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105.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 学期末テストを控えたアリスたち。アリスとアダンがテスト勉強から逃れるために、メアリーが持ってきた依頼を受けることにしたのだが……。

「相変わらず、可愛いのね」


 冷たい手に頬を撫でられ、アリスの背筋はゾクッとした。


 隣ではレオも動けなくなってしまっているようだ。


 パウラたちは、どうなっているのだろう。恐らく、生きている。いや、きっと生きているはずだ。


 どうしてこうなったのか。それは、数時間前にさかのぼる。


***


 テスト直前にメアリーが持ってきた依頼。それによると、「フレース領にある森から、時折魔物の声が聞こえてくる。恐ろしいので退治して欲しい」というものだった。


 噂の森の前に到着したアリスたちは、なんだか気味の悪い霧に身震いした。


「このあたりに霧が発生するなんて、珍しいな」


 パウラは眉をひそめた。


「何か変だ。これが、噂の魔物のせいだと願いたいね」


「そうだとしたら、かなり手こずりそうですけどね」


 刀を腰に吊るしながら、皓然も周りを見回した。だが、今の所は何の生き物の気配を感じない。


 不安に思いながらも、アリスたちはゆっくりと森の中に入って行った。


 森の奥へ行くにつれ、霧はどんどん濃くなっていく。入って十分ほど歩いただけで、隣にいる仲間の顔も見れないほどになっていた。


「流石にこれは……。いったん、外に出ようか」


 パウラの判断には賛成だった。中に入れば入るほど、気味が悪くなって仕方がなかったから。


 それで振り向いたアリスだったのだが、顔面に何かが張り付いてきて、思わず悲鳴を上げて尻もちをついた。


 皓然にとってもらったそれは、小さなキツネザルだった。霧のせいでよく見えないが、手のひらに収まるほどのサイズで、特徴的なしっぽの縞模様がやっと出てきたくらいの子ザルらしかった。


「なんでこんな所に……」


 首をかしげる皓然の腕の中で子ザルは大暴れ。最終的に自力で彼の手から逃れた子ザルは、自らアリスの胸に飛び込んだ。


「——懐かれちゃった」


「なんか嫌な予感がするけど、とりあえず、その子を連れて出るか……」


 パウラにジッと見つめられ、子ザルは小さく身を縮めた。


 狼に変身したローズに帰り道を探してもらい、再び歩き出したが、悪い予感が的中してしまった。


 ローズは、真っ直ぐに帰り道を案内したはずだ。他でもない、自分たちの匂いを辿ったのだから。それなのに、目の前にあるのは見上げるほど大きな城だったのだ。


「……嘘だろ?」


 しかも、レオが声を震わせるくらいには、とんでもない城だった。


「これ、フォティア旧王宮だ……」


「何でフォティアの王宮?」


 アリスは首をかしげたが、他のメンバーにまでレオの緊張が移ったらしかった。


「フォティア旧王宮は……、ヘレナ先生が乗っ取ってしまった王宮です」


 皓然の呆気にとられた声に、アリスもやっと事の重要性が分かった。


 この、目の前にある王宮に、ヘレナが……、実の母が、いる。


「に、逃げるよね……?」


 アリスのその問いに応えるように、王宮の扉が開いた。まるで「早く入っておいで」とでも言うように。


 それを見て、使い魔を外に出していた三人はそれぞれ、使い魔の姿を消した。使い魔たちを守るためだ。


「に、逃げるに決まってるだろ」パウラは後退った。「ボクらの手に負えるもんじゃない。上級の先生たちを呼んでこなくっちゃ……」


 その瞬間、開いた扉から無数の黒い手が飛び出してきた。黒い手たちは防御魔術をすり抜けて、アリスたちの体をがんじがらめに縛り付けた。


 抵抗する暇もない。


 アリスたちはそのまま、王宮の中に引きずり込まれてしまった。


 猛スピードで手たちが動くから、なんだかジェットコースターにでも乗っているかのようだった。曲がれば容赦なく圧力がかかったし、荒い運転で酔ってさえ来た。


 それでも、とにかく情報を集めようと周りの景色に意識を持って行ってみると、壁と天井はプラネタリウムになっていることが分かった。


 夢でヘレナの手から逃れた時と、同じ建物だ。


「——あっ!」


 あまりの猛スピードだから、あの子ザルが吹き飛ばされてしまった。


 迎えに行きたいところだが、アリスたちも自由が利かない身。アリスは涙ながらに子ザルに「早く逃げて!」と叫んだ。


 終着点につくと、アリスたちは床に無造作に降ろされた。


「みんな、大丈夫か……」


「あら、おまけが付いて来ちゃった」


 パウラの言葉に声を重ねたのは、他でもない。


 血だらけのアエラス王国魔術師の制服に身を包んだ、金髪碧眼を持つ美しい女性。


 写真で見るより、ずっと美しいその人の名は、ヘレナ・ランフォード。


 そのヘレナの前に、瓜二つの顔を持つ少女が二人。そのうちの一人が、夏休みに遺跡で出会った謎の少女、イリスだった。もう一人は、波打つ黒髪にグレーの瞳を持っていて、何だか不機嫌そうにヘレナの膝に顔をうずめていた。


