第二話 魔王城大冒険
「触れないようにしてたけどさ、魔王に妻と娘を託されたよね?」
「確実に、託されたね」
サラが賛同した。
みんなも、わかっていたようだ。
「でもさ、まずどこにいるんだ?魔王の妻と娘とやらは」
ムーンの言う通りだ。
「恐らくこの魔王城の中に入るんだろうけど・・・」
「広過ぎるね〜」
ジュリアとルナが答える。
「この魔王城全部探すのは、流石に骨が折れるな」
「待ってつまり、この魔王城を探検できるって考えたら良いんじゃない!?」
俺の発言をポジティブ変換したジュリアを天才なのかと疑った。
天才ではないのは間違いないというのに。
「まおうじょうの☆大・冒・険!☆ヒュー〜!」
「この広い魔王城を探検って丸一日かかりそうだな。探索しがいがあるじゃないか!」
これにはルナも俺もわくわく大興奮。
というわけで、魔王城大冒険大作戦が大決行されたのであった。
この時俺たちは気づいていなかった。
魔王に妻と娘がいるということ。
そして魔王の妻と娘を魔王、つまり妻にとっての夫、娘にとっての父に託された。
それはどういう意味だってのかを。
いや、気づきたくなかったんだ。
何といっても魔王を倒したんだ。
そのことを、素直に喜びたいじゃないか。
気が緩むのだって、しょうがないじゃないか。
この魔王城は4階建て、地下室なし、屋上ベランダ庭多数、部屋数脅威の58!!(トイレ含む)
4階建てにも関わらず高さ30mとという圧倒的な高さ!そして景色!
屋上、窓、ベランダからの眺めは最高!場所によって大自然、人類の街、魔族によって見るも無惨になった街等々様々、そして屋上からはその景色を一望できるという人間としての贅沢!そしてそこに住めるという超贅沢!
階層の移動だって2箇所のエレベーター(異世界ver)、一箇所のエスカレーター(異世界ver)、二箇所の非常階段があり万全。
しかし事故物件のため誰も住みたがりません。
どこの貴族よりも素晴らしい家だというのに。
しかも今なら早い者勝ちの無料、無料です!
このご時世にこんなもの絶対手に入りませんよ!
ジュリアのこだわりにより、俺たちは入り口から大冒険することになった。
「玄関からすげぇ・・・!」
俺の口からポロリと出てきた言葉。
「うわー!ショッピングモールより断然広い!ここに住まない!?」
それにしてもここは高級感と生活感があって、なんかいいね。
「1階は共有スペースって感じだね。食堂や書斎に倉庫。音楽室、魔法室、バレエ室、剣道室、ダンス室、救急室、そしてリビング・・・ほんとに何でもあるわね」
解説のジュリアさんですね。
「ほぼ学校じゃん」
学校ってこんな感じなのか。
「おい見ろ、風呂です!露天風呂もついてる!」
「みんなこっちっち!お庭ひろーーーい!」
「みんな、風呂・・・」
ゼロがめっちゃ風呂を推すが無視。
俺たちは基本1週間に1回風呂に入らないし、興味も無い。
そう、ゼロを除いてな。
こいつは風呂付き宿に入ろうものなら平気で3時間は入る。
そしてコイツは当然のように寝坊し、当然のように朝風呂に入り、当然のようにチェックアウト時間は過ぎ去り、当然延長金を払うハメになる。
そう、クソ野郎なのだ。
というわけでルナの呼び掛けに応じ、みんなで外に出る。
・・・これはすごいな!
おい知ってるか?魔王城の庭は地平線が見えるんだぜ。
それに地面は一面芝生。しかもお手入れ要らずの伝説級超高級芝生だ。
そしてサッカーや野球、テニス、バスケ、バドミントン、バレーボール、さらには幻のクソゲー・キックバスケのコートがあった。
もちろん体育館もある。
更に遊具や畑、プールまで。
「みんな、1試合だけキックバスケやってこうよ!」
「いいね!」
「「「何それ」」」
俺の提案にジュリアは応じてくれたが、そっか3人は知らないのか。
説明しよう!
ルールは実にシンプル。
バスケでは足を使うと反則なのに対し、キックバスケとはその名の通り足でバスケするのだ。(ヘディングあり)
前述したようにクソゲーで、足でバスケゴールに入れるなど素人にはまず無理なのである。
しかも俺の故郷では、バスケの『バウンドさせながら進まないといけない』みたいな感じで『リフティングしながら進まないといけない』という鬼畜ルールが採用されている。
だがしかし、一部の子供達には人気がある。
なぜって?カオスだからだ。
ルールなんて存在しないはちゃめちゃバトルが楽しくってたまらない。
俺はハマった。
しかもなぜかこのゲーム、運営協会が存在し、キャッチフレーズもある。
『全力で子供になれ。それがこのゲームの必勝法だ』
運営協会は今現在、終焉を待つ時代でも存在している。熱意が半端ない。
説明終わり!
