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103.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 狼人間のローズを迎え、アリスたちは六人チームになった。さらに、アリスの家系特性「自己成就」も解禁、練習が始まった。そんな中、アリスたちに届いたのは……。

 それから何回か訓練を重ね、六人チームになってから初めての依頼を受けた。


 今回の依頼は、「湖に現れた巨大生物を倒して欲しい」というものだった。


「——なんだろうね、巨大生物って」


 依頼にあった湖へ向かう馬車の中で、アリスは隣のアダンにそう問いかけた。


「考えられる線だと……、幽霊船とかぁ?」


 脅かそうとしたらしいアダンだったが、アリスに「そんなわけなじゃん」と一蹴されてしまった。


「そもそも、幽霊船は生き物じゃないでしょ。それに、幽霊船が出てくるとしたら海。今から行くのは湖だよ」


 すると、それまで話を聞いていたパウラがニヤリと笑った。


「それはどうかな」


「え?」


「今から行くのは、三日月湖。この国で一番大きな湖だ。内陸国のアエラスだけど、昔から三日月湖は水路として使われてきた。もちろん、魚はいるし、魔法生物、最近は魔物だっている。そりゃ、難破船も出てくるよね。で、アリスはちゃんと依頼書読んでないだろ」


「そ、そんなこと……」


 ある、のだが、アリスはそっと視線をそらしておいた。


 その様子を見てため息をついた皓然は、アリスに依頼書を見せてくれた。


「——漁業組合?」


「そう。この依頼は、その三日月湖で漁をしている漁業組合からの依頼だ。ほら、ここ。『謎の巨大生物によって、いくつもの船が破壊されてしまいました。幸い、今の所被害者は出ておりませんが、早めの対応をお願いいたします』。やっぱり、幽霊船はあり得なさそうだけれどね」


「ざーんねん」


 アダンはつまらなさそうに、窓の外を眺め始めた。


 三日月湖。由来は、湖の形が三日月形であること。ただそれだけだ。


 ただ、水深がとても深い。一番深くて、千三百キロメートルもあるそうだ。


 漁業組合の会長に説明してもらいながら、アリスはあちこちを見回していた。


 馬車が付いたのは漁業組合の本部である、魚市場。その建物にも、大きな損傷がいくつも見受けられた。土木系魔法使いたちが、せっせと修復工事を個なっているが、いつ倒れてもおかしくなさそうだ。その理由で、この建物は今、使用禁止にしているのだという。


「巨大生物は、大きな吸盤を持っておるのです。まるで、ダイオウイカのような。しかし、ここは水深が深いとはいえ、湖でしょう? どこからダイオウイカがやってくるのかと、みな頭を抱えているのですよ」


