早朝の外出
ユナが俺の髪で遊ぶのに満足したあと、うちで夕飯を誘ったが断られてしまった。肉屋に肉を取りに行って、従魔達と共に肉感謝祭を開催するらしい。肉ふぇすと言われたが、ユナ語録は無視するに限る。
ユナの家は冒険者広場の手前の空き家を借りている。一軒家の方が従魔達を飼えるし、運動には冒険者広場を走れるから条件が良いらしい。元々うちの家に住んでいたが、一足早く先に冒険者になってから、あっさりと出て行ってしまった。
普段ベタベタ纏わりついてくる割に、嫌にあっさりしてるんだよな……
『遅い!クリス!』
『だから置いて行こうって言ったのよ』
『仕方ない、昼間約束してしまったからね』
町を囲む塀の抜け穴を抜けると、やたら大きな影が俺を取り囲んだ。屈んでいた体を起こせば、ユナに付き従っている筈の従魔3匹がこちらを見下ろしている。知らなければ、どんなに屈強な戦士でも命の危機を感じる状況だ。
「抜け出すのも楽じゃないんだ。仕方ないだろう」
『屋敷に睡眠香でも炊けば良いだろうに』
「怖い発想するなよ」
魔物らしいと言えば魔物らしい、物騒な発言をするのは黒猫の筈なルーナ。今は豹よりも大きくなり、狼達と同じ大きさになっている。
『さ〜、今日はどこへ行こうか?』
『そろそろあそこが良いんじゃない?』
『……あそこはまだ早いだろう、東の湖なんてどうだろう』
「あそこ?まだ行ったことない場所があるのか?」
3匹は黙って俺をじーっと見つめると、それぞれ首を振って無視をする。昼間も夜も態度が悪い獣達である。
『じゃあ今日は東の湖だ。行くぞクリス!』
「おう!」
俺がセルリアンに跨ると、全体がゆらゆらと光を放ち始めた。
「おい……まさか」
『行っくよ〜!!瞬足〜!!』
「やめろバカ!!ああああっ!!」
魔狼の瞬足は一歩で山を越える……なんて言われているのも納得な速さで、セルリアンは町をあとにした。例え誰かに見られたとしても暴風が通り過ぎたと思うに違いない。
『ほんと体力バカなのよ』
『若いうちは仕方ないさ』
フレイムとルーナが横でひそひそと話していたが、とてもじゃないがそれどころじゃない俺は、目を瞑って流れる景色をやり過ごした。
※※※※※
「うおぇぇぇ」
『なんかごめ〜ん』
『もういい加減慣れても良いんじゃない?』
『こうゆうものは、ダメなやつは一生ダメだって聞くがな』
それぞれがそれぞれに好き勝手言ってくる。が、それに対応出来る気力が今はない。いくら魔法で転がり落ちないとはいえ、セルリアンの背中は上下の動きが馬より激しいどころの騒ぎじゃない。何度経験しても酔ってしまう。
「うぅ……今日は何が相手だ、また魔猪か?」
『この辺は殺人鹿が出るんだ』
『あいつら美味いんだよな、魔力も多いし』
『角がちょーっと面倒だけどね』
「へえ……殺人鹿……」
はあ?!殺人鹿?!?!
「おい、バカさんにん組!」
『オレ達ヒトじゃないよ〜』
『バカって言うのは聞き捨てならないわね』
『……』
「金鹿なんてB級の魔物だっつーの!!人目見たら一目散に逃げないといけない相手だろうが!!」
俺が叫ぶと、セルリアンが頭にゴン!と擦り寄ってきた。地味に痛い。A級魔物の擦り寄りは、軽い攻撃だと思う。
『知らん!!喰う!!』
「………」
………今日は俺の命日かなんかだろう。肉ふぇすしたくせに、何でそんな食欲旺盛なのか。
『さあ、気を取り直して探すよ』
『『おー!!』』
「……おー」
ルーナの指揮に、ゆるゆると拳を突き上げれば、3匹はそれぞれに散会して行った。
「……待ってる間に、変なの出ない……よな?」
心許ないので、仕方なく剣の素振りをする。
3匹と夜遊び(?)するようになったのは14歳になってから。丁度、ユナが家を出てからだった。
出て行った筈のセルリアンが、かなり早い朝方に迎えに来たのだ。
最初は眠いしいきなり町の外で魔物狩りさせられるし、訳が分からなかったが、成人したら騎士に志願するか冒険者になるか……男爵家の三男なんて食い扶持を探すので精一杯な中、稽古をつけてくれるのはありがたかった。
家には剣技の指南役の兵士もいたが、年の近い子供は馬番の娘のユナしかいなかったし、街中で遊ぶにしても早くから家の手伝いをする子供達とは、仲良くなってもすぐ会えなくなった。
結局、
「俺はユナとばかりつるんでたんだよな」
もう素振りは軽く500は超えただろうか。遠くでセルリアンの遠吠えが聞こえた。
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