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ミッション:結婚式をやりすごせ

 結婚式は、苦労の割に話のネタとしての有効期限が短い、と思う。その証拠に、両親や祖父母がどこでどのような結婚式を挙げたか、聞いた憶えが無い。それに想像してみて欲しい。やたらと自分の結婚式のことを話すママ友がいたら、引かないだろうか。客との雑談で自分の結婚式のことを話して商談がうまくいくとも思えない。客が関西人ならば、昨日の阪神の話をしたほうが断然うまくいくだろう。したことないが。

 そう、これは、そんな結婚式が、十数年の時を経て、今ここで、有効利用されるという奇跡の物語である。♪フッ、フッ、フッ、フ~、♪フッ、フッ、フッ、フ~、♪フッ、フッ、フッ、フ~、♪ハ~、ホワ~(80年代ドラマのオープニング曲)。


 …さて。

 式場選びも甘酸っぱかった。

「夜景が見える所はどう?」

「ロマンチックね~」

 東京タワーに臨むスカイレストランで式を挙げるプラン(オーダーメード)で見積もりをとってみた。

「…。」

「…。」

 最終的に東京ドームに臨むホテルにした。

 別にジャイアンツファンにケンカを売ってはいない。

 また、この話の流れだと、そのホテルがあまりよろしくないかのようだが、そんなことはない。ロビーの空中に浮いているかのようなガラス張りのチャペルはロマンチックだったし、東京ドームを見下ろす披露宴会場は、夜景がきれいで、東京タワーも見えた。十分すぎる程に贅沢な式場だった。さほど多くの式に参列したことがあるわけではないが、個人的な経験ではNo.1の会場だった。会場を提供するホテル自体が婚礼部門を有しているから、割安なだけだ。

 なお、他人にまつわる事よりも自分にまつわる事を美化する思い出補正がなされているというようなことも絶対に無いと強く断言しておく。


 日取りは仏滅の日とした。その日は他の日よりも人気が低いことから、安くなるのである。

「今どき、そんなの気にする人いるんだ…。」

「でも、そういう人達のおかげで、私達が安く式を挙げられるんじゃない!」

「そだね~」

 もちろん、自分達の都合だけで決めるわけにはいかない。両親等の都合を確認した上で、式場を予約した。

 数日後、おふくろが電話してきた。

「その日、仏滅じゃねえか!」

 ココニイター…。

 もちろん。おふくろの反対ぐらいで日取りを変えることはしない。合理的カップルなのだから。


 結婚式の打ち合わせも甘酸っぱかった。多くの人が経験することであろうと思うので詳細は省くが、式を盛り上げるオプション(お色直しを追加するとか、花を飾り直すとか、ケーキカット等の出し物をするとか)が色々あって、

「それいい」

 と思う度に、

「このオプションは〇万円になります」

 となり、

「…。」

「…。」

 となるのである。

 「一生に一度のことですから」という式場関係者の殺し文句も、我がカップルの懐事情の前では無力だった。

 式も含めて諸々安くできないかと、結婚指輪や引出物は都民共済*(準備開始時は「都民」だった)で調達した。ドレスも都民共済のものを利用できないかと見せてもらったが、とてもシンプルなつくりで、着る人を選ぶタイプのものだった。フィアンセは早々に諦めた。

*非営利の建前から諸々安い。


 式は滞りなく終わった。

 K駅に帰ってきて、心に余裕が出てきたのだろう、しみじみと、幸せな1日だったと思った。例外もあったが、皆、新郎・新婦の良いところだけを述べてくれて(普段、思うところもあっただろうが)、気分を害することは口にせず、とことん祝福してくれた。遠くから多数の親類や友人が駆けつけてくれた。人とのつながりが感じられ、心が温まった。正直、結婚式を挙げる前は、面倒くさい、こんな慣習なければよいのに、と思っていた。しかし、そういう考えは吹き飛んだ。

 そんな感じのことを、K駅からアパートに帰るまでに寄った飲み屋で、新婦に話した。

 新郎・新婦が式の帰りに飲み屋に寄るなって?


 最後に、これから結婚式を挙げる若人のために雑学を書いておく。

 日本では、スタッフは、心付け(チップ)を一度は断ることが様式美らしい。

 結納のときは、心付け自体を知らず、宴会中に親に言われて、急遽、お札をティッシュでくるんだものを準備した。そして、配膳をしてくださっていた若い女性に渡そうとしたが断られ、あっさり引っ込めた。その後、お袋が、そういうのは、最初は断られるもんなん()と、代わりに渡しに行って受け取ってもらった。

 結婚式では、そういった事情を知っていたから、一度断られてから、いえいえ大変お世話になった気持ちですから等々と述べながら渡すことができた。面白いくらい、全てのスタッフさんが、一度は断り、二度目は極めてあっさりと受け取られた。

 面倒くせえ民族だな、おい! と思う一方、儀式の一環を無難に遂行したような満足感もあった。


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