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107.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アリスたちが受けた依頼は、ヘレナの陰謀だった。はめられてしまったアリスたちは、イリスを連れてなんとか脱出に成功したのだが……。

 王宮には、王族を守るためにいくつもの魔術がかけられている。


「瞬間移動で王宮の中に入れない」というのも、その一つ。王宮に入るには、専用の門か、衛兵たちが目を光らせている出入り口から出なければならない。


 それはもちろん、自国の魔術師だろうと適用される。


 アエラス王宮に直接移動しようとしたアリスたちは弾かれてしまい、警報の鳴る中、衛兵たちに囲まれた専用の場所に着地した。


 専用の場所というのはもちろん、王宮に侵入しようとしたならず者を退治する「専用の場所」、である。


 しかし、現れたのがアリスたちで、しかも大怪我を負っているらしかったから、衛兵たちは可哀そうなくらい動揺していた。


 これを修めたのが、保安部長のラモスだった。ラモスは的確に衛兵たちに指示を出し、怪我をしていた四人を医務室へ搬送、話しが出来そうなランフォード兄妹と、駆け付けたルイスが話をできる場所を用意した。


 そして、敵か味方か分からない少女、イリスは、尋問室に。


「——なんだって!?」


 兄妹から話を聞いたルイスは、真っ青な顔で声を荒あげた。


「なんでヘレナ……、いや、よく無事に帰ってきたというか……、っていうか、妹?」


「父さんが混乱するの、無理もないと思う」


 ローズの血で汚れたレオは、静かに言った。


「俺もまだ、混乱してる。突然ヘレナの前に放り出されたと思ったら、妹が二人新しく生まれてて、アリスには使い魔が出来てて……」


 レオとルイスの視線を受けてアリスを縮こまり、キツネザルは不思議そうに首を傾げた。


 いつの間にやら、アリスはこのキツネザル——フィンレーと、使い魔の契約を結んでいたらしいのだ。これに関しては、みんなにどう聞かれようと「よく分からない」としか答えられない。だって、本当によく分からないのだから。


 どうやら、キツネザルは使い魔にならないのが普通らしい。なぜなら、キツネザルはユリアの使い魔だから。このレムリア大陸を作ったのも、その使い魔のキツネザルだと言われているらしい。


 ちなみに、このキツネザルの名前を知っているのは、彼とテレパシーが出来るようになったからだ。それで名前を教えてもらった。


 それから、イリスのこと。


 ヘレナが妊娠していたという記録はなく、父親は不明。恐らくカイルとの子供だろうが、念のために魔力鑑定中。ついでに、黒魔術に操られていないかなどを調べている。


 これらのことに、ルイスはどう他の上級魔術師たちに言い訳しようかと、頭を悩ませていた。


 特に、アリスについて。


 そこに牡丹がやってきた。彼女は緊急搬送された仲間たちの容態を診てくれていたのだが、どうやら治療が一段落したらしい。


「全員、命に別状はありません。傷から見るに……、恐らく、大きな魔術同士のぶつかりによる爆発に巻き込まれたのではないかと」


「……イリスの証言と一致しているな」


 そう、イリスはパウラたちを攻撃したことについて否定していた。「私は逆に、エリーの魔術に攻撃したんだよ」と。ただ、防御魔術まで手が回らず、結果、パウラたちは怪我をしてしまったのだと。


 イリスは、みんなを守ろうとしていた。


 そのことに間違いはなさそうだ。


「あの子、『みんなを傷つけるのは、もうこりごり』って言ってた」


 アリスはルイスのことを見つめた。


「その言葉、信じてあげてもいいんじゃないかな」


「お前は昔から、難しいことばかり言うな」


 ため息をつき、ルイスは顔を手で覆ってしまった。


「努力する。今はまだ、諸々の検査結果が出るまで、どうしようもできない。それだけは言っておくよ」


 ルイスはそれだけ言って、牡丹とメアリーの二人と話し始めた。五人の怪我の具合、この依頼は元々どんなものだったのか、等。それから、ルイスはヘレナが出たという白い森について調査の指揮もとらなければならない。


 忙しくなりそうな今後のことを考えると、ルイスの口から再びため息が漏れ出た。


 ***


「——そりゃ、そうなるよな」


 意識を取り戻したパウラは、アリスたちから事情を聴き、そう言ってため息をついた。


 あちこち包帯だらけ、しかも点滴まで繋がれた状態のパウラは、ベッドの上で胡坐をかき、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「それ、ぜぇーーったい! ボクらは関わらせてもらえないヤツだ!」


