万物はおもちゃである
長野のおじいちゃん・おばあちゃんからのリンゴが入っていた段ボール箱が空になったのを見て、ソウスケは、
(これ、乗れそうでちゅ)
上方に開いている箱の、側面をなんとかまたいで中に入って、座ってみた。頭から肩までが上に出て、乗り物として、いいあんばいだ。
それを見たケイスケは、
(ボクも乗るでちゅ!)
ソウスケをギュウギュウと端っこへ押しやりながら入って座った。少し狭いけど、箱の長い方向に沿って縦に2人乗りができた。
その日から、その箱は、2人のお気に入りの乗り物になった。ときには草原を走り、ときには空を飛ぶ。何匹かのお友達(ぬいぐるみ)を連れていってあげることもある。お友達にとっては、狭い箱の中でペッタンコになって、災難でしかなかったけど。
何週間かして、お母さんが部屋の掃除をしているとき、いつもは部屋の端っこにある足用マッサージ機が部屋の中央に置かれているのを見て、ソウスケは、いいことに気付いてしまった。
(新しい遊びができそうでちゅ)
マッサージ機の上面には、U字溝みたいな形の凹み(両足を別々に入れる所だ)が2つ並んで設けられていて、凹みには布が貼ってあった。その凹みが座るところに見えた。さっそく、1つの凹みにお尻を入れつつ、マッサージ機にまたがってみた。それを見ていたケイスケも、もう1つの凹みにお尻を入れつつ、またがってみた。2人は、バイクに2人乗りしているような格好になった。白いプラスチックのボディは、とても、かっこよく思えた。
その日から、マッサージ機は、2人の新しいお気に入りになった。今度のは単に走るだけじゃなかった。後ろに乗った人の手前には、銀色のスイッチが2つある。これをカチカチと押すと、ときにはビームが出てワルモノをやっつけ、ときには煙幕を出してワルモノを驚かせた。
たまに、2人は、マッサージ機での冒険の途中で、テレビで面白そうな番組が始まったことに気付き、乗ったままテレビに見入ることがあった。マッサージ機がテレビのすぐ近くにあったのは、家事を邪魔されたくないお母さんの作戦だ。ちなみに、段ボール箱は、こっそり処分された。
何カ月かすると、注文していた2台の○○○○○○ライダー(○には幼児向けアニメの国民的ヒーローの名前が入る)が家に来た。バイクのような形の乗り物で、またがって地面を蹴って進むタイプのやつだ。ハンドル操作で、ちゃんと曲がることもできる。
(動くでちゅ! ずっと、こんなのに乗りたかったでちゅ!)
ケイスケ・ソウスケは大騒ぎ。お母さんは、乗っている2人の写真を撮ろうとしたけど、思いの他、はしゃいでいる2人の動きは速く、全部の写真がブレてしまった。もちろん、お母さんは、ブレていても、いそいそとお父さんに写メを送った。そこはブレない。
昭和の頃と違ってベアリングの性能がよいのか、外で使って砂がベアリングに入るということがなかったからなのか、慣れてくると、2歳児の脚力で結構なスピードが出た。2人は、2Kのアパートの狭いキッチンと廊下をビュンビュンと行ったり来たりするようになった。
お母さんは、子供達がケガをしないか少し心配になった。お父さんは、子供達が、いつか、そういう感じのニイチャンにクラスチェンジして、老いた自分をいじめないか、少し心配になった。