118.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
なんとか、ユリアの戦友である、『かぐや』に勝利をおさめ、依頼も達成したアリスたちは、職業体験を終えることができた。その帰りに、アリスが見たのは……。
アリスは精霊たちと手をつなぎ、彼女たちの世界というものを見せてもらっていた。
妖精の世界は、なんだかキラキラしていて、雲の上に寝転がるというようなイメージを持っていたのだが、実際は全く違っていた。
真っ暗だ。何も見えない。時々、キラキラと輝くものがあると思ったら、それは精霊たちの髪や瞳だった。それはファンシーなものではない。近しい雰囲気で言うと、墓地。それか、監獄、と言ったところだろう。
ずっとそれが続く世界を見てから、急に世界はパッと変わった。眩しい世界で、優しい歌声が聞こえてくる。温かい空気に変わった。
顔は見えない。だが、金髪の女性が腕に赤ん坊を抱いて、体を揺らしながら綺麗な歌を口ずさんでいた。隣に座る黒髪の男性の膝には金髪の男の子が座っていて、どうやら眠っているようだった。
ヘレナおばさん?
カイルおじさん?
……違う、誰?
声が出ない。
手を伸ばしたいが、伸ばせない。両手とも、精霊の手を握っているから。
そしてすぐに画面が切り替わった。大きな川の流れの中に立っていた。
だが、溺れることはない。どうやら、それは川ではないらしい。よく見て見ると、それが人の一生を映しているものだということが分かった。それも、一人や二人ではなく、川の流れ一つ一つが、それぞれの人間の一生を表している。
生まれ、育って、産んで、育てて、年老いて、死ぬ。
全員がその人生を送っているわけではなかったが、そうやって多くの人間が命を繋いで、今を形作っている——。
「——リス! アリス! 門の時間だぞ!」
「……ん」
パウラの声に目を覚ましたアリスは、そっと周りを見回した。
ここは、門のターミナルの外。空港で言う所の待合室。
国境を越えて仕事や学校に通っている人もいるため、この時間帯は電車のように門の開門時間を限定することで混むことを回避している。どうやら、アリスはアエラス行きの門が開くまで待っている間に眠りこけてしまっていたようだ。
シオンの肩を枕にして。
「うおあ! ご、ごめん!」
「い、いや全然……。き、気にしなくて、良いのだよ……」
なぜか、シオンの顔が赤い。
だが、それに気づかないアリスは、慌てて荷物を持って立ち上がろうとした。
そして、そのシオンに手を掴まれた。
「ん?」
「れっ、連絡先っ、教えてくれないかね……」
「あれ、教えてなかったっけ?」
「あれは、その、事務用の連絡先で……。今度は、個人的な連絡先を……」
「ああ、そういうこと。いいよ」
手早くシオンと連絡先を交換したアリスは、彼に「またね」と笑顔を見せてからパウラの元へかけて行った。
「——アリスは、天然ものだな」
「何の話? っていうか、パウラ! 何で起こしてくれなかったの? シオンに迷惑をかけちゃったじゃん!」
「迷惑ねぇ」
「聞いてるの?」
「はいはい、聞いてるよ。ごめんね、あまりにも気持ちよさそうに寝てたから」
その言葉を聞いて、アリスは夢のことを思いだした。だが、細かいことまでは思い出せない。精霊たちに手を取られて、彼女たちの世界を見たのは覚えているのだが……。
「……何だったんだろう」
「アリス?」
「あ、ううん。何でもない」
パウラに笑顔を見せ、アリスは門への道を急いだ。
門の側にはフェリクスもいて、やはりアリスの胸は彼を見て高鳴った。
こちらに気付いた彼が、笑いかけてくれたからなおさら。
「まだ言えてなかったな。二人とも、お疲れ」
「お疲れ様」
「お、お疲れ様……」
