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115.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アゴーナスの代わりに行われる、職業体験。アリスはシオンたちとともに魔術探偵である、イヴァナ・トカシュの事務所に訪れていた。一方、そのころレオは……。

 レオはとんでもなく居心地が悪かった。


 レオとローズが配属されたのはフォティアにある神殿。その名もずばり、「ユリア神殿」。


 名称から分かるように、ここはユリアを信仰する、いくつもある神殿の総本山。


 レオがこの場所を書いたのは第三希望だった。なぜ第三希望とはいえ、神殿を希望したのかというと、もしかしたらユリアについて知れるかもしれないと思ったらからだ。上手くいけば、誰も知らない情報がひょっこり出てくるかもしれない。


 だが、実際はそう上手くいくわけもなく。むしろ、担当者のティモシー・スミスという、熱狂的なユリア信者に付きまとわれ、ぐったりしているのが事実だ。


 こうなれば、多少強引な手を使っても構わないだろう。


 ティモシーが同じグループのマリベルに捕まっているのを見計らって、レオは神殿の奥へと走った。こんなに大きな神殿なのだ、図書館が併設してあってもおかしくはない。


 角まで走ってきて、レオはそっと顔をのぞかせて周りに人がいないか確認した。そして、誰もいないので一歩を踏み出した、その時だった。


「どこへ行くの?」


「っぎゃ!」


 思わず情けない声を上げたレオの瞳が捉えたのは、不思議そうにしているローズだ。


「なっ、何してんだよ……!」


「だって、レオが走って行くのが見えたから。パウラが言ってたの。『レオはきっと、ユリア様について、何か調べようとしているのに違いない』って。だから、『助けてやって欲しい』って」


「アイツ……」


 思わず、レオは顔を覆ってしまった。


 どう頑張ったって、彼のリーダーには隠し事が通じないらしい。


「——パウラの言う通りだよ。俺は、ユリアについて、何か発表されてない情報がここにあるかもしれないと思ってる」


「それを探してるってわけね。分かった、図書館でしょ。任せて、古い紙の匂いならたどれるわ」


 ローズは手早く狼に変身すると、しっぽを振りながらレオの前を歩き出した。



 ***



「——ああ、来た来た!」


 イヴァナが手を振った先には、六人の魔術師がいた。正確に言えば、魔法の鍵屋と、そこに配属されていた学生魔術師たち五人。


「パウラ!」


「やあ、奇遇だね」


 思わず駆け寄ったアリスに、パウラは笑顔で応えた。


 パウラの他に、フェリクス、笙鈴(ショウリン)紫乃(しの)。それから、エミリーというフォティアの魔術師もいた。


「あ、フェリクス……。えっと、お疲れ様」


「お疲れ様」


 朗らかに挨拶を返されただけで、アリスは頬を真っ赤に染めた。心臓も、なぜだかドキドキと波打っている。


 そんな様子を、シオンは黙って見ていた。


「さて、みんなに紹介しよう!」


 イヴァナは手を叩き、隣の千夜族の女性を示した。


「彼女はダミニ・クマール。魔法の鍵屋だ。具体的には、特殊な鍵をいくつも作って持ち歩いているんだ。開かなくなった金庫を開けたり、逆に最新の鍵をかけたりするのが仕事だ」


