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112.

「——それでね、桃子がね、『来年もこの時期が楽しみだね』なんていうんだよ! ひどくない?」


「それだけ仲良くなれたという事なんじゃないですか? 良かったですね」


「まあ、確かに冗談を言い合える友達は桃子たちが初めてだけど、そういうことじゃないの!」


「分かってますって。牡丹姉さんが言ってました。女性は話に共感してもらいたい生き物なんだって」


「そういうこと!」


 仲良く話しているアリスと皓然のことは、さておいて。


 レオは食欲がなく、フォークの先でこんがりグリルされた鶏肉をつついていた。


 何か、嫌な予感がするのだ。だって、普通は昇級試験を勧める手紙なんて送られてこないからだ。


 確かに、中級に上がるのは二年生から三年生の間が普通だ。だが、それを考慮しても、おかしな話であることに変わりはない。だって。ラファエルは四年生になってから中級の昇級試験を受けたが、こんな手紙を受け取ったと聞いていないから。


「レオ、美味しくなかったですか? 味、濃かったですか?」


「え?」


 気が付けば、皓然が心配そうにレオを見つめていた。


「あ、いや、美味いよ。ごめん、ちょっと考え事してた」


「考え事、ですか?」


「大方、昇格試験のことだろ」


 パウラの言葉に、レオは素直に頷いた。


 すると、なぜかアリスが勢いよく食いついてきたのだ。


「お兄ちゃん、中級の昇級試験受けるの!? いいなぁ。あのね、セレナが言ってたんだけどさ、中級になったら単独行動も許されるんでしょ? あと、依頼内容によって別のチームの人と組むのも。今日ね、中級になったらみんなで依頼を受けてみたいねって話してたんだよ」


 その言葉に、納得がいった。


 アリスはもう、魔術師として生きていこうとしている。


 それに気付いた上が、一日でも早くアリスを一人前にしようと、レオとローズという、身近な存在にアプローチをかけたのだ。


 少し前までアリスがコントロール出来ないかもしれないから、と一人前にするのを渋っていたのに、凄い手のひら返しだ。


 理由は恐らく、フィンレーが使い魔になったから。


 救い主であるユリアが、自分たちを攻撃するはずがない。そのユリアに一歩近づいたのだ、油断してもおかしくはない。むしろ、早く一人前にしてヘレナを倒させようとしている。


 それはつまり、政治という場でのガブリエルと両親の立場が弱まっていることを意味している。


 ここで昇級試験を受けても受けなくても、アリスは絶対に中級を目標とする。


 それなら、何が何でもレオは中級にならなければならない。中級になって、アリスを守れる存在にならなければ。


「——絶対に一発合格してやる」


「おお、気合十分だね!」


 アダンは目を丸くして、レオを見つめた。何となく、アダンの中でレオは無気力な人であるイメージがあったから。


「そうと決まったら、今日からの魔術実技で対策させてもらおうよ。そしたら、ぼくとアリスも予習になるし」


「そう簡単に行くかな」


 ニヤリと笑ったパウラに、アリスとアダンは首を傾げた。


「試験内容も言ってはいけない。そういう決まりだ。対策を教えてくれって先生に言ったところで、『魔導書、読んでた方がいいわよ』で終わりだ」


「そんなぁ」


 久しぶりに、アリスとアダンの声が重なった。


「それに、職業体験がありますしね」


 そう言った皓然の瞳は、なんだか不安そうだった。



 ***



「——お兄ちゃん、ローズ、行ってらっしゃい!」


 玄関口で、アリスはレオとローズの二人を見送っていた。


 二人はこれから、中級魔術師昇級試験を受けに行く。だから、二人に気合が入るよう、アリスは玄関口まで二人についてきたのだ。


「大丈夫だから、どこまでも付いて来るなよ。ちびっ子じゃないんだから」


「応援しているだけなのに、その言い方は無いんじゃないの!?」


 レオとアリスはいつも通り。


 それに肩をすくめてから、皓然はローズに小さな包みを二つ渡した。


「お弁当です。ローズとレオの分。試験前にでも食べてください」


「ありがとう、皓然」


 お弁当を受け取ったローズに、パウラは笑顔を見せた。


「試験、大変だろうけど無理するなよ」


「分かってるってば。もう、うちのチームってみんな心配性なんだから」


 そこに、最後の心配性がやってきた。


「はい、これ!」


 そう言ってアダンが二人に渡したのは、黄緑色の石がついたペンダントだった。手作りなのか作りが荒かったが、それを見てレオとローズは目を大きく開けて喜んだ。


「エルフのお守りか! ありがとう、アダン!」


「なに、それ?」


「エルフが魔力を込めて作る石のこと。希少な金属でできていて、魔力を増幅させる効果があるんだ」


 早速ペンダントを身に付けながら教えてくれたレオは、珍しくアダンに笑顔を見せた。


「大事にするよ」


「ぼくの魔力が練り込んであるからね! 効果は保障するよ!」


「お前の弓の腕前と魔術を疑ったことは、一度だってないよ」


「ありがとう、アダン。これで百人力だわ!」


 そう言って、二人は部屋を出て行った。


 アリスたちは、その間、そわそわしながら帰りを待った。特に、この前中級魔術師昇級試験を受けてきた、パウラと皓然の二人が。試験内容を知っているからこそ、心配なのだろう。


「ふ、二人とも、落ち着こう?」


 ソワソワとあちこちを行ったり来たりする先輩二人に、アリスがそう声をかけてしまうほどだった。


「そ、そうですよね……」


 皓然はそう言って微笑んだ。


「あの二人のことですから、大丈夫ですよね。何を緊張していたんだか……。あ、お茶の時間ですね。ぼく、ちょっとお茶を淹れてきます」


 そう言ってキッチンへと足を運んだ皓然だったが、しばらくすると「あっつ!」とらしくない悲鳴が聞こえてきた。おまけに、カップが割れる音まで。


「——ごめん」


 頭を抱え、パウラは苦笑いを浮かべた。


「今日のボクらは、いないものとして扱ってくれ」


 二人の緊張は、レオとローズが中級魔術師の階級章を付けて帰ってくるまで続いた。

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