104.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
六人になって初めての依頼。「謎の巨大生物」の正体はクラーケンだった。パウラによって駆除されたクラーケンに同情するアリスに、皓然が寄り添ってくれた。それからのアリスたちは……。
パウラが退院してから、アリスたちは六人チームで依頼を次々と解決していった。
家畜を襲う魔物退治。
結婚式に必要なお香の調達。
先輩チームの補助。
民家を乗っ取ってしまった妖精の保護。
その他もろもろ……。
六人になって一人一人の負担は減ったが、従事できる依頼数が増えたから、疲労度はこれまでとあまり変わらなかった。ポイントはそれなりに手に入ったけれど。
気が付けば、アリスは一六一〇ポイントも所持していた。
「一年でこれだけポイントがあれば、進級は固いだろ」
アリスの身分証を返しながら、パウラは微笑んだ。
「アゴーナスも依頼も、頑張ってたもんな。偉い、偉い」
「うん!」
「じゃ、その調子でテスト勉強しようか」
「……はい」
二学期制の魔術師養成課程。その後期期末テストが、すぐそこまで迫っていた。
ついこの間夏が開けたばかりだと思っていたのに、いつの間にやら年度末。
アエラスは雪が多く、その雪かきも依頼としてよく舞い込んでくることを知った。道理で、魔術師の先輩たちは体力お化けなわけだ。
「アリスは理数系科目の点数がいいな」
「ラファお兄ちゃんに仕込まれたからね! 物理とか電気とか得意だよ!」
「さすがだな。逆に、文系科目……、特に歴史は壊滅的だな」
「さすがに歴史はきついって……」
言い訳してみたはいいが、別世界でもアリスは文系科目が苦手だった。
「で、アダンは……。授業、ちゃんと出てるか?」
「出てるよ!」
前期の成績表を見て、パウラは思い切り顔をしかめている。
対してアダンときたら、キラキラと屈託のない笑顔を浮かべていた。
「でも、大丈夫! ぼくだって、一六五〇ポイントも持ってるんだもん! 問題なく進級できるでしょ?」
「え?」アリスは首を傾げた。「ポイントが足りてても、テストの点数が低かったら、その分のポイントが引かれるんじゃなかったっけ……」
「アリスの言う通り」
レオは大きくうなずく。
「しかも、引かれるポイントは赤点一つにつき十パーセントって決まってる。前期の分で計算するけど、結構引かれるなぁ。えーっと、前期だと赤点が六科目だから六十パーセント引かれて……」
「九九〇ポイント引かれるから、残るのは……、え、六六〇ポイント……?」
「さすが、アリス。つまり、アダンは今、クビになる瀬戸際にいるってわけだ。進学には千ポイント必要なんだから」
「うそん」
さっきまでの勢いはどこへやら。
アダンは一瞬で顔を真っ青にすると、皓然に「クビになりたくないよぉ!」と泣きついた。
「なら、勉強しますよ。ローズは、大丈夫ですか? ぼくらとテストを受けるの、初めてですよね?」
「私は大丈夫。六年生までの授業をもう受けているから」
「そ、そうですか……」
——アダンはダリアのブートキャンプにでも入れた方がいいのかもしれない。
皓然はその言葉を、どうにかして飲み込んだ。
とはいえ、勉強のこともチームで何とかするのが、この王宮の習わし。先輩たちは、つきっきりでアリスたちの勉強を見ることになった。
「——パウラたちは、勉強しなくてもいいの?」
早くも休憩を取りたいアリスがそう尋ねると、パウラは冷たい笑みを浮かべた。
「君は運がいいよ、アリス。去年、ボクは総合順位が一位。皓然は四位、レオは二位だ。これがどういうことか、分かるかい?」
「め、めちゃくちゃ頭がいい……?」
「そういうこと。君らに勉強を教えたからって、成績を落とさない自信があるから、こうして講師役を買って出てるわけ。……簡単に逃げ出せると思うなよ」
「お兄ちゃぁん……」
レオに助けを求めるまなざしを向けるが、レオはそれに気づいていないフリをして、ふい、とアリスに顔を背けてしまった。
「勉強した方がいいのは、事実だろ」
「で、でも……!」
「『でも』じゃないよ」パウラは教科書を叩いて笑顔を見せた。「ボクと一緒に、お勉強。頑張ろうなぁ、アリス?」
普段温厚な人ほど、少しの厳しさがとんでもない厳しさに感じる。
こんなに怖いパウラは初めてだ。
「今年の一年は二十七人。ってことは、大体二十位以内に入らないとポイント没収だな。アリスの前期の成績だと、あと四五〇点は欲しい所だ」
「よ、四五〇点……?」
「単純計算で、五科目九十点以上でクリアだな」
「分かってるし、そんなの無理だよぉ!」
「だから、無理じゃないように勉強するんだよ。ほら、解けたのか?」
「あうぅ……」
再びペンを握り直したアリスに、パウラは久しぶりに優しい微笑みを見せた。
「まあ、なんだかんだ言ったけど。十一科目のうち七科目は理数系だ。アリスのことだから、大丈夫だと思うよ」
「パウラ……」
「だから、文系科目で足を引っ張らないように頑張ろうな」
「あ、はい」
パウラの露骨な飴と鞭にやられっぱなしの、アリスの隣。
皓然に付きっきりで勉強を見てもらっているアダンは、もう不貞腐れていた。テーブルに突っ伏し「ねえ、疲れたー」と皓然に訴えている。
「まだ三問しか解いてないでしょう」
「だって、ぼく勉強嫌いなんだもん」
「ぼくだって、好きじゃないですよ」
「え!? じゃあ、どうして勉強ばっかりしてるのさ!」
「簡単です。補講を受けたくないから。ゲームする時間が減っちゃうじゃないですか」
実に子供っぽい理由だが、それだけで学年四位なのだから、アダンにとっては意味の分からないことで間違いなかった。それが理由なら、最低限の点数さえ取っておけば良いではないか。
「頭の良い人が考えてることって、イマイチよく分からないや」
「ありがとうございます」
やはり、アリスにはよくわからない。テスト何て、近くなってから詰め込めばよいのに。
「——あら、お勉強中」
そこにやってきたのが、メアリーだった。依頼書を持っている。
「丁度良さそうな依頼があったんだけど、断った方がいいかしら」
「ううん、やろうよ!」アダンが勢いよく立ち上がった。「やっぱり、ぼくらは現場で体を動かしている方が性に合っているんだよ! 絶対にそう!」
「絶対かどうかは別として……。テスト前だぞ?」
呆れ気味に言うパウラだったが、しっかりとメアリーから依頼書を受け取っていた。
「——魔物退治ですね、分かりました。……アダン。その代わり、詰め込み勉強だからな」
「はーい!」
アダンは嬉しそうに手をあげて、笑顔を見せた。
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