116.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
職業体験中、アリスたちは人魚の密猟を行っている『盗賊団かぐや』から人魚を助け出す任務に就くことになった。あくまでも、目的は人魚の救助。それなのに、いつの間にか『盗賊団かぐや』に囲まれてしまっていて……。
アリスは改めてかぐやを睨みつけた。
「悪いけど、戦闘は任せたわよ」
ダミニはパウラたちを連れ、海辺に立った。
「イヴァナのことが心配。イヴァナを見つけたら、すぐ加勢するわ」
「了解」
シオンたちが返事した瞬間、アリスたちに向かって、かぐやが攻撃魔術を飛ばしてきた。
「“止まれ!”」
アリスの魔術によってかぐやと、その攻撃は一瞬だけ動きが止まるが、すぐに術は解除されてしまって、魔力の刃が飛んでくる。
その、アリスの魔術が効いた一瞬だけ、体にミシッと重みがかかる。
というのも、かぐやの手数は少ないのだが、魔術の練度が高いからだ。つまり、面積は小さいが、体積は大きい。出来る限り避けているつもりではいるのだが、そう上手くいかない。
「ほほっ、ほれ、頑張れ、頑張れ」
魔力の塊をぶつけられて、魔力の盾を出現して耐えていたアリスだったが、耐えきれず、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。白い砂浜の上を転がり、顔をあげたアリスはすぐにその場を離れた。アリスがいた場所に槍が降ってきたからだ。
「ほう。身軽じゃの」
すでにボロボロのアリスと違って、かぐやは余裕だ。大きな羽扇であおぎながら、アリスの動きを見て楽しそうに笑っている。
対して、アリスは立っているのも限界に近い状態だ。何せ手下の数が多いから、シオンたちがまだこちらに加勢できていないのも痛い。
「ユリアの子孫とはいえ、鍛錬不足のようじゃ」
かぐやはつまらなさそうに首を傾げた。
「しかし、お主の家系特性はユリアのものと、よぅく似とるようじゃ」
「……ずっと言ってるね。ユリア、ユリアって」アリスはかぐやを睨みつけた。「まるで、友達みたいに。ユリアの何なの? 何を知っているの?」
「——戦友、と言えば、分かるかの」
口元を扇で隠したかぐやは、ジッとアリスを見つめた。
「わらわは、かつてユリアとタタラの三人で娼館の看板を背負っておった。昔から、女の方が質の良い魔力を操れるでの、子を産む道具として、身寄りがなく、高い魔力レベルを有している女が娼館に閉じ込められておった。しかし、戦況が悪化するにつれ、女も戦場に駆り出されるようになった。わらわもそのうちの一人じゃ。子を宿したまま戦場で血と毒を浴び、その子は流れてしもうた」
「なら、どうしてこんなことしてるの?」
アリスのみの周りにいる、人を殺したことのある人たちは、——両親は何も何も言わない。
何も言わないけれど、悔やんでいることだけはすごく伝わってくる。
だから、かぐやがしていることの意味がアリスにはわからなかった。
「決まっておろう。余生を謳歌するためじゃ。道具として使われ続けたあの頃を取り返す。わらわはそう決心したのじゃ。ユリアと違って、わらわは未練たらたらでの。そのためにも、新しい人魚の血肉が必要なのじゃ。しかし、長い月日を経てかつての友人の子孫を手にかけることになるとは、思ってもみなかったがの」
アリスに向かって広げられたかぐやの手のひらに魔法陣が浮かび上がった。ということは、これまでのように魔力の塊をただぶつけるのではなく、本気でアリスを殺しにかかるということだ。
「——っ」
「ユリアの子孫なら、耐えられるじゃろう?」
魔法陣から放たれた赤い光線は、一直線にアリスに向かって飛んできた。
魔力の盾では、防ぎきれない。
直感的にそう感じて、アリスも手のひらに魔法陣を浮かべて、防護魔術を展開した。
派手な爆発音が鳴って、砂煙が晴れた時、確かにアリスはそこに立っていた。だが、あちこちで血が滲み、ヒュー、ヒューと呼吸をしていた。
今の攻撃を耐えるのに、ほとんどの魔力を使ってしまった。
「さすがよのぅ」
あっちは余裕なのに。
アリスはギリッと思わず奥歯をかみしめた。圧倒的に実力差がありすぎる。ユリアとともに死線を潜り抜けてきた人と、一年ちょっとしか魔術を習っていないアリス。結果など分かりきっている。
せめて、アリスにも奥の手があれば……。
そこでアリスの頭に浮かんだのは、フィンレーだ。だが、使い魔になってから一度も、まだ特性を使ってみたことがない。ここで何の特性かもわからないフィンレーに頼るのはリスクが大きすぎる。
なら、魔術で何とかするしかない。メアリーも言ってたではないか、魔術はイメージだと。
「……イメージ?」
「終わりか。少々つまらなかったが、面白いものは見れた。あの世でユリアによろしく言うておいてくれ」
魔術はイメージ。それなら、今のアリスでも出来るかもしれない。
「フィンレー!」
アリスの大きな声が結界内に響き渡った。
「おいで、フィンレー!フィン!」
魔力を集めろ。どんなに小さなものでも、少なくても。とにかく、魔力を!
