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110.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 レオたちは、アリスには内緒でユリア伝説について独自の調査を進め、それを報告し合っていた。結果、パウラにこの集まりのことを話すことで会議は終了したが、アリスの自覚のなさが問題視されていた。

 一方で、新たな友達、ラウラ・ヤンセンを迎え、アリスは充実な春休みを過ごしていた……。

 その日の晩。ニコはとてつもなくご機嫌だった。自分の望み通りに事が進んで嬉しいのだろう。ジュースの入ったグラス片手に、「いやー、ありがとう!」とアリスのものと乾杯した。


「本当に助かったよ! どうもありがとう!」


「どういたしまして」


 アリスもニコに笑い返した。


「むしろ、こっちがありがとう。新しいお友達を紹介してくれて」


「ねえ、みんな。聞いた? 聞いた? この子、本当にレオの妹?」


「お前は本当にラウラの兄貴かよ」


 茶化されて面白くないレオは、ニコを軽く睨みつけた。


 その間、例のラウラは、シオンの隣でちびちびとジュースを飲んでいた。静かな人同士、あそこは平和な空間だ。


 対してこちらときたら。いつもはちゃんとしているディルと皓然までふざけだして、収拾がつかなくなってきている。


「——ねえ、聞いてた?」


「え、何が?」


 本当に話を聞いていなくて、アリスはポカンとニコを見つめた。


「だーかーら! アリスだったら、この中で付き合うなら誰にする?」


 その瞬間、アリスの脳裏に銀髪の青年の顔が思い浮かんだが、なんだか恥ずかしくて、慌ててその画像を頭の奥に封じ込めた。


「……何その質問! ニコ、酔ってるの?」


「酔ってませーん!」


「その言い方は酔ってる人の言い方でしょ……」


「そんなことはいいんだって! で、誰?」


「なんか今日、アダンみたい……。えー、ラウラ」


「ラヴ!? 茶化しちゃってー!」


「そんなことより、何でこんな話になったの?」


「誰が一番モテるのかって、競争」


 明かにテンションのおかしなニコを抑えつけ、ディルはため息をつきながら教えてくれた。


「くだらないだろ。でも、男子が集まったって、こういう話しかしないんだよ」


「へえ、以外。恋バナとかするんだ」


 アリスの勝手なイメージで、男子はそういう話をしないと思っていたから、心底驚いた。


「ディルの好きな人は?」


「あはは。お前ってば本当にいい度胸してんなぁ」


 真顔でそういうディルが怖くて、「あ、別にいいです……」と思わず断ってしまった。


 そんなこんなで楽しい夜は更けていった。


 ***


 アンサス村から帰ってきて、早二週間。春休みも終盤のある日。


 アリスは大きな花束を手に、仲間たちと一緒に八一六五室のドアを叩いた。


「——わあ! ラファお兄ちゃん、おめでとう! 今日、かっこいい!」


「ありがとう」


 アリスに褒められ、タキシード姿のラファエルは心底嬉しそうに笑った。


 今日は、ラファエルたちの卒業式だ。その式にはアリスたちは参加できたのだが、その晩に行われるプロムは招待状が送られてきた者でなければ参加はできない。


 だから、アリスたちはプロムが始まる前に、ラファエルたちに挨拶をしに来ていた。


 会場は、デビュタントを行った、あの古城。そして、このプロムも四カ国共同開催だった。


「こうして挨拶に来てくれて嬉しいよ」


「当たり前じゃん! お兄ちゃん、おめでとう!」


「それ、二回目だって。でも、ありがとう」


 アリスの頭を撫でたラファエルは、隣のローガンと牡丹に誇らしげな顔を向けた。「うちの妹は、良い子だろ?」とでも言うかのように。


「……小然。何か私に言うことない?」


「はあ。馬子にも衣裳ですね……、いってぇ!」


 ヒールで足を踏まれ、皓然はその場にしゃがみこんでしまった。今のは流石に、アリスも、パウラも、フォローは出来ない。


「皓然、姉さんたちには余計なことばっかり言うんだから……」


「いつもは女子の扱い、完璧なのにな」


 アダンとレオはひそひそと言葉を交わした。


 それを聞きとったのが、狼の耳を持つローズだった。


「あれは、皓然なりの照れ隠しよ。彼、素直じゃないのよ、きっと」


「なるほど。ローズが言うんだったら間違いないな」


