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101.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アリスが訪れたことによって、一気に進んだ新しい遺跡の調査。メアリーはそこで調査を続けている途中、厳格に襲われてしまう。一方で、夏休みを無事に終わろうとしているアリスたちは……。

 夏休みの最終日。


 宿題に追われていたアリスに、パウラと皓然の二人は「出かけてくる」と言い残して部屋を出て行った。


「デート?」


「違うよ」


 同じく課題に追われているアダンは、アリスの予想を一蹴した。


「気になるんなら、アリスも行ってみる? 灯篭(とうろう)流し」


「灯篭流し?」


「亡くなった人を悼む日なんだよ、今日は。パウラはお父さんで、皓然は両親が亡くなってるでしょ。薄い紙で作った風船の中に火を入れて、水の上に浮かべるんだよ。今日は全国でこれをやってるんだ」


「へえ! 行ってみたい!」


 しかし、これにストップをかけたのが、監督役をパウラから仰せつかったレオだった。


「本番は夕方からだから、それまでに課題を終わらせたら行ってもよろしい。計画的に進めなかった自分を責めるんだな」


 それにはイラッとしたものの、そこまで言われればやる気も出てくるというもの。


 アリスとアダンのペンは、さっきよりも速いスピードで動き出した。


 一方。


 灯篭流しの会場になっている中庭に到着したパウラと皓然の二人は、それぞれ灯篭を受け取ってベンチに腰かけていた。


 この灯篭に、故人へのメッセージを書き込むことができるのだ。それで、二人はペンを片手に、何を書こうかとグルグル頭を回していた。


「——エルンスト先生は大変ですね」


「なんだよ、突然」


「いや、四人分の灯篭を探して読まないといけないのかーって。うちは、三人で一つの灯篭ですから」


「なら、そっちはどっちが先に読むかで揉めてそうだな。噂で聞くには、とても可愛がられていたらしいから」


「まあね」


「うわ、どっからその自信が出てくるんだよ」


「実際、ぼくの顔って可愛い系だと思っているので。かっこいいって、レオとかディルみたいな顔を言うんでしょう?」


「そうかもしれないけど、自分で言うなよ。てか、そういうことじゃないし。あーあ、言い返す言葉ミスった」


 そう言いながら、パウラは灯篭に「エルンスト・ツヴィングリ様」と書き込んだ。皓然や他の人たちは「父さん、母さんへ」と書き込んでいるのに。


「相変わらず、ひねくれてますねぇ」


「だって、会ったことないからね」


 会ったことのないパウラという娘から灯篭が流れてきたら、エルンストが驚くかもしれない。そう思って、パウラの灯篭は決まって「エルンスト・ツヴィングリ様」が出だしに来ると決まっている。


 パウラなりの、精一杯の気遣いなのだ。


 だから、それを分かっていていじってくる皓然は、よほど性格がひん曲がっているのだとパウラは思っている。


「あぁ、いたいた! 小然!」


 人込みの向こうから、手を振る牡丹が現れた。それから、彼女と手をつなぐもう一人の姉の姿も。


 皓然に気付いた桜花は、「しゃおらーん!」と皓然に勢いよく飛びついた。その反動で、弟が吹っ飛ばされてしまうと分かっているのに。


「あー……。小然、大丈夫? 頭は打ってない?」


「打ってないけど、いい加減にしてくださいよ! 桜花姉さん、毎回毎回、やめてくれませんか!? 来年からぼくも灯篭を読む側になったらどうするんですか!?」


「どうもしなーい。ごめんねっ!」


「……桜花姉さんなんて嫌いだ」


「なんでそんな意地悪言うの!」


 喧嘩している姉弟のことは放っておいて、牡丹は「ごめんね」とパウラの隣に腰かけた。


「うちの子、素直じゃないでしょう。意地悪とか言ってないかしら」


「大丈夫、意地悪の連発だよ。でも、面倒見がいいから怒らないであげて。うちの一年ズのお兄ちゃんがいなくなるから」


「あら」


 牡丹は嬉しそうに笑って、それ以上は何も言わなかった。


 灯篭にそれぞれのメッセージを書き込んだら、あとは夕方を待つだけ。その間、普通は故人のことについて語り合うのだが、パウラたちはもっぱら世間話をして過ごした。


 夕方になり、空が薄紫色になってきたら、ついに灯篭を流す時間だ。パウラたちは遅れてその列に並んだが、どうやら正解だったようだ。


「良かった、間に合ったぁ!」


「それは課題の話?」


「灯篭流しの話!」


 アリスが頬を膨らませるのを見て、パウラは思わず吹き出してしまった。大方、レオかアダンに今日が何の日か教えてもらい、急いで課題を片付けてやってきたのだろう。


「アリス。ここ空いてるから、何か書いていいよ」


 ペンと一緒に灯篭を渡すと、アリスはきょとんとした目でパウラを見つめてきた。それでも、パウラはなおも笑顔のままだった。


「ボクにちゃんと友達がいるってわかったら、パパも安心するだろ?」


「そうだね! 何書こうかなぁ」


 既に形になっている灯篭に文字を買うのは苦労したらしいが、何とか順番までにアリスもメッセージを書き終えたようだった。


 既に何百もの灯篭が浮かんでいる川に灯篭を浮かべ、パウラたちはその場で軽く祈りをささげた。


 人が死ぬのは、悲しいことではない。だって、ユリアの元へ行くのだから。パウラたちにできることは、故人にこちらの近況報告をすることと、地獄へ行っていないことを祈ることだけだ。


 祈りを終えて目を開けたパウラは、眼鏡越しに美しい景色を見ていた。


 柔らかなオレンジ色を灯した灯篭が、川に反射している。それに、夜空に浮かび始めた星々も。


 それから、パウラはそっと、この景色に感動しているアリスに視線を移した。


『エルは、ヘレナにとって兄のような存在だった。だから、教えてもらったらしい』


 母はそう前置きして、パウラの目をまっすぐに見つめたのだ。


『レオとアリスは、双子だったんだよ』

お読みいただきありがとうございました!

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