114.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
職業体験で魔術探偵の元に訪れたアリス。しかし、受け入れ先の所長は『へっぽこ魔術師』と呼ばれる、魔術の苦手な魔術師だった……。
「いやはや、申し訳ない! 皆にコーヒーを振る舞おうとしたんだが、この様だ!」
窓ガラスの吹き飛んだ事務所でアリスたちを迎えてくれたのは、魔術探偵のイヴァナ・トカシュ中級魔術師。人呼んで、「へっぽこ魔術師」。魔術師なのに魔術が苦手な彼女は、魔術で水を沸かそうとして失敗したらしい。
代わりに今、目の前にはシオンが淹れてくれた人数分のコーヒー。
カーテンがバサバサ音を立てる中、イヴァナは「ふむふむ」なんてアリスたちの顔を一人ずつ見つめた。
「凄いじゃないか! いやぁ、こんなに名のある魔術師たちが来てくれるなんて! 改めて、私はイヴァナ・トカシュ。このトカシュ魔術探偵事務所の所長だ!」
「ええ、存じ上げております。イヴァナ先輩」
チェルシーはため息をつきながらカップを持ち上げた。
「相変わらず、魔術を使うのが不得意なようで……」
「人間、得意不得意があるものだよ」
——『魔術』探偵なのに。
それは、胸の奥深くに隠して。
アリスは「私たちは、一体何をすれば?」と笑みを浮かべて見せた。
「そうだねぇ。私と一緒に仕事をしてもらおうと考えていたんだ。これらが、今来ている依頼だ。さあ、どれから行く?」
イヴァナが取り出しのは、いわゆる依頼書が二枚。
一枚は、飼い猫がいなくなったので探して欲しい、という捜索依頼。
もう一枚は、倉の倉庫から母の遺品を探し出して欲しい、という依頼。
「緊急性が高いのは、こっちだ」
シオンが猫の依頼を指さすと、アリスと一年生の二人が頷いた。
「命がかかわってるもんね」
アリスの言葉に、イヴァナは瞳をゆっくりとつむった。
「……なるほど。それじゃあ、リーダーはそれでいいかい?」
「異論ありません」
「なら、早速出発だ! 依頼人の元へ行くぞ!」
荷物をまとめ、捕まえた馬車に揺られながらアリスは思った。
ここまで、いつもの依頼と同じなのではないか?
すると、その心を見透かしたように「面白味も無いだろう」とイヴァナは笑った。
「ここまで、普通の依頼だ。わざわざ体験しに来るほどのものでもないだろう? なのにどうして、君らは私の所に配属されたんだろうね?」
「……どうしてですか?」
アリスは尋ねてみたのだが、イヴァナは「今に分かるよ」としか答えてくれなかった。
依頼人は、ヨボヨボのおじいさん。立っているだけでもやっとだろう。道理で、自分の足ではなく、魔術探偵に依頼を寄越すわけだ。
依頼人は、猫の写真を見せてくれた。オスの三毛猫で、依頼人の膝に座ってカメラに顔を向けている。
「もう、コイツも年じゃて。どっかで怪我していないか、心配でのぅ」
「そうでしたか」
イヴァナはニコリと微笑んだ。
「このイヴァナ・トカシュにお任せください。必ずや、見つけ出しましょう」
「ああ、頼んじゃぞ。魔術師様方もいらっしゃるとは、ありがたや」
依頼人に拝まれてしまったアリスたちは、依頼人の家を出てからイヴァナの周りに集まった。
「さて。こういう時、みんなは普段どうするんだい?」
「猫の魔力の痕跡を辿ります」シオンが言った。「そのためにも、依頼人から猫の魔力が付着している物を借りてきます」
「そう。それがスタンダードの探し方だ。でも、ここには猫の写真一枚しかない」
イヴァナは例の写真をひらつかせた。
「おまけに、猫の魔力は薄い。人探しほどうまくはいかないよ」
「占いを行います」
チェルシーに、みんなの視線が集まった。
「占いで精霊たちに、猫の行方を知らないか問いかけます。でも、あなたなら、もっと簡単に猫を見つけ出せます。『探索』の家系特性がありますから」
イヴァナはニコリと微笑むと、「さっきの質問の答えだけど」とアリスを見つめた。
「どうして、依頼と変わらない魔術探偵の仕事を体験しに来ているのか。理由は二つある。一つはこれだ。『より多くの家系特性を知り、触れること』。オーケー、ついてきて。猫はこっちだ」
栗色の瞳に不思議な光を灯し、イヴァナは依頼人の家の裏へと回った。
長いこと、人の手が加えられていないのだろう。家の裏は草がボーボーで、庭木と家の壁には蔦が巻き付いている。
イヴァナは草をかき分けながら庭の中に入って行き、小箱の前で立ち止まった。
「この中だ」
そう言ってイヴァナが小箱の中から取り出したのは、若干腐敗の進んだ猫の死骸だった。酷い匂いがして、ハエや蛆虫が湧いてしまっている。ネロは温暖な気候だから、腐敗が進んでしまったらしい。
「猫は死期を悟ると、自ら姿を隠すってね。さあ、依頼人の所へ行こうか」
「いいんですの?」
ラウラは鼻をつまんでイヴァナを見つめた。
「あのおじい様、猫ちゃんは生きていると思ってらっしゃいますわ」
「そうだろうね。けど、私たちの仕事は『猫を見つけてくること』だ。それは、依頼の時だって、そうするだろ?」
誰も否定しなかった。
依頼人のおじいさんは、猫が帰ってきたことに涙を流して喜んでいたが、アリスたちの胸はモヤモヤしたままだった。
「あえて見つけないっていう手も、あったと思いますの」
休憩中。
飲み物を買った帰りに、ラウラはボソッとアリスにこぼした。
「わざわざ依頼人に、残酷な事実を見せる必要はないと思いますわ」
「……そうかもね」
依頼人は、帰ってきた猫を見て泣いていた。どんなに汚れていようと、力の限り猫を抱きしめて。
「——でも、見つけなかったら依頼人はずっと、猫を探すことになる。だから、今回はこれで良かったんじゃないのかな。……私にも、よく分からないけれど」
こういう時、パウラならどうしていただろう。
ざわつく心の中、アリスはふとそんなことを思った。
アリスたちがみんなの元へ戻ると、少し騒然としていた。
「何かあったの?」
「ああ。人魚からの依頼が来たのだよ」
そう言ってシオンが見せてくれた依頼書には「友達を探し出して欲しい」と走り書きで書いてあった。
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