「彼女はイヴァナ・トカシュ。魔術探偵。警備隊の起捜に近い仕事をしているの。この通り、うるさい。人呼んでへっぽこ魔術師。魔術師のクセに魔術が苦手なの」


「それが元チームメイトの紹介かい?」


「大事な情報だけをピックアップしたつもりよ」


 ダミニはクールにそう言ってのけた。


 そんな彼女は、日に焼けた浅黒い肌に、サリーに似た服を着ている。そのサリーの裏側には、イヴァナが言っていたようにいくつもの鍵がぶら下がっているのが見えた。


「それで、応援というのは?」


「簡単さ。盗賊団かぐやとぶつかるかもしれない」


 その言葉に、アリス以外の全員が驚きの声をあげた。


「えーっと、何それ?」


「国際指名手配されている盗賊団だよ」とパウラ。「ボスが『かぐや』っていう千夜族の女だから、『盗賊団かぐや』。人魚の密漁が主な犯罪」


「人魚? サラみたいな?」


「そう。元々、サラも密売人に殺されかけている所を、ルカ兄さんたちが助けたんだ」


 パウラの言葉に驚いていると、フェリクスが「人魚の噂を知っているか?」とアリスに尋ねてきた。


「う、ううん」


「実は、人魚の血肉を食うと寿命が延びるっていう噂がある。それから、ボスのかぐやは、二千年を生きていると言われている」


「それは流石に嘘なんじゃ……」 


「それが、ユリアと一緒に悪魔に立ち向かったと言われている、三英傑のかぐやと、いくつもの共通点があるんだ。だから、一概に嘘とは言えない」


「へえ……」


 ——嘘くさい。


 その気持ちは、アリスの胸奥深くにしまった。だって、みんなが真剣な顔をしてうんうんと頷いているから。


「その、こっちは人魚から『お友達を助けて!』って依頼が来たんだよ」


 アリスはパウラたちに説明して、ごくりとつばを飲み込んだ。


「つまりだよ。みんなは、そのお友達が、かぐやに何かされたと思ってるってこと?」


「その可能性が高いって話」


 イヴァナは馬車を捕まえながら、アリスを見つめた。


「かぐやじゃなくても、他の密漁人の可能性がある。だから、人数を集めたんだよ。どちらにせよ、私たちの仕事はそのお友達を助けることであって、密漁人たちを捕まえることじゃない。そのことは忘れずにね」


 アリスたちを乗せた馬車は街中を通り抜け、森の中へ入った。それからもしばらく、馬車で行ける所まで行き、途中からは歩いて目的地へ向かった。


 目的地は、満月湾。断崖絶壁の真下には、まるで海賊の隠れ家のように、まん丸の湾が存在していた。海側は滝になっているから、唯一の縄梯子を使わなければ中に入ることはできない。


 人間なのであれば。


 依頼人の人魚は、水の中を通ってこちらへ来たらしかった。


「あなたが魔術探偵!? お願い、友達のササラを助けて欲しいの!」


 ピンクの髪と鱗を持つ人魚は、やってきた人間たちに開口一番、そう訴えた。


「遊んでいたら変な人間たちが来て、ササラを捕まえてしまったの!私は何とか逃げ切ったんだけど……! ねえ、お願い!」


「落ち着いて」


 イヴァナが代表して人魚の前に膝をついた。


「まずは、あなたの名前を……」


 その瞬間、「バシュッ」という音とともに、網が飛んできた。


 飛んできた網は、人魚とイヴァナを捕まえると、海の中へと消えていった。


「イヴァナさん!」


「あーあー……」


 アリスたちと正反対に、ダミニは呑気にイヴァナが消えていった海を眺めていた。


 いつの間にか、崖の上に人影が見える。全員が女のようだ。


「出たな」


 シオンは両手に針を取り出し、女たちを睨みつけた。


「主犯だ。『盗賊団かぐや』、ネロを中心に活動している密漁業者どもだ」


「つまり、アイツらを捕まえればいいわけですのね?」


 そう言ったラウラの手に、大きなハルバートが出現した。使い手である彼女の倍はあり、柄の先には黒い球が付いている。大きな刃が光を浴びて鈍く輝いていた。


 シオンとラウラは簡単そうに言ってくれるが、相手の女たちはざっと見積もっても陸に百人ほどいそうだ。おまけに、海の中からも何人かシュノーケルで顔を隠して現れた。


「ネロ、フォティア、ガイア、アエラス……。ほう、魔術探偵と魔法の鍵屋まで」


 ゴテゴテに飾られた大きな傘の下で肘掛椅子に体を預けているのは、千夜族の女だ。艶やかな黒髪を緩くまとめ、はだけた着物からは豊かな胸がこぼれ落ちそうになっている。見た目はとても美しいのだが、本能が「あの人は狂っている」と警鐘を鳴らしだした。


