108.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
キツネザルのフィンレーと使い魔の契約を、無意識のうちに結んでしまったアリス。アンは、とにかくそれに不安を抱いているらしかった。
そして、数日が過ぎ。アリスたちは期末テストを受けることになり……。
アンと仲直りできないまま、数日が経った。
牡丹と白夜の力でアリスたちはすっかり回復し、みんなと一緒に期末テストを受けることができた。
とはいえ、ほとんど入院で勉強ができていなかったアリスたちなので、結果は散々だった。ただ、ヘレナと出会う前に教えてもらっていた範囲が多く出題されていたので、アリスもアダンも、何とかポイント没収を免れた。
それでも、赤点を取ってしまった人はいて、その人たちは涙にくれながら「クビになりませんように」と息を吸うように願っていた。諦めた人からは、「お世話になりました」なんて縁起でもない挨拶とお菓子をもらった。
「さて。一年間お疲れ様」
学期最終日。
アドワはいつもの調子で教壇に立ち、子どもたちの顔を一人ずつ見つめた。
「誰一人死ぬことなく、この日を迎えられて嬉しく思う。去年の一年生は、二人。依頼で亡くなったからね。いいか、進級できる者は、これからも死なないように、魔術師として国のために働きなさい」
これまた縁起でもない挨拶をもらって、アリスたちの一年生としての生活は終わった。これで明日からは春休みだ。
春休みに入ってすぐ、ルイスから「イリスは確かにヘレナとカイルの子供だった」との連絡があった。ヘレナとカイルが国に提出していた魔力と、血に含まれていたDNA型が綺麗に合わさったのだという。
これで、イリスがアリスたちの血のつながった妹だということが、証明されてしまった。
パウラはそれを受けて、「恐らく、ヘレナ先生は妊娠しているのに気づかないで、依頼に行ってしまったんじゃないかな」と仮説を立てていた。
「そうじゃなきゃ、君らに妹がいる理由が説明できない。あの時、カイル先生たちが近くにいるとは思えなかった。あんなに家族に執着していたんだ、ヘレナ先生がカイル先生を殺すわけがない。いたなら、きっと近くに置いていたはずだ」
その言葉に、アリスたちは頷くことしかできなかった。
そんな重い空気を切り替えるためか、「さて」とパウラは笑顔で手を叩いた。
「アリス、アダン。君らは見事、一年間魔術師として活動することができた。そろそろ、そのスタンダード制服だと動きにくくなって来たんじゃないかな?」
その言葉に、名指しされた二人は顔を見合わせた。それから、キラキラ輝く顔をパウラに向けた。
「うん!」
「よし! それじゃあ、今日はこれから仕立て屋に行くことにしよう。君たちの戦闘スタイルに合った制服じゃないと、動きにくいもんな」
「やったー! あのね、私、今度は膝丈のスカートにしたいんだけど!」
「いいねぇ。仕立て屋に着いたら、そう言った要望を全部言うと良いよ。絵に描いて行ってもいいかもね」
「それいいね!」
パウラに笑顔を見せたアダンの隣で、アリスはローズの手を取った。
「ねえ、ローズも一緒に私の制服考えようよ!」
「ええ、いいの?」
「いいの、いいの!」
パウラと一年生二人、それから巻き込まれたローズの四人を見つめながら、皓然はあることを思いだしていた。
朦朧とする意識の中、皓然が見たアリスの瞳の色は、確かに青だった。
隣で楽しそうにアリスたちを見つめる、友人と同じ青。
「皓然、どうかした?」
声をかけて来たレオに「いえ、なんでも」と皓然は笑って見せた。
アリスの瞳については、自分で独自に調査を進めよう、と。
***
「——アリス。お前、暇?」
そんなこんなで、春休み中盤。
レオの言葉に、アリスは迷うことなくうなずいた。最初はみんなと遊んでいたが、この時期にもなれば、遊ぶ機会もぐっと減る。本当は二年生に向けて行動を始めなければならないのだろうが、その気にもなれない。だから、アリスは暇だった。
妹の返事を受け、レオはスマホに向かって「暇だって」と話した。
「——うん、うん、了解。じゃあ、またあとで詳細送って」
電話を終えると、レオは「手伝ってくんね?」とアリスの顔を覗き込んだ。
「手伝う?」
「そう。ちょっと、ニコからお前を連れてきて欲しいってお願いされててさ。アイツの妹に会ってみて欲しいんだって。二、三日泊りがけで。その分の宿代と食費とかは出すってさ」
「それくらいなら、別にいいけど」
「オーケー。じゃあ、ニコに言っとく。あ、俺らも行くから。明日からだから、準備しとけよ」
「また急な……。暇してたから良いんだけどさ……」
確かに暇だが、後出しの情報が多すぎる。
アリスは肩に乗るフィンレーに「ねえ?」と同意を求めた。
次の日。
アリスは小さなトランクケース片手に、共有管理地のアンサス村にやってきた。
共有管理地とは、人間の四カ国で共有している土地のこと。四つの国、どこかの国民であれば、自由に出入りできるのだという。
そんな土地にレオと、なぜか皓然も一緒に。聞けば、レオが言っていた「俺ら」というのは、レオの仲良し男子五人組のことを言っていたらしい。
レオに「そういうことは、ちゃんと言ってよね!」と釘を刺し、一行はニコから送られてきた地図を元に、三日間お世話になる宿へと向かった。
