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122.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 期末パーティーのダンス相手をフェリクスにお願いしに行ったが、断られてしまったアリスは意気消沈していた。だが、チームメイトたちに励まされ、立ち直ったアリスはパウラにあるお願いをして……。

『誰がこの結果を予測できたでしょうか! 優勝は、ヘレナ・ランフォードのチームです!』


 実況のその言葉に、会場は大いに沸くのではなく、困惑したザワザワとした雰囲気に包まれた。


 それもそうだろう。アエラスの平民出身、一年生が率いるチームが、いきなりアゴーナスで優勝を飾ったのだから。しかも、リーダーはこれまでいじめられてすらいたのに。


 ヘレナ・ランフォード。


 アエラス王国の魔術師養成課程一年、平民。哀れに思ったダリア・クロフォード魔術師が養子に迎え入れたが、「クロフォード」を名乗らない恩知らず。


 それが、ルイスの双子の妹だった。


 まばらな拍手に混ざって手を叩きながら、アンはちらりと隣のルイスを盗み見た。


 ルイスは、静かにヘレナたちのことを見つめていた。ただ、真っ直ぐに。


 アエラス王国。


 山に囲まれた険しい地形に、その上空を漂う首都キュクノスが有名な、空気……、風の国。


 そこに存在する三大公爵家の後継ぎたちは、国の後継者と同じチームになる事が暗黙の了解で義務付けられていた。


 それなのに、ツヴィングリ家のエルンストときたら「好きなようにチームを組みたい」なんて言い出し、王子に直談判まで行った無礼者。


 そして、なぜか王子が許可したため、本当に王子とは違うチームを率いている。


 そのツヴィングリに変わる魔術師として王子自らが任命したのが、このルイス・ランフォードという後輩男子だった。


「なんでしょうか、アン先輩」


 それも、何とも可愛くない後輩。


 ルイスは目だけをアンに向け、小さく息をついたのだから。


「私が気に入らないのは分かりますが、そこまで監視されなくとも閣下に無礼は働きませんよ」


「別に、そんなのを気にしているわけじゃないわ」


「アン、閣下を『そんなの』って言うのはやめようね」


 エスコを睨みつけてから、アンは「違うわよ」とため息をついた。


「どんな気持ちなんだろうと、思ってね。双子の妹が初めてのアゴーナスで優勝するのは」


「別に。何とも思いませんよ」


 そういう割に、ルイスの目はヘレナから離れなかった。


 ヘレナとルイスの違いはと言えば、周りにいる人の多さだろうか。あの無礼者、エルンストとそのチームメイトである二人もヘレナを可愛がっていたし、何より、ヘレナのチームはみんな、仲が良かった。


