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強化された幼児

 双子のもう1人であるソウスケ(仮名)は、お父さんの勤め先で自分の背丈よりも高い机の列と列の間の通路に降ろされると、通路の先(他の通路が交差しているだけだけどソウスケにはそれが見えなかった)が気になって、

(行ってみるでちゅ)

 って、とてとてと歩き始めた。

 ケイスケが緊急入院し、お母さんはケイスケに付き添っていたから、お父さんはソウスケを連れてきた(1週間で無事退院できたのでご安心ください)。

 オフィスは、ソウスケにとっては迷路のようで、歩くだけでも楽しめた。ソウスケは、遊び始めると、お母さん(もちろんお父さんも)が近くにいなくても平気な子だったから、お父さんのデスクから離れて自由に歩いた。

 少しして、ただ歩くことに飽きてくると、ソウスケは、大人達がファイルを持って歩いていることに気が付いて、

(ふむ? やってみるでちゅ)

 真似してみた。適当に歩いて、たまたま、お父さんの近くを通ると、

「あっ、お前、それ、どこから持ってきたんだ!?」

 ファイルを取り上げられてしまった。そして、若い女の人が、

「あ、大丈夫ですよ~。戻しときます。」

 ニコニコしながら持って行ってしまった。

(せっかく、ここまで運んだのに…。まあ、大して面白くもなかったから、いいでちゅ)

 次に、ソウスケは、誰もいない机の端っこにある電話を発見して、

(いいもの、見つけたでちゅ!)

 背伸びして、スイッチを適当に押してみた。

「プーッ」

 大きな音がした。少しビクッてなった。ソウスケには分からなかったけど、受話器を置いたままダイヤルするためのスイッチが押されて、スピーカからダイヤル可能を知らせる電子音が流れたのだった。多くの大人達がソウスケの方を振り向いた。そして、お父さんが、

「お前か!」

 言うが早いか、ソウスケを自分のデスクに連れて行った。

 お父さんは、デスクに着くと、

「まだ、おやつの時間には早いんだがなぁ~」

 ボヤキながら、キャラメル味のスナック菓子の袋を開けた。ソウスケ・ケイスケが大好きなやつだ! ソウスケは、すぐに手を伸ばし、次から次へとパクパク食べた。今日は独り占めだ。オフィスにある色々な備品のことはどうでもよくなった。やがて、お腹が膨れてくると、眠くなってきて、頭がユラユラと揺れた。お父さんは、しめしめと、高齢の所長さん愛用のマッサージ椅子の背もたれを倒し、ソウスケをそこに寝かせた。


 夜、ソウスケが2Kのアパートで目を覚ますと、小さい明りがつけられている部屋には、知らない2人の大人だけがいた。2人は、鳥取からお手伝いに駆け付けてくれたおじいちゃん・おばあちゃんだったけど、そのことは、ソウスケには分からなかった。

(お母さん・お父さん・ケイスケがいない!探しに行かなきゃでちゅ!!)

 ソウスケは、部屋から出て、廊下を玄関に向かって走った。まだ、上手に走れなかったから、ドタバタと音がした。

「ヒア~ッ!」

 変な大きな声が出た。

(お母さん、お母さん、お母さん…)

 涙も鼻水も出た。

 すぐに、もう1つの部屋からお父さんが出て来た。お父さんは、ソウスケの夜泣きで目を覚まさないようにって、おじいちゃん・おばあちゃんの好意で、別の部屋で寝ていたのだった。

 お父さんは、少し慌てた声で、

「おとさん、おるよ、おとさん、おるよ」

 ソウスケを抱き上げた。お父さんは、ソウスケのお尻をポンポンってしながら、

「一緒に寝ような~」

 って言うと、おじいちゃん・おばあちゃんがいる部屋に行ってソウスケを布団の上に寝かせ、その横に寝た。

 ソウスケは少し安心した。でも、

(お母さんがいないのは、やっぱり寂しいな…)

 とも思った。


 次の日の朝、ソウスケは、ソウスケ・ケイスケが、お気に入りの椅子として使っている、お父さんの足用マッサージ機に座ってテレビを見ていた。おばあちゃんは、

「お父さんが出掛けるところを見ると、大変なことになるから、今のうちに行きんさい」

 出勤するようお父さんを促した。お父さんは、そっと出て行った。

 ソウスケは、お父さんが、いつの間にか、いなくなっていたことに気付いた。だけど、今度は泣かなかった。おじいちゃん・おばあちゃんが、一生懸命遊んでくれたからだ。何回も抱っこしてユラユラしてくれたり、お散歩に連れて行ってくれたり、おもちゃで遊んでくれたり、お菓子をくれたりした。

 その晩、おばあちゃんは、

「今日1日、ほんに、いい子に、しとったよ~」

 って、お父さんに報告した。お父さんの頭の中では、

「ソウスケは レベルが あがった! せいしんりょくが 5ポイント あがった!」

 っていうゲームのアナウンスが流れたけど、おばあちゃん相手にそれを口に出すことはなかった。


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