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102.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 夏休み最終日。故人を悼む灯篭流しに参加したアリスたち。しかし、その中でパウラだけは、母から教わった衝撃の事実のことを考えていた……。

「えー、夏休み期間中、みなさんは様々な経験をされたかと思います……」


 ルイスが壇上で話をしている理由は、ただ一つ。


 夏休みが終わったからだ。


 アリスは今年、人生で初めて勉強ばかりの夏休みを過ごしたと思う。おかげで、この世界の仕組みが少しだけわかったけれど。


 その代償で、アリスは欠伸をかみしめながら真新しい夏服の制服に身を包み、ルイスの言葉に耳を傾けていた。


 だって、この話はもう何度も聞いているから。


 ルイスは一週間前からずっと練習を続けている原稿を手に話しを続け、最後の仕事にやっと取り掛かることができた。父は、人前で一方的に話すのは得意ではないようだ。


「今学期から、新しい仲間が加わりましたので、紹介します。魔術師養成コース五年生に、フェリクス・マルタン。同じく三年生にローズ・マルタン。魔法使い養成コース三年生に、胡蝶舞。分からないことも多いと思いますので、彼らを助けるように。それから、ガイド役も発表します。フェリクス・マルタンのガイド役に、ルーカス・ツヴィングリを。ローズ・マルタンはパウラ・ツヴィングリ。胡蝶舞はエリザベス・ウォルシュに、ガイド役を頼むこととなりました」


 それはつまり、フェリクスはルーカスのチームに、ローズはアリスたちのチームに入るということだ。何となく予想はしていたが、自分のチームにフェリクスが入らないことに、少しだけアリスは肩を落とした。だが、ローズが入るのなら今までより楽しくなりそうだ。


 始業式の今日は、課題を提出して、簡単な授業だけで終わる。だから、アリスたちは元気が残った状態のまま部屋に帰ることができた。


「改めまして、よろしくね」


 そう言って笑顔を見せたローズが来たのは、丁度昼食を取り終わった後だった。荷物は、アリスと同じくスーツケース一つだけ。


「午前中は、ルイス先生に王宮を案内していただいたから、地図はもう頭に入っているわ。早い所ここでの生活に慣れるようにするからね。まずは、今日の魔術実技、頑張りましょうね!」


 しかも、めちゃくちゃ言葉が上手になって帰ってきた。


 ローズはすでに、制服が定型のものではなかった。フリルのついた詰襟の黒いシャツに、黒いリボン。白いウェストコートとフレアスカート、という出で立ち。前髪はあみ込み、左耳の上あたりでリボンを結んで止めている。


 そんな美少女は、とにかく頭が良いらしかった。だって、一年ではなく、三年のクラスに編入したのだから。ローズは春から夏までのこの短期間で、三年生に編入するに値するほどの知識を身に着けたことになる。


「お兄ちゃん、成績が落ちなきゃいいね」


「無理だね」


「なんでそんな消極的な……。いつもだったら『落ちるか、バーカ』とか言ってくるくせに」


「無理なもんは無理。ローズ、俺の隣の席なんだもん」


「あ、それは確かに無理だね」


 そんな状況では、ローズ大好きな兄が、集中して授業を受けられるわけがなかった。


 しかし、そんな理由で成績を落とすことを両親が許さないのもまた事実。これからのレオは、色々と大変そうだ。


 それにしても、誰だろう。わざわざレオの隣にローズを配置したのは。恐らく……、いや、完全に担任の仕業だろうけれど。


 ローズは荷物を持って二階に上がり、アリスの隣の部屋に入った。


「“ローズ・マルタンの名において、あなたにご挨拶申し上げます”」


 そんな堅苦しい呪文で、部屋はパステルカラーを基調とした可愛らしいものに生まれ変わった。


 荷解きも終わると、アリスたちは魔術実技のために訓練場に向かった。珍しく先に来ていたメアリーは、アリスにその後何もなかったかを尋ね、アリスが首を横に振ると心底安心したように、ホッと息をついた。