「フィン。私に特性を使わせて」
肩に上ってきたフィンレーを見つめ、アリスはゆっくりと小さなその子に言い聞かせた。
「一時的でいい。とにかく、アイツを倒したい。だから、力を貸して」
フィンレーが頷いてくれたので、アリスは表情を和らげて小さな頬に頬ずりし、そっと瞳を閉じた。
「ありがとう。死んだら、……その時に考えようか」
ゆっくりと目を開いたアリスとフィンレーの右目は、真っ青に染まっていた。
「バカな……!」
手のひらに再び魔法陣を浮かべたかぐやだったが、鋭い魔力の塊が飛んできて魔法陣を割られてしまった。
魔力の塊を投げつけたのは、もちろんアリスだ。
「フィン。もう少し出力を上げて」アリスはニヤリと笑った。「あの女も、木っ端みじんに吹っ飛ばしちゃおう」
『かぐや、何を躊躇しているの?木っ端みじんに吹っ飛ばしちゃおう。全部、ぜーんぶ!』
「ユリ、ア……?」
真っ青な顔でガクガク震えるかぐやの手から扇が滑り落ちた。
間違いない、あれはユリアだ。戦場のユリアだ。すべてを無に帰した時の彼女だ。敵味方関係なく、全てを無に帰した時の……。
「お主は、死んだのじゃ……。死んだ! このわらわがユリアを看取ったのじゃ! 間違いなく、ユリアは死んだ! ユリアは……!」
「“うるさい”」
とたん口の利けなくなってしまったかぐやは、真っ青な顔でダラダラと汗をかきながらアリスを睨みつけた。
だが、アリスはやはりニヤニヤと笑っているだけだ。
「アンタの前に立ってるのは、ユリアでもヘレナでもない。私は、アリス・ランフォード。ユリアの名前、忘れさせてあげる」
アリスの周りに浮かび上がった小さな魔法陣たちから、一斉に攻撃魔法が放たれた。それも、ただがむしゃらに打つのではなく、同じ軌道の魔術を放ったり、タイミングをずらしたり、頭も使っている。
防護魔術も壊され、かぐやの白い体に傷が増えてきた。それでもかぐやが耐えていると、より一層、アリスの瞳が輝きを強くした。
攻撃魔法を放ち続ける魔法陣たちとは別に、アリスはかぐやに向けて指をピストルの形にして構えた。
「『百発百中』」
アリスの人差し指から放たれた攻撃魔術は防護魔術の隙を通り抜け、背中からかぐやの心臓を打ち抜いた。
「あ……」
「大丈夫、死なないよ」アリスは指を降ろした。「アンタと同じ犯罪者には、なりたくないからね」
膝から崩れ落ちたかぐやを見て、盗賊団は混乱に陥った。おかげで、あとの仕事は簡単だった。
ラウラが魔術を解いた時、すでに日は落ちかけてしまっていた。
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