「ええ、まず……。ダイオウイカは無いでしょうね。ただの生物で、空を飛ぶこともできませんから」


 さっきから的外れな回答ばかり聞きすぎて、パウラはため息をつきたくなるのを必死に我慢した。


「それ以外に、何か見えたものや、分かっていることなどはありますか?」


「そう言えば、ソイツが出てくる間だけ、ボロボロの幽霊船が見える、なんて聞いたことがありますね」


「それは……」


「まじ!? ねえ、それどんなの!?」


「アダン! ——失礼いたしました。どういった幽霊船でしょう」


 アダンを思い切り睨みつけたパウラに、会長は「そりゃあ、幽霊船は幽霊船ですよ!」とため息をついて見せた。


「藻だらけの、腐った木でできた幽霊船です。ただ、人によっては街が見えただとか、島が見えただとか、証言はまちまちでして。なので、最初にお話ししなかったのです」


「いえ、貴重なお話、ありがとうございます」


 そう言ったパウラは、薄く笑っていた。巨大生物の正体がわかったからだ。


「ところで、巨大生物は何時ごろに動きを活発化させるのでしょう」


「夜から朝方にかけてですので、今はもう住処にでも……」


 その瞬間、みんなの頭上で窓ガラスが割れる音が響き渡った。


 いち早く反応した皓然の防御魔術の向こう側で、巨大なタコのような足が、市場の中をかき回しているのが見えた。


「真昼間だってのに! こりゃ、予想外だな」


 会長を避難させながら、パウラは舌打ちを漏らした。


「会長! このまま避難していてください! いいですか、とにかく遠くへ! 早く!」


 会長と、修理作業に当たっていた魔法使いたちを乗せた馬車が去っていく音を聞きながら、アリスはあんぐりと巨大生物を見上げていた。


 大きな頭に、八本以上は絶対にある太くて吸盤のついた足。こちらを見おろしているのは、ぎょろりとした真っ赤な瞳。


 頭の上には、街も、腐った木造船も、島も、くっついていた。


「気を付けろ、クラーケンだ!」


 戻ってきたパウラはそう叫ぶと、眼鏡をはずしてクラーケンを睨みつけた。


「皓然、ローズ! とにかく足を落とせ! レオとアダンも足を狙え !援護はボクとアリスでする!」


「了解!」


 それぞれパウラに返事をすると、指示通りに動き出した。


 だが、皓然が足を一本切り落とすと、そこから二本の新しい足が生えてきた。それに、切り落とされた方の足も元気に動き回り、アリスに襲い掛かろうとした。それは、狼姿のローズが足を捕まえて放り投げてくれたから助かった。


「アリス、攻撃魔法で切り落とされた先を焼くんだ! レオとアダンの分はいいから、皓然とローズが落とした分は焼け!」


「は、はい!」


 返事をしたはいいが、アリスにはまだそんな一部分を狙って魔術をかけるなど無理だ。だから、パウラが焼いたものとは違い、アリスが焼いた分は全体がこんがりと焼けてしまった。


 それでも、足を切っては焼く、切っては焼くをアリスたちは何度も繰り返し、レオが放った銃弾が、やっと最後の足を撃ち落とした。


 気が付けば、攻撃のたびに響き渡るクラーケンの悲鳴にも慣れてしまっていた。


「アリス」


 パウラは、クラーケンを見つめたまま、静かに言った。


「惨いのは苦手だろ。眼をつむっておくんだよ」


 その言葉を最後に、パウラの声は美しい旋律を奏で始めた。だが、悲しい曲。歌詞だって、永遠の安息だとか、光が魂を照らしますように、だとか、そんなものばかり。


 それで、アリスはハッとした。これは、夏休み中にひと悶着あったレクイエムなのだと。


 パウラは今、文字通りクラーケンを駆除しているのだ。


 しばらくして、低い地響きが鳴り響いた。


 アリスの心臓はドキドキしていた。まさか、こんなに身近で、慕っている人が、こんな酷いことをするとは思っていなかったから。仕事だということは分かっていても、クラーケンが可哀相で、自分たちが悪いことをしたのだという罪悪感が消えない。