「レオは丸わかりすぎるけどね」


「何が?」


「……何でもないよ」


 そこへローガンがやってきた。今日は彼もばっちりタキシードを決め込んでいて、パウラを見つけると顔を思い切りしかめた。しかし、彼女に声をかけることはしなかった。


「おい。今日で俺らは卒業だぞ」


 彼が声をかけたのは、パウラではなく、アリスだった。


「いつになったら、俺らを倒しに来るんだ?」


「それは……」


 いくらローズが入って安定感が増したとはいえ、やはり今のアリスたちでは、ローガンたちには敵わない。そのことは分かっている。


 だからアリスが黙っていると、「期限を設けましょう」とパウラが間に入ってくれた。


「私たちが卒業するまで、というのは、いかがでしょう?」


「……随分と時間があるな」


「そうでもありませんよ。あと、三年ですから。それに、そちらの方がローガン兄様も楽しめるのではありませんか? すぐに終わってしまっては、面白くないでしょう」


「——なるほど。お前にしては良いアイディアだ」


 ローガンがそう言って曲げていた腰を伸ばしたから、アリスはそっと息をついた。助け舟を出してくれたパウラには感謝だ。


「それまでに、お前らの腕がどこまで上がっているか、見物だな。まずは、レオとローズの昇級審査ってところか?」


「ご心配なく。その時には全員が中級魔術師に上がっていますよ。もしかしたら、見習いもいるかもしれませんしね」


 パウラはちらりと、自分の後ろに控える同級生たちを見た。


「何せ、うちには上級家系の出身が多くいますから」


 ——それに、規格外の魔力を持つアリスと、エルフのアダンも。


 パウラは、心の中でそう付け足していた。ポイントの問題でアリスとアダンはまだ上級見習いになれないだろうが、その実力は折り紙付きだから。


 そのことを分かっているのか、ローガンはこれ以上は何も言わず、フンと鼻を鳴らしただけだった。


「牡丹、ラファエル。そろそろ行くぞ」


「はいはい。じゃあな、お前ら。良い子で留守番してるんだぞ」


「小さい子じゃないんだから」


 ラファエルはアリスの頭にポンと大きな手を乗せ、その様子を見て牡丹は大げさに肩をすくめた。


 出かけて行ったラファエルたちの後ろ姿を見つめながら、アリスは「いいなぁ」とポツリとこぼした。


「私も、プロムに行きたかったなぁ」


「招待状をもらっていない以上、ボクらには参加する資格がないからねぇ」


 パーティーの何が楽しいのか分からないが、パウラはアリスに答えてやった。


「大丈夫。ボクらのプロムにはちゃんと招待するからさ」


「本当!? 約束だよ?」


「もちろん。ボクがアリスに招待状を出してあげる」


「じゃあ、私のプロムの時は、私がパウラに招待状を出すね」


「そこは、君の大事な相手にしときな」


「パウラも大事な人だよ?」


「ありがとう。でも、ボクが言っているのはそうじゃなくて、恋人に送りなってこと。プロムで一緒に踊ったパートナーとは、一生結ばれる。——なんて、そんな噂があるんだよ」


「ま、どこにでも転がっている噂話だよ」


 レオはそう言って肩をすくめたが、アリスは「絶対、ローズと踊りたいくせに」と思っていた。口にしたら怒られるから、言わないけれど。


 それに、レオのことだから半分は本気にしているはずだ。


「またまたぁ。私に恋人なんてできるわけないじゃん」


「そんなこと言っている人に限って、早く出来たりするんだよ」


「うーん……。でも、当面の間、恋愛ごとはいいかな」


 アリスは天井のフレスコ画を見つめた。


 何より優先すべきは、アリスがユリアの器にならないこと。そして、ヘレナを黒魔術から解放することだ。


「まあ、恋愛がしたくなったら、その時の私がどうにかするでしょ」


 別に、フェリクスのことをどうこう思っている、……のではなくて。


 ただ、未来の自分がその時の最適解を見つけ出すだろうと。何となくそう思えただけだった。


 ……確かに、よくフェリクスのことを考えているけれど。けれど、恋をしているのか、と問われれば、よくわからない。


「今の私は、魔術師をしているのが楽しいから」


 そう言って、アリスは仲間たちに笑って見せた。

お読みいただきありがとうございました!

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