いつも通りに返すパウラと違い、アリスは視線をあちこちにさまよわせながらフェリクスに挨拶した。
「丁度いいから、一緒に帰らないか?」
「いいね。それにしても、随分と丸くなったよな」
アリスをチラリと見てから、パウラはフェリクスに笑顔を見せた。「兄妹そろって、鈍いんだから」と思いながら。
「丸くなった? 俺が?」
「ああ。だって、満月で暴走したローズと戦え、なんて言ってきたじゃないか」
「そんなこともあったな。でも、俺はまだ諦めてないぞ」
周りを見て、人がいないことを確認してからフェリクスはグッとアリスたちに顔を近づけた。
ただ、周りに聞こえないように声を潜めただけ。それなのに、アリスは迫ってきた綺麗な顔立ちの青年に、心臓を吐き出しそうになっていた。
「俺の目的は、保守派に一泡吹かせてやること。忘れんなよ?」
「まさか。ボクから提案したんだから、忘れるわけないじゃないか。なあ、アリス?」
「え、あ、う、うん……」
「覚えててくれているのなら、良かった」
体をまっすぐに戻し、フェリクスは満足そうに笑った。
結局、フェリクスと別れるまで、アリスの動悸は収まらなかった。
部屋には、もう他のみんなは揃っていた。なぜか、ローズは首に包帯を巻いて、部屋はお通夜状態だったけれど。
「なんだよ、疲れてんのか?」
冗談気味に言うパウラではなく、「落ち着いて聞いてください」と皓然はアリスを見つめた。
「ユリア様について、新しいことが判明しました。レオとローズが、命がけで掴んでくれた情報です」
「……アリス」
レオはアリスの目をまっすぐに見つめた。
「ユリアの器になる、新たな条件が分かった。男女の双子であることと、精霊界の夢を見ることだ」
「精霊界の夢?」
「そう。精霊たちが、自分たちの世界を夢で見せてくれるらしい。お前は、この夢を見たことがあるか?」
「……あるよ」
丁度、さっき。
あの、何にもない世界は、信じがたいが精霊たちの世界で間違いなかった。証拠はないけれど、なぜだかそう言い切れる。
ハッとする表情をした仲間たちに、アリスは慌てて「でも!」と言葉を繋いだ。
「私、双子じゃないじゃん」
それなのに、みんなの表情は晴れなかった。
「君は双子だよ」
パウラは、アリスから目を背けた。
「正確に言うと、『元』双子。ヘレナ先生は、双子を妊娠したとわかった時、片方の受精卵を凍結保存した。それが、君だ」
「……なんで、パウラが」
アリスではなく、ローズの最もな問いに、パウラは泣きそうな顔になった。
「夏休み中、ママに教えてもらったんだ。パパとヘレナ先生は仲が良かったから、何か聞いてないかって。そしたら……。言うタイミングもなかったし、ボク自身も半信半疑だったから、言えないでいた」
「ユリア神殿に、なぜかその時の資料が残ってた」
レオはUSBに保存した内容をモニターに映し出した。そこには、いつ受精卵を凍結させ、いつ取り出したのか、担当医師名が書かれていた。親の名前はヘレナ・ランフォードと、カイル・ブラック。受精卵を凍結させた担当医は、安倍桜音。
そして、生まれた子供の名前は、アリス・ランフォード。
アリスは目をつむり、大きく深呼吸をした。感情が高ぶって、魔力が暴走しかけているのを感じる。だから、せめて自分の周りで散る火花だけは押さえようとした。
「アリス」
だが、皓然のその声に我慢が出来なくなった。
アリスは何も言わずに部屋を飛び出した。
飛び出すべきではないことは、分かっていた。みんなともっと、話し合いをすべきだということも。
それでも、泣いているのを見られたくないから……。
「——おっと!」
曲がり角を勢いよく曲がり、その先にいた人物にアリスは強くぶつかってしまった。
お読みいただきありがとうございました!