「さて、今日からめでたく六人チームね! ようこそ、ローズ!」


「ありがとうございます、先生」


 ローズはスカートの裾を持ってメアリーに深々とお辞儀した。


 ダリアの所に預けると、野性味満点だった狼少女が、絵にかいたようなお嬢様になるらしい。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「まあ、なんて礼儀正しい! ローズ、得意な武器や攻撃はあるかしら?」


「狼になって動き回るのが、やはり一番ですね。それから、暗器の扱いをダリア先生に教えていただきました。プロ級だって、お墨付きもいただいたんですよ」


 訂正。


 お嬢様はお嬢様でも、暗殺者のお嬢様だった。


 そう言えば、ルイスとヘレナの兄妹もダリアには厳しくしごかれたと言っていた。よほど、ダリアは人を鍛えるのが得意なのだろう。残念ながら、アリスはダリアの授業を受けたことがないから、本当かどうか分からないけれど。


 初めての魔術実技の時と一緒で、今日はメアリーが呼びだした魔物との戦闘訓練を行った。


 正直、ローズの能力はアリスたちの予想の、はるか上を行っていた。


 皓然と一緒に前衛を務め、同じ前衛を務める皓然が動きやすいよう、サポートしている。加えて、アリスたちの方へ攻撃が飛んでいくと、暗器を使って守ってくれる。


 毛並みも艶々な銀色の狼が加わり、アリスたちの負担が一気に軽くなった。中衛は防御魔術の使用頻度が減ったので、パウラの魔力消費も最小限に抑えられるように。後衛の二人は、最初は守るべき仲間が増えて戸惑ったらしいが、途中からうまいことローズと連携がとれるようになっていた。


 休憩中、アリスは「どうして、こんなに私たちに合わせるのが上手なの?」とストレートに聞いてみた。


 すると、ローズは楽しそうに笑って教えてくれた。


「アゴーナスで、あなたたちの動きを見ていたから」


 髪を一つにまとめながら、「それからね」とローズは続ける。


「私が人間になれなかったとき、みんなのことを見ていたから。だから、それぞれの役割は何で、どう考えているのかが分かった。ただ、それだけよ」


「凄いことだよ! 私なんて、いまだにみんながどう考えているのか分からないのに」


「なら、アリスはそれを肌で感じ取っているんだわ」ローズは笑った。「防御魔術を出すタイミングが絶妙。これまでの経験と、皓然の動きのクセから学習して、体が覚えたのね」


「ローズ……」


 何となく、レオがローズに好意を寄せる理由がわかる気がする。


 思わずローズにハグすると、ローズは一瞬驚いたのち、不器用に抱きしめ返してくれた。


 ローズは、その名前の通り薄く甘い香りがした。


「おい! ローズに迷惑かけんなよ!」


 レオに首根っこを掴まれ、アリスはしぶしぶローズから離れた。恐らく……、ではなく、絶対にアリスにヤキモチを妬いているのに違いなかった。だって、レオはローズに抱きつく理由がないのだから。それに、アリスのように理由なく抱きつきでもしたら、ただの変態になってしまう。


 アリスは、さっさと想いを伝えてしまえばいいのに、と思ってならないのだけれど。だって、二人が両想いなのは見ていてすぐわかるくらいだ。


 それなら、レオだって、こんな風にヤキモキしなくて済む。


「お兄ちゃんの……」


「アリス。今から俺が怒ること言うだろ。やめとけよ」


「はーい……」


 これにはローズだけでなく、話しが聞こえていたみんなも笑った。


 とにもかくにも、六人チームになったアリスたちの安定感はさらに増した。地盤が固まった、とでも言うのだろうか。


 それに、アリスの家系特性もついに解禁されることとなった。


「『自己成就』のことは知っているようだから、使い方だけ教えるわ。大丈夫、とっても簡単だから。いいこと?『想像する』たったのこれだけ。ね、簡単でしょう? ……話を聞く限りは」