ルールを理解してもらったところで、早速チーム分け。
俺とジュリアVSルナ、ゼロ、サラ
提案者は俺。まずは経験者の俺たちでボコす。
試合が始まった。
次の瞬間、ボールはゴールに入っていた。
「はい、1ぽいんとー!」
ルナだ。
こいつ、超高速で分身とパス回してゴールに着いたら超ハイジャンプし、足でダンクシュートしやがった・・・!!
そしてめっちゃ煽ってくる・・・!
しかもまだ本気じゃない。ムーンになったらもっと速いだろう。
相手チームの他二人はいつの間にか観戦席だ。
「雑魚すぎるんじゃないの〜?ーーー貯めて貯めて( ᐛ )パァ!ーーー」
「面白い。ならば本気(ルールガン無視)で行かせてもらうぜ!」
「よっしゃルーク、私たちの本気(ルールガン無視)見してやるぞ!」
・・・2時間後・・・
「遊び尽くしたー!」
「じゃあルークよ、汗を流すためにお風呂入りましょうか」
「いやいやゼロよ、早く魔王を倒した事を人類に報告しないとだろ。さあ、2階行くよ!」
「矛盾もいいところですね」
続いて2階。
「2階は娯楽施設って感じね」
解説のジュリアの言うとおり、この階層はゲーム室、カラオケ室、ボウリング室などなど、完全娯楽特化となっている。救急室とリビング、トイレはこの階層にもあった。そして空き部屋もちらほら。
「すご、ラウンドファーストかよ」
サラ、それは初めて聞く単語だな。こういう所をラウンドファーストと言うのだろうか。
「なんかこの階にも書斎ありますよ」
ゼロからの報告だ。
いやこれ書斎じゃなくて図書室って書いてあるぞ。
まあいいや入ってみよう。
「ひろーーーい!!」
「僕はもうちょい質素な方が好みですね」
「マンガがある!私マンガは好きだよ!」
「なるほどな。書斎は資料や参考書、図書室は物語やマンガって感じで区別してるっつーわけか」
「私はこの世界の文字読めないからな〜」
ルナ、ゼロ、ジュリア、ムーン、サラの順で感想を言っていく。
こういうので好みや性格が出たり出なかったり。
ジュリア今一人称が私になってなかった?」
そういえばそっか、サラは知らないんだったか。
「うーん・・・。昔の名残、かな。」
そして3階。
「この階層は研究室や作業部屋なんかがあるし、作業用って感じだね」
「でも解説のジュリアさん、救急室やトイレがおそらく全階層にあるのはともかく、作業用階層にリビングあるのおかしく無いですか?」
俺の反撃。効果ばつぐんだ。
「ここが作業用階層なら書斎1階じゃなくて3階の方が良いいと思うぜ」
おーっとムーンからの思わぬ一撃!
解説のジュリア、どう出る!?
「・・・それは・・・魔王の設計ミスでしょ!」
魔王のせいにした!
この階層は若干空き部屋が多いな。
「そういや、この魔王城って魔王と脳筋九神魔しかいなかったけど何のためにこんな豪邸建てたんだ?」
ムーンの鋭い指摘。
それは俺も薄々思ってた。
「もっとたくさん、ここに住んでる人がいたんじゃないの?」
いつの間にか変わってたルナの発言だ。(注 ルナ=ムーン)
ラスト4階。
当然ここにもリビングがある。さすが高さ30mなだけあって絶景だ・・・。
「4階は魔王の私室、封印された魔王妻の私室、子供部屋、封印された救急室、封印された思い出部屋、授乳室、リビング。オマケに、いかがわしい寝室・・・」
解説のジュリアが、最後まで役目を果たした。
魔王の私室は、魔王と戦った謁見の間だった。
「ゼロ、どこか封印が解けそうな所はあるか」
「封印された救急室だけがかろうじて何とか。内側から開けられるようになっているおかげですね。」
「なるほど」
いつもゼロにはお世話になっている。優秀過ぎるくらいだ。
それはそうと、内側から開けられるということは、中に人がいるかもしれない、ということだ。
これまでの経験から、それは確信に近い。
中にいるのは人質かもしれないし、はたまた魔王の兄弟かもしれない。
「・・・さすがに、見て見ぬふりは出来ないよな」
「まあね」
「もちろんです」
「そうだね」
「うん」
ジュリア、ゼロ、ルナ、サラの順で返事が来る。
「じゃあゼロ、開けてくれ」
魔王城にある部屋一覧(数え間違えてなければ58部屋)
食堂、調理室、書斎、倉庫、音楽室、剣道室、魔法室、カラオケ室、バレエ室、ダンス室、ボルダリング室、ボウリング室、ゲーム室、パソコン室、図書室、オシャレ室、写真室、思い出部屋、管制室、研究室、魔王の私室、魔王妻の私室、子供部屋、授乳室、寝室、いかがわしい寝室、風呂その1、風呂その2(露天風呂付き)、物置その1、物置その2、作業部屋その1、作業部屋その2、救急室その1、救急室その2、救急室その3、封印された救急室、リビングその1、リビングその2、リビングその3、リビングその4、トイレその1、トイレその2、トイレその3、トイレその4、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋、空き部屋。
今更にて階層ごとに分ければよかったと後悔しています。