「ほら、エリス、イリス。あなたたちのお兄ちゃんとお姉ちゃんよ」


「えっ!?」


 驚いてアリスはレオの顔を見つめたが、レオも青い顔で首を横に振った。レオも知らない妹たちがいただなんて、誰が予想していただろう。


「エリー、お兄ちゃんとお姉ちゃん、いらない」


 黒髪にグレーの瞳を持つエリスは、母親にそう訴えた。


「そしたら、ママを四人で分けっこしなきゃ。そんなの嫌だわ」


「エリスったら、甘えん坊さんね」


 ヘレナはそっとエリスの頬を撫で、再びアリスたちを見つめた。


「でもね、お兄ちゃんとお姉ちゃんも、ママの大事な子供たちなの。ママは家族みんなで、一緒に暮らしたいわ。ママのお願い、聞いてくれるでしょう?」


「……うん」


「いい子ね。——それじゃあ、手始めに。あのおまけの子たちはいらないわ。捨ててきてくれる?」


「はい、ママ」


 双子の姉妹はアリスたちの前にくると、急に瞳から光を消した。揃って挙げられた手には、赤黒い光を放つ魔法陣が浮かんでいる。


 あれを食らったら、ただでは済まない。そのことは、すぐにわかった。


「ダメ!」


 思わずアリスがみんなの前に立ちふさがったが、次の瞬間にはヘレナが目の前にいた。


 驚いているうち、背後から爆発音が轟いてきた。そっと後ろを振り向いてみると、黒く焦げた壁と、イリスの姿が見えた。


 いつの間にか、ヘレナの前に移動していた。


「——相変わらず、可愛いのね」


 そして、ヘレナは冷たく笑ったのだった。


「……あら?」


 アリスの頬を撫でていたヘレナの手がピタリと止まり、アリスの右目をジッと見つめた。


「これは……、ルイスじゃない。もしかして、ラファエルの魔力? なるほど、そうよね。だって、右目は私が食べちゃったものね」


 アリスはヘレナの手を払って、真っ青な顔で数歩後ずさった。


 アリスの右目は、義眼だ。


 幼い頃の事故で、右目を無くしたのだと言われていた。しかし、本当は……。どうしても、受け入れがたい事実だ。


「み、みんな、早く逃げよ……!」


 だが、返事はない。


 それで振り向いてみて、アリスはその場に座りこんでしまった。


 えぐれた床の残骸に、四人の仲間たちが引っかかっていたのだ。レオもこの現状を見て、動けなくなってしまっている。


 まさか、死んで……?


 そんなまさか!


 心の中がざわつく。


「レオ、アリス。こっちへおいで」


「い、嫌だ……」


 レオはヘレナに首を振って答え、フラフラと仲間たちの方へ走って行った。


「レオ! こっちに戻りなさい!」


「ロジー? パウラ、皓然、なあ! アダン!」


 アリスもフラフラしながらみんなの方へ向かった。一番近くにいたパウラの顔を覗き込んでみると、眼鏡が割れてしまっていて、レンズが彼女の顔に突き刺さっている。


 さらにその近くに倒れていたローズの腹には、瓦礫(がれき)が突き刺さっていた。レオが何とか止血しようとしているらしいが、血が留まることはない。


 そう、みんな生死の境をさまよっていた。


「なんで、こんなことしたの……?」


「だって、邪魔でしょ? 家族じゃないんだから」


 アリスの問いに、ヘレナはさも当然のように答えた。


 そう言えば、アゴーナスのエキシビションでルイーズが呼びだしたヘレナの幻影も、同じようなことを言っていた。「ただ、家族と一緒にいたいだけなのに」と。


 きっと、それがヘレナの本当の願い。それは間違いないのだろう。


 アリスが黙っていると、目の前の瓦礫の隙間から、あのキツネザルが顔を出した。


 アリスのグレーの瞳と、キツネザルの水晶のような透き通った瞳が合った。


「ほら、そこをどいて。お掃除しなくっちゃ……」


 ヘレナから放たれた小さな黒い手たちだったが、アリスが作り出した防御魔術によって弾かれてしまった。


 さっきは、通り抜けることができたのに。


 ヘレナはそれを見て表情を変え、エリスは驚き、イリスはジッとアリスを見つめた。


「まさか、その聖獣と契約を?」


 キツネザルを肩に乗せたアリスはゆっくりと立ち上がり、ヘレナを真正面から睨みつけた。


 キツネザルの瞳は、アリスと同じグレーに変わっていた。


「絶対に、許さないから!」


 アリスは魔法陣を浮かび上がらせると、容赦なくヘレナに向かって光線を浴びせた。


 やはり攻撃は防御魔術に防がれてしまったが、ヘレナの表情に驚きが加わったのを見逃さなかった。


「みんなは、私にとって家族なのに! アンタなんて、ママじゃない!」


「なっ!」


「お姉ちゃん!」


 イリスはアリスの傍らに立ち、ヘレナとエリスを睨みつけた。


「ここから逃げよう! 早く手当しないと、この人たちが死んじゃう!」


「イリス! 戻って来なさい!」


「嫌だ! もう、人を傷つけるのはこりごり! お姉ちゃん、早く!」


 まだ、ヘレナには敵わない。


 そのことは分かっているから、アリスは素直にイリスの言う通りにした。


「“アリス・ランフォードが命じる! 私たちをアエラス王宮へ!”」


 その瞬間、ヘレナとエリスの目の前からアリスたちの姿が消えた。


 二人が最後に見た時、アリスの左目は青く輝いていた。

お読みいただきありがとうございました!

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