「怒ってるの、そこ?」


 何だか呆れてしまったが、それでこそパウラだった。


「当たり前だろ! これはうちで取ってきた依頼だ! 横取りされたようなもんだよ!」


「——とは言っても、今のぼくらで全く歯が立たなかった、ってのが事実ですけどね」


 四人の中で一番軽傷の皓然は、パウラを落ち着かせるためではなく、ただ現状を分析しているだけのようだった。


「分かってるよ!」


 パウラは皓然に箱ティッシュを投げつけたが、皓然はそれを見ることもなくキャッチした。そのまま、新しく取り出した紙で流れてきた鼻血を押さえつけた。


「皓然、大丈夫?」


「らいひょーふれふ」


 鼻血を拭い、皓然はアリスたちを見つめた。


「あの攻撃に巻き込まれて、ローズとアダンは重症。まだ目も覚めていない。パウラとぼくだって、こんな状態ですし」


「今回は、どれだけ強力かつ迅速に防御魔術を展開できたか、だな。パウラと皓然でも、自分の身を守るので精一杯だったとはね」


 冷静を装うレオだったが、手が震えているので動揺を隠せていなかった。


「ローズもアダンも、魔術合戦にはまだ不慣れだから」


「それもあるけど、やっぱりあの双子の攻撃魔術は新種だな」


 皓然から投げて返されたティッシュをキャッチし損ねながら、パウラはそう結論付けた。


「おい、投げんなよ」


「それ、君が言います?」


 とりあえず、この二人がいつも通りでアリスは安心した。


「新種って?」


「魔術ってのは、日々新しいものが生み出されているんだよ。主に、フォティアでね。で、あの双子が使ってた魔術ってのは、まだ見たことがないし、威力がとんでもなかった。それで、『新種』って判断に至ったわけさ」


「攻撃魔術は、高すぎる威力のものを作るのが禁止されているんですよ。人殺しに使われちゃったら、ひとたまりもありませんから」


「なるほど……」


 どうやら、この世界では「人を魔術で殺す」というのを、本当に毛嫌いしているようだ。だからと言って、銃だの剣だので殺しても良い、というわけでもないと、アリスは思うのだ。


 魔物を倒すための武器を人に向けるアゴーナスには、一体何の意味があるのだろう。


「——こら。怪我してるんだから、無理させたらダメでしょう」


 そこにやってきたのは、アンだった。


 パーテーションの中でアリスたちが話し合っているのに気づき、注意しに来てくれたらしい。


「パウラと皓然は特に、寝てないとダメなのに」


「元気なので大丈夫ですよ」皓然はアンに笑いかけた。「ちょっと鼻血が止まらないだけで。ええ、本当に。それ以外は元気です」


「それは元気とは言わないわね。牡丹の所へ行ってきなさい」


 皓然に指示しながら、アンの視線はアリスに向けられていた。正確に言うと、アリスの肩に乗っているキツネザルに。まるで、汚物でもみるかのような冷たい視線を向けていた。


「アリスは、ちょっとこっちに来て。その子はレオに預けて」


 素直にアリスは頷き、フィンレーをレオに預けて医務室を出た。夜中だから、周りには誰もいない。


「ねえ、使い魔の契約を結んだって、一体どういうこと?」


「どうって言われても……。私もよく分からなくて。あの時はとにかく、みんなと一緒に逃げなくちゃってことばかり考えてたから……」


「それじゃあ、契約に何を出したのかもわからないって、本当なの?」


「……うん」


 それを聞いて、アンは大きなため息をついた。予想通りの答えとは言え、このままでは、ヘレナが身を投じてまでアリスを守ろうとした意味がなくなってしまう。


「キツネザルを使い魔にする意味、本当にわかっているの?」


「なんとなく」


「ちゃんと理解しなさい!」


 思わず叫んでから、アンは怒りを鎮めるために大きく息を吸った。いや、怒りではない。この感情の名前は不安と恐怖だ。


「これで、あなたはまた一歩、ユリア様に近づいたことになるの。余計に、あなたがユリア様の器になって、ヘレナを倒してくれるってみんなが思い込むわ。あなたには出来るの? 実の母親を殺すことが」


「そんなことしないもん」


「あなたがそう思っていても、周りはそれを望んでいるの。どうしてそれが分からないの?」


「分かってるってば!」


 思わずアリスも声を荒あげてしまった。興奮しているせいで、体の周りで静電気が発生している。それでも、アリスは「分かってるから」と繰り返した。


「でも、もう契約結んじゃったんだもん。使い魔の契約破棄は出来ないんでしょ? 授業で習ったよ。なら、これはもう、どうしようもないじゃん。なんでお母さんは、どうしようもないことで、ずっと怒ってるの?」


「どうしようもないこと、ですって?」


 その言葉がアンを怒らせることは分かっていた。それでも、アリスは生唾を飲み込んでから「そうだよ」と意を決して母を見上げた。


「フィンレーのことは、もうどうしようもないことだよ! だから、これからどうするべきか、考えるべきでしょ? お母さんはいつまで過去のことで怒ってるの?」


「そりゃ怒るわよ! あなたが事の重大性に気付いていないんだもの! 言っておくけど、私が怒っているのも過去のことではなくて今のことですからね!」


「過去のことじゃん!」


「いいえ、今のことです!」


「お前らやめろ!」


 母娘喧嘩を修めてくれたのは、ルイスだった。医務室の中にまで二人の怒鳴り合う声が聞こえてきたので、慌てて止めに来たのだ。


「アン、アリスだって今は疲れてるんだ。そういう話はまた折を見て……」


「何よ、あなたまで私が悪いって言うの!?」


「そうじゃない。いいか、アリスは五人を連れてここまで瞬間移動してきたんだ。疲れていないわけがないだろ。お前が不安なのも分かるから、今はとにかく落ち着け。——アリスもだ。母さんが言っていることには一理ある。今度ゆっくり話してやるから、とにかく今は落ち着くんだ。いいな? 今日はもう、寝た方がいい」


「疲れてないもん」


「いいや、疲れてる。ほら、行くぞ」


 ルイスに背を押され、アリスは医務室に戻った。


 ドアをくぐる間際、チラリと見えたアンは、今にも泣き出してしまいそうな表情をしていた。

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