 アリスは素直にメアリーに頷いて見せた。だって、「想像する」なんて、いつも魔術を使う時にしていることなのだから。


「つまり、私の場合だと衣装とか、舞台の設定について想像すればいいってことですよね?」


「そう。でも、簡単にできるとは限らないわよ。手始めに、私たちの見ている景色を変えるところから……、つまり、舞台を構築してみましょうか」


 頷き、アリスは目を閉じた。舞台と言われて頭に浮かんだのは、別世界の学校にあったホールだ。よく、ピアノやバレエの発表会で使われていた。


 それなのに、目を開けてみたらボヤッとした平面的な世界に立っていた。目の前に、ピンボケしているホールのパネルが建てられているようだ。


「ま、最初はこんなもんよ」


 メアリーはホールを見つめながら、静かに腕をくんだ。


「アリスのこれは記憶ね? ぼやけているのは、記憶が曖昧な部分があるから。ボケている部分は覚えていない部分と思っていい。平面的なのも、アリスの一番濃い記憶がこの景色だったからよ。じゃあどうするのか。それは、このぼやけている部分、映っていない部分を頭の中で補強すること。つまり、アリスが想像力で補うしかないの。明るさ、匂い、大きさ、椅子があるのなら、椅子の座り心地、手触り、その全てを」


「す、全てを……」


 一個一個を思い出していくのは簡単だ。だが、そのすべてを同時に、しかも瞬時に細部まで想像するとなると、一気に難易度が増す。


「難しい特性だから、私は今まで家系特性の練習が無かったんですか?」


 アリスの問いに、メアリーは一瞬だけ体を揺らしたが、「いいえ」と首を横に振った。


「——家系特性は大体、親から習うものだから。でも、今『自己成就』を持っているのはカイル先輩とアリスだけ。だから、教えられる人がいなかったの。遅くなってしまったのは、私が『自己成就』のお勉強をしてたから。遅くなってごめんね」


 アリスは素直にその言葉を飲み込んだらしかったが、パウラは皓然と顔を見合わせた。「きっと、他にも理由があるぞ」と。


「ごめんなさい、先生を責めたかったわけじゃなくて……!」


「分かってるから、大丈夫よ。それに、アリスは別世界から来てまだ半年しか経ってないじゃない。いきなり家系特性も教えたら、詰込みになって大変なんじゃないかとも思ってたの」


「あ、そっか。何だか、もう何年もみんなと一緒にいるつもりになってました」


「ずっと一緒だものね。さて、次はローズだけれど……」


「私の家系特性は『鍵』。母と同じです」


 ニコリと微笑んだローズに、メアリーは「そうよね」と大きく、何度もうなずいた。


「使える?」


「ええ。狼の時にも、無意識に使っていましたから」


「なら、大丈夫そうね。でも、確認のために一度、見せてもらってもいいかしら?」


「もちろんです」


 メアリーに笑顔で頷いたローズは、パウラが呼びだしたレッド・キャップに向かって手のひらを向けた。


 ローズの手のひらに浮かんだ魔法陣はレッド・キャップを包み込み、細い足に輪となって輝き始めた。さらに、ローズが息を吹き付けるように「ふっ」と息を吐くと、光が飛んでいく。


 レッド・キャップの足首に、銀色の鎖と大きな南京錠が付けられていた。


 南京錠を閉めた透明な鍵は、ローズの手のひらに飛んで行った。


「わお!」メアリーは手を叩いた。「完璧ね! お母様に引けを取らない、立派な『鍵』だわ」


「ありがとうございます、先生」


 家系特性『鍵』は、ローズたちにとっての母、グレース・エニスから引きついたものだ。対象物に鍵をかけられるこの特性は、ネロ王国の公爵家であるエニス家の人間にしか、これまで現れたことが無かった。


 この特性は、何も動きだけを封じ込めるだけではない。魔力に鍵をかければ、鍵をかけられた人は魔術が使えなくなるなど、かなり便利な特性だ。それに、扉の鍵を開けることもできるのだという。


 ただし、自分よりも実力が上の人……、例えば、上級魔術師なんかにこの特性を使うと、この魔術は自分自身に跳ね返ってきてしまう。


 パウラに教えてもらいながら、アリスは感嘆の声をあげた。アリスの『自己成就』より、よっぽど扱いやすそうで、使い勝手の良さそう特性だ。


「アリスも『自己成就』が使えるようになったら、戦略の幅が広がりそうだな」


 その一言で、アリスは『自己成就』を必ずマスターしようと心に決めた。単純だろうが、何だろうが、アリスはそう決めたのだ。


 だって、いつも守られてばかりだから。

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