「国際チームに目を付けてもらえるとは、光栄なことじゃ。今回こそは、わらわを捕まえられればよいのぅ」


 キセルから煙を吐き出しながら、女はアリスたちの顔を順に見つめて言った。


 盗賊団かぐや。そのボスである、あの女の名がかぐや、という。噂によれば、二千年前、つまり、ユリアの時代から人魚の血肉を食べて生き続けているのだという、化け物。だが、その実力は本物で、彼女は上級に匹敵するほどの魔力レベルを持っている。だが、どの国の行政からも魔術師として活動する許可を得ていない。いうなれば、非公式の闇魔術師。


「——ほう、金髪か。ユリアの血を引く者か。これはなかなか、楽しめるやもしれん」


 アリスは内心舌打ちを漏らし、かぐやを睨んだ。


 こちらはユリアの子孫。かぐやからすれば、友人の子孫だ。そう簡単には殺されないはずだ。


 ……多分。


「——良いだろう。このわらわが直々に相手してやろうぞ」


 立ち上がったかぐやは、裸足で崖のふちまで歩いてきて、改めてアリスのことを冷たく見おろした。


「あの時の礼じゃ、ユリア」


「そうはさせませんの!」


 ラウラはハルバートの玉を蹴り割っていた。玉の中に封じ込められていた黒い靄は勢いよく飛び出し、満月湾をまるまる飲み込んでしまった。


 満月湾全てが、夜に変わった。


「空間魔術……。それも、かなり複雑なようじゃ。術者を倒さぬ限り、外に出られぬ」


 混乱している部下たちと違って、かぐやは冷静だった。新しく広がった夜空を見上げてから、ラウラにも笑いかけた。


「小娘。これはお主の魔術ではないな?」


「あなたには隠し事は通じませんわ。そうです、これはラヴの魔術ではありません。これは、ラヴの師匠の術。つまり、ラヴを倒してもこの魔術は解けませんわ」


 空間魔術には様々な種類があるが、そのほとんどは術者がその空間内で有利になるものだ。


 そして、このラウラの魔術もそうだ。この空間内で一番強いのがラウラだ。術者は、この空間を好きなようにカスタマイズすることだってできるからだ。


「——おぬしに、わらわの魔力を封じられておる」かぐやはまじまじと自身の手のひらを見つめた。「おぬしの師は、なかなかの実力者のようじゃ。魔術の展開と一緒にわらわへの魔力の供給を止めよった。臣下どもまで」


 これで、この空間で魔術を使えるのは、アリスたちだけだ。


「“アリス・ランフォードが命じる! 吹っ飛べ!”」


 アリスは自分の中でもかなりの出力で攻撃を繰り出したつもりだった。


 それなのに、かぐやは防御魔術でそれを防いでしまった。


「どうなってんの……」チェルシーは顔を険しくした。「ラウラが、あんたの魔力を封じたはずなのに……!」


「魔力を封じられる直前に、自分の周りにだけ結界を張った。ただ、それだけじゃ。とはいえ、結界を展開しながらでは最大出力は出せぬようじゃ」


 最大出力ではないに関わらず、彼女はアリスの攻撃を防いだことになる。


「上級レベルという噂は、どうやら本物のようだな」


 シオンはざっと周りを見回した。かぐやは魔術が使える。それに安心したのか、盗賊団の士気が戻ったのだ。


「アリス。悪いが、かぐやは任せたのだよ。この中でヤツに対抗できるのは君だけだ。ぼくらも、雑魚を倒したらすぐに補助に入る」


「……分かった」


 アリスは改めてかぐやを睨みつけた。

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