113.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
春休みも終わり、新学期を迎えたアリスたち。特に、レオとローズは中級魔術師の昇級試験を受け、見事に試験を突破して帰ってきた。そんなアリスたちに降りかかった、次の問題というのは……。
アゴーナスは四年周期……、と思いきや、実は五年周期なのである。
四年かけて四カ国それぞれでアゴーナスを開催。最後の一年は職業体験をする。それが、なぜだか建国時からの決まりなのだ。
職業体験と言っても、どんな職業でも良いというわけではない。魔術師の階級章を持っていなければ就けない職業限定で体験するのだ。これの意図は、もし魔術師をクビになったとしても次の仕事先を見つけやすくすることだ。
去年はアエラスでアゴーナスを行ったので、順番的に今年が職業体験の年なのである。
さて、皓然がなぜ不安げだったのかというと、それはチームをバラバラにされ、他国の魔術師と編成されるからだ。よほどの理由がない限り、同じチームの魔術師が編成後も一緒であることはあり得ない。
もし、パウラが、彼女を毛嫌いしている人と同じチームになったら?
もし、アリスとレオがフォティアの熱心な王家信者と一緒になったら?
もし、ローズが保守派貴族と一緒のチームになったら?
アダンは……、何があっても大丈夫だろう。
——と、みんなの意見をまとめる役割の皓然は不安に思っているのである。
「はい、パウラ。どこに体験をしに行きたいですか?」
「やっぱ、国際警察だね。プロファイラーと会ってみたい」
「……エスコ先生だってプロファイラーじゃないですか」
「違うプロファイラーと会ってみたいんだよ」
「はあ……。レオは?」
「錬金術! 多分、講師が兄ちゃんだから!」
「えっ!? じゃあ、私も! 私も錬金術師がいい!」
不純な動機で手をあげたランフォード兄妹にため息をつきつつも、皓然は希望メモを取った。
「ローズとアダンはどうですか?」
「私、先生がいい! 教員!」
「ぼくはねぇ……。あ、女の子がいっぱいいそうな占い師!」
不純な動機がもう一人。
今日も、皓然のため息は止まることを知らない。
「言っておきますけど、希望通りに配属されるわけじゃないですからね?」
「分かってるって」
そう言いながらも皓然のメモを覗き込み、パウラは「へえ!」と声をあげた。
「皓然も国際警察希望なんだ!」
「意外ですか?」
「意外だね。てっきり弁護士かと思ってたから」
「そっちとも迷いましたけど、せっかくなので。それに、こういうのって第一希望じゃなくて、第二、第三希望が通るものなんですよ」
何て言っていたのも、二週間前。
結果は皓然の言葉を少しだけ立証していた。
パウラは、鍵屋へ。
皓然は、国際警察へ。
レオとローズは、神殿へ。
アリスは、魔術探偵事務所へ。
アダンは、薬屋へ。
皓然だけが第一希望、他は第二、第三希望に通る結果となった。
「君が変なことを言うからだぞ」
「ぼくのせいにしないでください」
配属先結果を前に、パウラは皓然を睨み、皓然は肩をすくめた。
そんな中、アリスは配属先結果を見て「あ」と声をあげた。同じ配属先に、シオンとラウラがいたからだ。
全くの知らない人たちだらけではない。
そのことに、アリスはホッと胸をなでおろした。
そして、当日。
アリスはフィンレーを肩に乗せ、待ち合わせ場所であるネロ王国のターミナルへ向かった。アエラスの門を通った先には、門番の家のように真っ白な空間に様々な材質の門がいくつも浮かんでいる。
そんな門のターミナルであちこちを見回していると、急に左腕を引っ張られた。去年のように魔力を暴走させずに済んだのは、一年間、魔術を学んだ成果だろう。
「シオン! びっくりしたぁ、驚かさないでよ」
「え、あ、悪い……」
シオンは呆けたようにアリスを見つめてから、「こっち」とアリスの手を引いて歩き出した。手を離さないのはきっと、周りにはたくさんの人がいるから、はぐれないようにするためだろう。
「他のメンバーは、もう来てるの?」
「ああ」
「じゃあ、私が最後じゃん」
「そうだね」
「えっと、遅刻しちゃってた?」
「いいや」
「そっか……。えーっと、シオンは元気?」
「元気だよ」
「そう。私も元気!」
「そうだろうね」
「えーっと……」
何だか前に会った時と雰囲気が違うから、戸惑ってしまう。
アリスにとってシオンは、大人しい人、というイメージだ。それゆえに、色々な人からいじられている、とでも言うか。それに、謎に満ちている。こうして二人きりで話をするのなんて、初めてではないだろうか。
春休み中だって、シオンと誰か(ほとんどが皓然だった)、という組み合わせで話しかけてきた記憶がある。
「——シオンは、私のこと苦手?」
「へ?」
シオンは足を止め、まじまじとアリスを見おろした。
「なんで、そういうことになるのかね」
「だって、二人きりにならないようにしてたし、こう、返事がよそよそしい? というか」
「それは……!」
思わず、といったように大声を出したシオンは、顔を真っ赤にしてごにょごにょと教えてくれた。
「——君が苦手なわけじゃない」
「そうなの?」
「ただ何を話したらいいか、分からなくなってしまうのだよ……」
「ふーん?」
——それって、やっぱり苦手、ということでは?