 この事務的なチームとは違って。


 開催国であるフォティアからアエラスに戻り、アンは一人で中庭を散歩していた。この時間なら、彼がいるはずだ。


「おやおや。公爵家の方がこんな時間にお散歩とは、感心しませんねぇ」


「それを言うのなら、あなもたそうでしょ。エルンスト」


 エルンスト・ツヴィングリ。


 公爵家の後継ぎ三人の内、一番の年長者。ちなみに、エスコはルイスと同じで一年生で、アンより年下だったりする。


「俺はただの練習だよ。今度、ティルシャルと合わせる約束をしていいるからさ」


 そういう彼の手には、肌身離さず持ち歩いている銀色の横笛があった。


「そう。……準優勝、おめでとう」


「ありがとう。それにしても、まさかヘレナたちに追い越されるなんてね。思ってもみなかった」


「嘘つき。本当は、分かっていたでしょう?」


 アンが見上げた夜空には、煌々と輝く満月が昇っていた。


 言われなくても分かっている。ヘレナは、この星空で例えれば満月だ。


 そして、自分はその光に隠れてしまう星の一つ。もしかしたら、肉眼で見えないほど光の弱い星なのかもしれない。


 そう思えてしまうほど、あの後輩少女と自分との実力差を突きつけられたような気がした。


「——アゴーナスで、あの子たちと当たったんだってね」


「ええ」


「どうだった?」


「ヘレナは嫌い」


 正直に、アンは答えた。


「なぜ?」


「なぜかは、分からないけれど……」


 アンは、ゆっくりと視線を下に降ろした。


「多分——」


 ***


「アン、そろそろ時間だ」


 ルイスの言葉に、アンはハッとした。足元から、ルーナの心配そうな声も聞こえてくる。


 ダンスパーティーの準備をしている最中に、ついつい昔のことを思いだしてしまったようだ。


「大丈夫か?」


「ええ……」


 そう答えながら、まじまじとルイスを見つめてしまった。あの時は、ルイスと結婚するだなんて露にも思っていなかったから。


 アンに見つめられるルイスは、それが居心地悪かったらしい。


「なんだよ」


「……別に」


「なら、早く行こう。イリス、良い子で留守番してるんだぞ」


「はぁい」


 ぬいぐるみで遊ぶイリスは、気の抜けた返事をして顔を上げた。


 最初はあんなに可愛げが無かったイリスだが、ルイスと数時間過ごしただけで随分と丸くなって帰ってきた。今では、アンのことを「お母さん」と呼ぶほどに。


 心中も何があったのかも知らないけれど、アンはそれが少しむずがゆかった。


「何時に帰ってくる?」


「日付は超える。夕飯はおじいちゃんが持ってきてくれることになってるから」


「ねえ、やっぱり私も一緒に行きたい」


「魔術師じゃないと出席できない決まりなんだ。お前も、大きくなったら嫌でも出れるようになるよ」


 イリスの頭を優しくなでてルイスはそう諭すが、イリスは納得していないようだった。頬を膨らませ、頷きすらしなかった。


「イリス。くれぐれも、私たちの後を追って来ようと何て、したらダメよ」


 困ったことに、イリスはビクッと体を震わせて目をそらしたから、アンはため息をついた。


「イリス……。お願いだから、大人しくしててね」


「はぁい」


 不安は残るが、二人はイリスを家に残してダンスパーティーへ出発した。


「……大人しくしていると思うか?」


「思えないわね」


 二人が同時に振り向くと、丁度イリスがゆっくりと家のドアを開けたところだった。


「げっ」


「イリス、お前な……」


 ルイスは思わず、といった風に頭を抱えてため息をついた。


「早く家に戻りなさい」


「……はい」


 今度こそイリスが付いてこないことを確認してから、二人は会場へ向けて再出発した。


「もう、アリスのことだけでも頭が一杯なのに……」


 今度は自分が頭を抱えながら、アンは大きく息を吐きだした。


 アリスときたら、失恋したとかで今日の今日までダンスパートナーを決めていないと来た。ドレスだって、選ぶ気のないアリスに代わってアンと店員とで決めたくらいだ。


「まあ、何とかなるんじゃないか?」


 それなのに、この夫ときたら呑気なことを言うものだ。


「魔術師になってから、アリスもなんだか頼もしくなってきたんだし。皓然たちに任せておけば、大丈夫だろう」


「違うわよ。こういう時程、あの子の行動は読めないでしょ。『誰とも踊らない』とか言い出しかねないわ」


「それはそれで面白そうだけどなぁ」


 一見似ていないルイスとヘレナだが、こういうことを言う時だけ、血のつながった兄妹なのだと思わされる。


 そして、それが子供たちに遺伝しているらしい、とも。


「形式通りのパーティーをしたって、何も面白くない」


「形式美ってものがあるでしょう」


「まあ、もう主役は俺らじゃないんだから。レオとアリスも、いつまでも子供じゃないんだ」


「……それもそうね」


 そんな話を、していたからだろうか。


 パーティー会場に着いたアンとルイスは、異様な空気に包まれた会場に出迎えられた。

お読みいただきありがとうございました!

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