106.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
——勇者ナターリアは言いました。
私の剣を、村の中心に刺しなさい。結界となってこの村を助けるでしょう。
私の鎧を売りなさい。支払われた代金で、子どもたちに温かい服と食事を。
私の髪を切りなさい。故郷の母に渡して欲しい。母はきっと喜ぶでしょう。
私の首を、刎ねなさい。もう、どうせ長くは生きられない。それなら、その薬は助かる人に使うことができるから。
そうして、勇者ナターリアは、村長に首を切られて死にました。
たくさんの人が涙を流しました。
村人たちは勇者ナターリアのために、立派なお墓を作りました。
そして、勇者ナターリアに言われた通りにしました。
剣は村を守る結界の心臓となり、村の子供たちは温かい服を着て、たくさんの食べ物を食べて、厳しい冬を乗り越えました。
ナターリアの美しい銀色の髪は、彼女の故郷に送りました。彼女の母は、娘が帰ってきて涙を流したことでしょう。
平和な時代がやってきました。
みんな、みんな、幸せに暮らしました。
今でも、その村には勇者ナターリアの剣が残っています。自分が真の勇者と言う者は、この剣を抜きに行きなさい。
この剣を引き抜くことができた者が、次の勇者となるでしょう。
「——ぼく、このお話嫌い」
膝を抱えてそう言った幼馴染を見つめ、銀髪の少女は首を傾げた。
「なんで? みんな幸せになったよ?」
「ナターリアが、幸せになってない」
幼馴染は、絵本の挿絵をそっとなでた。丁度、勇者ナターリアが村人たちにお願い事をしているシーン。
ローズの一番好きなシーンだ。
「なんで? ナターリアはお願いを叶えてもらったんだよ?」
「でも、ナターリアが幸せになれるためのお願いじゃないよ。みんな、ナターリアじゃない人が幸せになるためのお願いだよ」
幼馴染の大きな瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちた。
「これじゃあ、ナターリアが可哀そうだよ……」
ポロポロ、ポロポロ。
青い瞳から降ってきた大粒の雨で、ナターリアたちは凸凹になってしまった。
「泣かないで。レオ、泣かないで」
しゃくりあげ始めた彼の涙を拭ってやりながら、ローズは必死になって彼を慰めた。
優しい性格なのだ、彼は。
母は、そう言っていた。優しいゆえに、魔術師に向いていない性格だと、父と夜に話していた。
でも、金色の髪も、空のような青い瞳も、ユリア様と同じ。レオほど、魔術師に向いている人はいないのに。
幼心に、そう思っていた。
「レオ、泣かないで。大丈夫だよ」
「ローズも、こんな風になっちゃうの?」
久しぶりに顔をあげた彼の瞳は、随分と潤んでいた。
「女の子は、みんな魔術師になって、戦っちゃう。ローズも魔術師になったら、ナターリアみたいに死んじゃうの? 嫌だよ。そんなの、嫌だよぉ……!」
「死なないよ」
ローズは、レオのことをぎゅっと抱きしめた。
「ロジーのパパは、狼人間だもん。銀の武器で攻撃されない限り、死なないよ」
「——じゃあ、銀の武器はぼくがやっつける」
まだ涙をたくさん溜めているくせに、レオは真っ直ぐにローズの瞳を見つめた。強い光の灯った目は、ローズの瞳を捕まえて離さなかった。
「ママが言ってたよ。魔術師は、みんなで助け合ってるんだって。だから、ぼくたちも助け合えば、きっとローズも死なないよ」
「レオも魔術師になるの?」
「うん。ローズを守るために、魔術師になる」
「約束だよ?」
「うん、約束」
——バカなレオ。
それじゃあ、ナターリアと同じでしょ。私を守ることしか考えていなくて、自分が守ってもらうことを一切考えてない。私よりずっと弱点が多くて、生命力も弱いのに。
私のことなんて、心配する必要なんてないの。人間と狼人間のハーフなんて、弱点はあるようでないのだから。銀製品だって、致命傷にはならない。アレルギーにはなったけれど。
ねえ、別世界だと男の人が勇者なんでしょ? たまには、カッコいい所見せてよ。レオは泣き虫だから、昔から泣き顔ばかり見ているわ。見慣れちゃうくらい。
……一度でいい。私はお姫様じゃないけれど、助けに来てよ。
ねえ、お願い。
それとも、本物のお姫様を助けに行くの?
お願い。一度だけでいいから。
ああ、私はナターリアにはなれないわね。
だって、自分が幸せになるお願い事ばかりだもの。
お読みいただきありがとうございました!




