリスはシオンに手を引かれてダンスホールに再び姿を現した。


 正直、シオンはとてもダンスが上手だった。リードがうまくて、アリスがステップを間違えても足を踏まれないようにしているし、フォローしてくれる。他のペアにぶつかりそうになったら、さりげなく距離をとってくれる。


 これまで、ほとんど皓然としか踊ったことが無かったアリスにとって、シオンとのダンスは不思議な体験だった。


 あっという間にダンスが終わり、みんなの元へ戻ったアリスは、シオンから手を離そうとした。


 だが、その手は固く握られているから、思わずドキリとしてしまった。


「えっと、シオン?」


「ありがとう、踊ってくれて」


 そう言って、シオンは……、アリスの手の甲に軽く唇を落とし、去って行った。


「なんとまあ」


 皓然は口元を手で覆い隠した。


「去年のことが、まるで嘘みたいです……」


 去年のシオンのことを知らないアリスは、ただ茫然と、赤い顔でシオンの後姿を見送っていた。

お読みいただきありがとうございました!

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