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菩薩に囲まれた!

 ご近所さんの中には、家庭菜園から好きに収穫してよいとおっしゃってくださる方がおり、そして、嫁は本当に勝手に収穫する。そう、嫁の辞書に「ご近所さんへの遠慮」という言葉はない。

 複数の世帯が家庭菜園の野菜をくださり、とりわけ、4世帯が頻繁にくださる。これは、ご近所さんがやっている河原の畑に我が家が隣接していることが影響している。しかし、頂くことに嫁が全く躊躇しないからではないかとも思っている。その躊躇の無さは、某大臣も愛読しているという人気漫画における、依頼された殺しを必ず成功させる眉が太く無表情な主人公を彷彿とさせる。


 ご近所さんは、我が家の呼鈴を押して玄関でくださることもあれば、いつのまにか郵便ポストの上に置いてくださっていることもある。我が家は外から庭が丸見えなので、庭で洗濯物を干している嫁に畑から話しかけ、収穫済みのものをくださったり、嫁に収穫するように勧めてくださったりすることもある。

 郵便ポストの上の野菜を見て、嫁は、

「傘地蔵みたいね~」

 と、のたまったことがある。

 その昔話は、雪の中、お爺さんに傘を被せてもらったお地蔵様が、お爺さんの家の前にお礼を運んだ話であって、お礼の心当たりが全くない家の前に野菜が置かれる話ではない。


 頂き物は、自作の野菜に限られない。ふるさと納税の返礼品をお裾分けして頂いたこともある。お中元やお歳暮を頻繁にお裾分けしてくださるご近所さんも存在する。ご近所さんではないが、我が家に隣接して駐車する釣り人が、自らの店の商品である豆腐をくださることもある。

 とにかく、我が家(嫁)は、よく食べ物を頂く。そのおかげで、肉以外は全て貰い物の鍋料理が食卓を飾ることもある。この令和の時代に、東京への通勤圏内で、である。

「今日のお鍋の材料費は300円よ~」

 知恵と工夫でコストを抑えたかのように、できる主婦面をするが、当然、認められるわけがない。


 食べ物を頂くだけなら、よくある話かもしれない。しかし、嫁の場合は、それに留まらない。

 戸建てに引っ越した直後、2軒隣の中学3年生(当時)の女の子が、近所に小さな双子が引っ越して来たと聞いて、

「お友達になりたい!」

 と、お菓子を持って訪ねてきてくれたことがあった。

 それから5年ほど経った、ある日、家に帰ると、その子が子供達の面倒を見ながら留守番をしてくれていた。嫁は風邪で病院に行っていた。その子も狐につままれた気分だったろう。


 深夜に台風が過ぎた日の次の日の朝、庭に設置していた自転車用のテントが無くなっていた。不謹慎ではあるが、心の奥で、いっそ、遠くへ飛ばされていれば、片付けなくてよいから楽だと思った。しかし、近くの畑で、あぜを背後にして鎮座していた。畑は荒れている。ご乱心召されたテント様が転げ回ったからかもしれない。とりあえず、テントを片付けた。そして、嫁に畑の持ち主を特定して、菓子折りでも持って謝りに行くように頼み、出勤した。

 嫁の報告では、畑に人がいるのを見つけたので謝ると、

「いいよいいよ、自然によるものだもの、しょうがないよ。全然気にしないで」

 と、明るく許してくれたらしい。そして、嫁は、その言葉通りに受け取り、菓子折りを買うことはなかった。


 我が家は、雨が降ったりすると、土が流れて行ってしまうようで、庭に穴が開く。嫁がご近所さんと話していたら、畑で余った土・石を用いて穴を埋めて頂けることになり、実際にやってもらった。

 もちろん、休日に土や石を買ってきて埋めればよいのだから、嫁ばかりを責めるわけにはいかない。穴があったら入りたい。


 我が家は畑をやっていないので、ご近所さんとギブ・アンド・テイクの関係にはない。せいぜい、帰省したときに買ったお菓子を配ったり、長野又は鳥取からの果物をお裾分けしたりする程度である。それでも、少しはお返しできたかと、ホッとする。

 しかし、お返しのお礼にと、当日若しくは後日に何かを頂いてしまうこともある。それも、有り合わせの物をくださるのではなく、わざわざお礼を買ってくださるご近所さんも存在する。こうして、振り出しどころか、振り出しよりも手前に戻ったりする。

 30歳のときに初めて眼鏡を買ったせいか、今も、近所を歩くときは眼鏡を掛けていない。だから、実は、嫁と違って、ご近所さんの見分けすらついていない。道で偶然お会いしても、お礼を言うこともできない。まさか、近所で誰かに会ったら、とりあえず、お礼を言っておく、というわけにもいかない。

 菩薩の修行には見返りを求めずに施しを行う布施行があるという。我が家は菩薩に囲まれている状態である。


 以下、物を頂いたことに関する雑多な話を挙げておく。


 ご近所さんは、子供に収穫させてくださったりもした。小さかった子供達は、収穫を楽しんでいたし、食べ物がどのように得られるのかということを知ることは教育によいと思った。だから、非常に感謝している。

 漫画では、収穫を手伝った子供が、自らが収穫した野菜に愛情を感じ、野菜嫌いが治るというエピソードを見かけることがある。残念ながら、そういった都合のよい話は現実化しなかった。


 幼児用の服や幼児用の器具(ベビーカー等)は、貰い物(主にお古)ばかりだった。嫁の親戚、嫁の友達あるいは双子ママサークルから頂く。ケイスケはクラスで一番小さかったから、クラスメートのお古を着ていることもあった。子供達が着る服のローテーションに、我が家で買った服が1着もないような時期もあった。

 服や靴には元の持ち主の名前が書いてあることもあるから、子供達が身に着けている服の名前を見て、

「お、今日は一郎(仮名)か」

 と、楽しむこともあった。まるでブランド名のようである。ただし、独特のセンスで服を購入するお宅は存在し、服のイメージと結び付くことによって本当にブランド名のように機能する名前もあった。どのように独特だったか、については、当人達が特定されることを避けるために詳述しないが、一例として、お子さん(会ったことない)の長い襟足を想像させるものが挙げられる。

 また、お古の中には、ケイタ君(実名)のものもあり、ケイスケは既出のアニメのケータくんに憧れていたから、喜ばせようと思って、

「それ、ケイタ君のお古だぞ」

 と教えてみたこともあったが、よく理解できなかったのか、逆に、ちゃんと理解して、つまらないジョークと思ったのか、特段、反応は無かった。

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