宿では三部屋が取られていて、「女子部屋一部屋に、男子部屋二部屋ってことかな」と、アリスは内心思った。
宿には、既にほかの面々は揃っていた。
「いやあ、助かったよ! 本当にありがとう!」
ニコはやってきた三人、特にアリスに笑顔でそう言うと、アリスの手を固く握ってブンブンと振った。
「早速、うちのラヴに会ってみて欲しいんだ!」
「ラヴ?」
「あ、ラウラね。俺の妹、ラウラ・ヤンセン。一応、画家としては優秀で、来年度から魔術師になる予定なんだけど……。結構、シャイ? というか、なんと言うか……。だから、今の内から人に慣れさせておきたくってさ。でも、しょっぱなリエだと難易度高めだろ?」
アリスの脳裏に、パウラを捕まえて高笑いするツェツィーリエの顔が浮かんだ。
「——うん。レベル一でボス戦に行くようなもんだね」
「だろ? だから、アリスにはぜひ、ラヴとお友達になって欲しいわけ!」
なるほど、話は分かった。
「でも、何で私?」
「だって、ガイアのオリヴィア姫と仲良しなんだろ? アリスは魔術師キラーだって、皓然も言ってたよ」
「……なるほど?」
アリスはこのことも話してくれなかった兄と、余計なことを言った皓然を一睨みしてから、荷物を置くと早速ラウラに会いに行ってみた。なぜか、男子たちが後ろにコソコソと続く。
「ラヴ、入るよ」
三つとっていたうちの一部屋をニコがノックし、ドアをそっと開けた。
部屋の中からは油絵具の匂いがプンと漂ってきた。それに、宿だというのに壁や床は絵具だらけ。弁償代だけでもかなりの額になりそうだ。
電気もついていない部屋の真ん中で、小さな女の子が大きなイーゼルの前に座っていた。細い手は、キャンバスの中で優しく微笑む美しい女性を描き続けている。
「ラヴ……」
「違う!」
ニコが再び声をかけたところで、ラウラは急に立ち上がり、キャンバスに向かってバケツの水を勢いよくひっかけた。さらに、キャンバスに直に黒い絵の具を絞り出して、筆ではなく手でキャンバスを黒く塗りつぶし始めた。
「ママは……、ママはこんなんじゃありませんの!」
どんどんキャンバスは黒く塗りつぶされていき……。
その途中で、ニコはドアを閉めてしまった。
「——あんな感じの子なんだけど、仲良くなれそう?」
「無理って言われるの、分かってて聞いてる?」
酷いかもしれないが、アリスはハッキリと答えてやった。
「一体どういうことか、説明してくれる?」
「……そうなるよねぇ」
というわけで、気を取り直してアリスたちは荷物を置いてある部屋に戻り、テーブルを囲んだ。
「えーっと、ラヴはずっと母さんを描こうとして、もがいているんだよ」
「お母さん?」
「そう。えっと、俺らの親父は中級魔術師だったんだけど、依頼で死んじゃってさ。母さんはそのショックで首を吊ったんだけど……。ラヴは、その瞬間を見ちゃったんだ」
思いもよらなかった話に、アリスの喉はひゅっと音を鳴らした。
「ラヴはそれから、母さんの死に顔が頭から離れなくなった。それで、笑ってる顔を描こうとしているんだけど……。上手くいかないみたい。かれこれ、もう十年くらいはこんな感じ。それでレグルス先輩に相談したら、お友達を作らせてみたら? ってアドバイスをもらったんだ」
男子たちは一斉に、アリスを見つめた。
「もちろん、俺らだってラウラに会ってみたさ」
ディルは前髪をかき上げ、ため息をついた。
「でも、相手にもされなかった。『そうですの』、ただ一言だけだ。あとは同じ。キャンバスをぐちゃぐちゃに黒く塗りつぶすんだ」
「それで、魔術師キラーのアリスはどうだって話になったのだよ」
シオンはディルから話を引き継ぐと、ジッとアリスを見つめた。
「君なら、ラウラの意識を逸らせるかもしれない」
「む、無茶言わないでよ!」
思わず、アリスは勢いよく立ち上がった。
「大体、私は——」
魔術師キラーじゃない。
その言葉をかき消すように、部屋のドアが勢いよく開かれた。
ドアの向こうに立っていたのは、ラウラ。ニコと同じクセっ毛の黒髪はハーフツインにしている可愛らしい子だが、菫色の瞳は焦点がどこかあっていない。
驚いているアリスたちに向かって、ラウラはのそのそと近づいてきた。
「ラヴ?」
ニコの言葉は無視して、ラウラはむんずとアリスの腕を握った。
「へ?」
「あなたですわ!」
その時、初めてラウラと目が合った。
有無を言わせない覇気のある瞳に、アリスは動けなくなってしまった。
「ラヴが探していたのはあなたですの! モデルになってくださいまし!」
「モ、モデル……?」
「そうです! あなたのような方、はじめて見ましたの! 髪は金色で……」
そこでラウラは黙りこむと、ゆっくりと自分が掴む腕の持ち主をあちこち見回した。
「きんぱつ……」
「ラヴ。この子はアリス・ランフォード。アエラスの初級魔術師だよ」
「……」
「ど、どうも、はじめまして……」
ラウラは、感情が忙しい子らしい。
今度は発狂して、アリスに向かって深々と頭を下げたから。
「も、もも、申し訳ございません……!」
「え、何!? 何も気にしないでいいから! 頭上げて!?」
「だ、だって、だって……!」
顔をあげたラウラに、アリスは現実を突きつけられたような気がした。
「姫様……!」
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