そう思ったが、これはアリスの胸に深くしまい込んでおいた。遠くから、「おーい!」とアリスたちを呼ぶ人物が見えたから。
「はい、時間通り。これからは最低でも五分前行動してよね」
そう言ったのは、このチームの年長者、チェルシー・エアハート中級魔術師。ネロ王国の五年生だ。薄ピンクの髪をショートボブにしている彼女は、エルフだった。
「揃ったことだし、順番に自己紹介と行きましょうか。私はネロのチェルシー・エアハート。ライトエルフ。今回、チームリーダーを務めるよ。得意魔術は魅了の術。はい、次」
「シオン・ハイド。ネロの中級。得意魔術は無いが、毒針を使った攻撃なら他よりも自信があるね。今回、このチームの補佐役を務める」
「ラウラ・ヤンセン、フォティアの初級魔術師ですわ。家系特性はまだ使えませんが、相棒はハルバートですの。よろしくお願いいたしますわ」
「ガイア王国初級魔術師一年、イ・ジュンと申します。千夜族ではありますが、まだまだ未熟物ですので、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
「アリス・ランフォード、です。アエラスの二年生です。えっと、魔術も武器を扱うのもそこまで得意じゃないけど、防御魔術は得意な方です。あ、使い魔のフィンレーです。よろしくお願いします」
やっぱり、はじめましてのチェルシーとジュンは、フィンレーが物珍しいようで、食い入るように見つめてきた。それでも、フィンレーが怖がってみるのを見てやめてくれたので、二人とも優しいのだということは分かった。
「じゃあ、移動するからついてきて」
チェルシーを先頭に、アリスたちは動き出した。
ネロの首都、マーガリテへ行くため、アリスは髪を赤茶色に染め、フィンレーには自分の中に入ってもらうことにした。
準備が出来、アリスたちはマーガリテへつながる門を抜けた。
マーガリテは、何とも美しい街だった。あちこちに水路が伸び、ゴンドリエーレの唄が街中に響き渡る。活気あふれる市場には、つやつやの野菜が並べられている。
何より、太陽に照らされた水路がキラキラと輝き、その水紋が建物に反射している様子が、本当に美しかった。
「今回お世話になるのは、『トカシュ魔術探偵事務所』。二年前に引退した、イヴァナ・トカシュ中級魔術師が運営している事務所だよ」
「質問、よろしいですか?」
ラウラが控えめに手をあげた。
「兄から、探偵事務所がしていることは魔術師の仕事とそう変わらないと、聞きましたの。では、魔術師と探偵は、何が違うのでしょうか?」
「いい質問だね。そうだね、例を出そう。例えば、Aさんが呪われたとする。そしたら、Aさんは魔術探偵の所へ行って、誰に呪いをかけられたのか調べてもらうんだよね。探偵の調査の結果、BさんがAさんに呪いをかけたことが分かったとする。ここまでが、探偵の仕事。あとは魔術師に引き継ぐんだよ」
「それでは、魔術師のいいとこどりですわ」
「そういうシステムだからね。上の言い分としては、『魔術の専門家は魔術師。よって、魔術によるトラブル処理は魔術師がすべきことである』。これだからねぇ」
ふと、チェルシーの足が止まった。
「はい、到着。このマーガリテ一等地にあるのが、トカシュ魔術探偵事務所」
なんと、門から徒歩五分だ。
心の準備が出来ていなかったのに、到着してしまった。
アリスは音を立ててつばを飲み込んだ。
その瞬間、事務所の窓がはじけ飛んだのだから、アリスはしゃっくりが止まらなくなってしまった。
チェルシーが展開した防御魔術の上に、ガラス片と一緒に一人の女性が落っこちてきた。
栗色の髪を一つにまとめ、髪と同じ色の目を回しているその人は、左胸にネロの魔術師の階級章を付けていた。
「……紹介するのだよ」
シオンは、どこか呆れ気味に女性を見つめた。
「この人が、受け入れ先の所長、イヴァナ・トカシュ探偵だ」
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