 隣でパウラが倒れそうになっているのを感じ、彼女に肩を貸しながらアリスはそんなことを考えていた。


 パウラはアリスにお礼をしてから、真っ青な顔で飴を口に放り込んだ。


「——これが一番、クラーケンを苦しませない方法だった」


「そっか」


「魔術師なんて、汚れ仕事とサンドバックになっているのが仕事のほとんどだよ」


 ある程度魔力を回復したパウラは、みんなにも飴を配り、会長に連絡して戻って来てもらった。


 会長が戻ってきたのは、皓然がクラーケンの死体を科捜研に送った直後だった。


「——なんと、クラーケンが!」


 会長はやはり、巨大生物の正体に驚いている様子だった。


 クラーケンが生息しているのは海。時々、海と繋がっている河川に海の魔物が迷い込んだ、という話は聞く。


 しかし、この三日月湖は海と繋がっていないし、そもそもクラーケンは魔物ではない。だから、誰もクラーケンが正体だとは思わなかったのだ。


「なぜクラーケンがこの湖に迷い込んだのかは、我々で調べますので。依頼通り、巨大生物を退治いたしましたので、私たちは王宮へ戻ります」


 会長たちに見送られながら、アリスたちは馬車に乗り込んで王宮へ戻った。


「やっぱり、魔物と違って生き物を殺すのは気分が悪いな」


 腕を組み、レオは沈んだ声で言った。


「依頼内容が『退治』じゃなくて、『確認』とか、『追い払う』とかなら、殺さずに済んだのにな」


「きっと、依頼主の会長さんたちも、魔物か何かと思っていたんだと思いますよ」


 スマホで報告書を作成しながら、皓然がレオに答えた。


「漁業組合なんですから、命の大切さは分かっていたと思います」


「ねえ、こういう依頼って多いの?」


 ローズのその問いに、他の三年生が一斉に頷いた。


「うちのチームは火力が強いし、依頼を選ばないから、特にね」


 パウラのその言葉が、なんだか妙に重たかった。


 王宮に帰って、やっぱり魔力不足で熱を出したパウラは医務室に入院。せっかく六人になったのに、部屋に戻ってきたのは五人だけだった。


 その日の夕方、アリスは秘密の境界で寝転んでいた。ボーッと天井の水たまりを見つめているだけだが、考えていることは昼間のクラーケンのことだった。


 ローズたちと再会した時の巨大イノシシ——カプロスの依頼では、ルーカスが『伴奏者』の力で眠らせていた。パウラも同じことができたはずだ。それなのに、どうして今回は命まで奪ってしまったのだろう。


 そんなことを考えていると、皓然がクロエを連れてやってきた。


「もうすぐご飯なのに、降りてこなかったから」


 そう言って、彼はアリスの顔を覗き込んだ。


「今日のクラーケンのことですか? 命まで奪う必要はなかったのにーって?」


「……皓然も心理学を習ってるの?」


「いいえ、全く。ただ、君は優しいから、そう思ってるんじゃないかと思って」


「私を優しいだなんて、皓然は変わってるね」


「事実でしょう? 自分に怪我をさせたコルデーロさんに、復讐しなかったんだから。ぼくなら、一か月間の稽古相手とか、自分に都合の良いことを命じますよ」


「皓然のだって、軽いじゃん」


「アリスに比べれば、そうでもないですよ」


 アリスの隣に腰かけながら、皓然は薄く笑った。


「でも、パウラのことを責めないであげてくださいね。あの子も、生き物を殺すのに慣れていないんです」


「そうなの?」


「はい。いつもは、眠らせて終わり。殺すためのレクイエムは魔力の消費が大きいですから、普段は使いません。今回は、あのクラーケンが黒魔術に汚染されていて、しかも弱っていたから……。だから、殺したんです」


 後から黒魔術に汚染された場合、正気に戻ることはほぼゼロに等しい。つまり、もう元には戻れない。そういう場合、研究機関に送られて黒魔術を解くための研究材料に使われる。


 人間の怖い所は、目的のためなら手段を択ばないところだ。


 研究施設に送られたクラーケンがどんな惨い目に遭わせられるのか、考えただけでも恐ろしい。


 それに、クラーケンは海洋生物。淡水の三日月湖で何日も暮らしていて、かなり弱っていた。死んでいなかったのは、黒魔術をかけられていたからだろう。今回の一件は、クラーケンの最後のあがきと言ったところだろうか。


 これらのことを考慮して、パウラはクラーケンを殺そうと判断した。


 あの一瞬一瞬が死と隣り合わせだった現場で、パウラはそんなことを考えながらみんなのサポートをしていたらしい。


 改めてパウラの有能さに驚きつつ、アリスは思い切って聞いてみることにした。


「どうして、うちのチームは『あまりもの組』なの? みんな、優秀な魔術師なのに」


「……単なる差別ですよ。差別しないでくれる子もいますけど」


「差別?」


 その言葉で思い出したのは、魔術界に来てすぐのこと。パウラに「別世界には、差別ってあるのか?」と尋ねられた時のことだ。


 魔術界で差別を受けているのは、魔法・魔術が使えない「非魔術師」と、魔力自体を受け付けない体質の「対魔術師」。対魔術師は、魔法や魔自体が無効化されるのだという。


 パウラの父親は有名な上級魔術師だと聞いているから、母親が非魔術師か対魔術師ということではないだろうか。それなら、パウラとルーカスが魔力をうまく取り込めない特異体質であることにも合点がいく。


 アリスがパウラの秘密に気付いたと分かったのだろう。皓然は「みんなには内緒ですよ」と釘を刺して立ち上がった。


「そろそろ帰りましょう。レオが心配しだす頃ですから」

お読みいただきありがとうございました!

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